第24話:暗殺者アラム
テオとルーシー、ヨハン、キツネの四人は雑踏の中を歩いていた。
「なるほど、この格好ならスリに狙われないわけですね」
テオの言葉通り、この街の住人に溶け込んだ格好をした三人はあれ以来スリに狙われることはなくなった。
「気を抜かねえでくれよ。そんな恰好をしていてもテオ兄さんとルーシー姐さんは目立つんだ」
先導しているキツネが振り返りながら口を挟んだ。
「しかし、ただ歩くだけというのも味気ないのう。どこぞで飯でも食わんか?」
「あんたらが、金を、全部、すられたんだって!」
四人はらせん状に伸びる道を歩きながら丘を上がっていた。
「なんでこんなに回りくどい道なのさ?真っすぐ上がれないの?」
ヨハンが不満を漏らす。
「俺っちに文句を言わねえでくれよ。こいつは外部から攻められてきた時になるべく時間稼ぎするためにわざとこういう道にしてるって話だぜ?」
「直線の道がないということは矢などの射撃武器や投擲武器、直線的な攻撃魔法を防ぐという意味もあるのかもしれませんね」
とりとめもない話をしながら歩いていくテオにルーシーが近づいてきた。
「気付いているか?」
「ええ、四人ほどでしょうか」
「五人だな。一人は家の中を通ってきてるわ」
何者かが後をつけてきている。
巧妙に隠れてはいるが、殺気が膨れ上がってきている。
「問答無用のようですね」
「面白くなってきたわ」
テオは歩みを早めてキツネに追いついた。
「キツネ、次の角を曲がります」
「おいおい、そっちを曲がったら……」
言葉の途中でキツネもテオの表情から事情を察する。
「やべえのかい?」
「それはこれからわかりますよ」
そう言ってテオはヨハンの手を掴み、急に踵を返して細い路地に入った。
キツネとルーシーも後に続く。
「な、なになになに?」
「走りますよ!」
驚くヨハンの手を引いて路地の奥へ走るテオ。
いつの間にか肩にはルーシーが座っている。
更に細い路地へ入り、何度も角を曲がり、どんどん街の奥へと入っていく。
全くのでたらめに進んでいるからテオ自身も自分が今どこにいるかもわかっていない。
しかしその歩みが唐突に止んだ。
目の前に剣を構えた三人の男が立っていたからだ。
後ろからは同じように二人の男が。
「手こずらせやがって。この街で俺たちから逃げきれると思ってるのか」
目の前にいる男がニヤニヤと笑う。
「大人しく俺たちについてきた方が身のためだぜ」
「いえ、別に逃げようと思ってたわけじゃないので」
そういうとテオは手を掲げた。
「
その言葉と共にその男を除いた四人がくたりと地面に倒れ込んだ。
高いびきと共に眠りに落ちている。
「て、てめえ!魔術師か!」
急に前後不覚となった仲間を見て男が焦った声を上げる。
「あなたはダークロードの部下ですね?何故私たちがこの街に来たことを知ったのかは気になるところですが、今はそれを気にしても仕方がないでしょう。それよりもダークロードがどこにいるか教えてもらえますか?」
「そんなこと、言うわけねえだろ!」
言うなり男は踵を返して逃げ出した。
「
テオの詠唱で男の足下の土が隆起し絡みついた。
「ぐあっ」
地面に倒れ伏した男の全身を土で出来た蔦が絡みつく。
「拷問するつもりはありませんが、知ってるはは教えてもらいます」
「ま、待て、わかった、話す!何でも話すかっ」
焦って命乞いをする男の言葉が急に止んだ。
「!」
テオはとっさに後ろに飛び退った。
先ほどまで命乞いをしていた男は短剣を口に生やして絶命していた。
そして先ほどまでテオが立っていた場所にも短剣が刺さっていた。
「ほう、もう一人いたか」
にやりと笑ってルーシーが地面に降りた。
どこからともなく短剣が飛んでくる。
しかしその短剣はテオたちに触れることなく空中で弾き返され、地面に転がった。
テオの唱えた
「隠れていても無駄なことよ」
叫ぶなりルーシーが跳ねた。
そのまま家の壁を突き破り、中に飛び込んでいく。
瞬間、その家から飛び出す影があった。
着地するなりテオに向かって短剣を放ち、即座に別の家の中に飛び込み、その家の窓から更に短剣が飛んでくる。
その全てがテオの
詠唱を唱えるのが遅れていたら今の数秒でテオは全身を串刺しにされていただろう。
「まったくうざい奴よの」
いつの間にか戻ってきていたルーシーが不満そうに口を尖らせる。
「来ますよ!」
テオの言葉と共に頭上に影が差した。
上から短剣と共に人影が降ってくる。
弾かれる短剣を意に介さず、その影は着地と同時にテオたちの脇を走り抜ける。
「待っ」
そう叫ぶルーシーの動きが止まった。
反撃に転じようとしたテオも自分の体が突然重くなったのを悟った。
まるで泥の中にはまり込んだようだ。
行動だけではない、体を流れる魔素の動きすらも自由が利かなくなっている。
ハッと気づいて地面を見るとそこにはテオの影を刺すように短剣が突き立てられていた。
(影縫い!)
魔力の込められた武器を使って相手の攻撃はおろか魔力すら封じる特殊な魔法攻撃。
魔界にこの技を伝える暗殺集団がいるとは聞いていたが、実物を見るのはテオも初めてだった。
細剣を構えた影がテオに向かって走る。
「
細剣がテオに届く刹那、地面が変じた蔓が影に向かってまとわりつく!
「少しはやるようだが、まだまだよの」
「!?」
振り向こうとした影の顔面に自力で影縫いから脱したルーシーの拳がめり込んだ。
ガードに使った細剣をへし折り、影は吹き飛んだ。
しかし即座に体を捻って着地し、懐から取り出した短剣を構える。
それは先ほどロバリーの衛兵隊長の命令を受けていたアラムという男だった。
緑色の肌に灰色の髪の毛、長く伸びた耳が顔から横に突き出している。
既に体はズタズタだったが、それでもなおも向かってこようと身構えている。
その首には金色の首輪が怪しく光っていた。
「テオ、気付いておるか」
「ええ、隷属用魔具の一種のようですね。おそらく死んでも命令に従うように強制されているのでしょう」
「あれは我の宝物庫にあったものよ。
「つまり……」
「ああ、この街で間違いなかったらしいの」
テオはアラムに向かって近づいていった。
「テオ、危ないよ!」
ヨハンが叫んだがテオは何でもないというように手を振った。
事実、テオが近づいていってもアラムは動こうとしない。
いや動けないのだ。
アラムの足元に落ちた影、そこには先ほどの短剣が刺さっている。
影縫いだ。
「
「ふん、相変わらず抜け目のない男よの」
ルーシーが感心したようにつぶやく。
「ぐ……ぐぬぬぬあああああああっ!!!」
しかし、テオが一メートルほどまで近寄った時、絶叫と共にアラムが飛び掛かってきた。
意識の力だけで影縫いの拘束を打ち破ったのだ。
体にすさまじい負荷がかかっているのか全身から血が噴き出している。
しかしお構いなしで両手に短剣を持ち、テオに飛び掛かってきた。
まるで手負いの獣だ。
「
しかしテオの放った雷撃が寸前でアラムを捕らえる。
全身に雷撃を受け、アラムは吹っ飛んだ。
「申し訳ありませんが、これで終わりにさせてもらいます」
そう言ってテオはうつぶせに倒れているアラムの首に手を伸ばした。
尚も殺意のこもった眼で睨んでくるアラムだったが、既にその体は指先すら動かすことができない。
「
テオの唱えたあらゆる呪いを解除する魔法がアラムの首にかかっていた
アラムはがくりと首をうなだれ、気絶した。
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