第183頁 狐の面と燃える炎
急いで村に向かうと、そこは朝に出発した時とはかけ離れた、張り詰めた雰囲気に包まれていた。
農家の高齢者が農具を持って立ち向かおうとしていた。
女性や子供達は家の奥に隠れているのだろうか。
高齢者が若い盗賊団に勝てるはずもない。
「わ、わしは昔、スリーピングベアだって討伐したんじゃ……貴様らにはまだまだ負けんぞい!」
一人の老人の声に、他の老人も続く。
「そうじゃそうじゃ!死にたくなければとっとと帰るんじゃな!」
「「「かーえーれ!かーえーれー!」」」
一同団結して腕を上げる姿に、ナイフを持った盗賊団がしびれを切らして声を上げる。
「お前らァ!!黙って聞いてりゃ、自信過剰だったり帰れコールだったりうるせえ!そもそも、そんなハッタリとかで帰るなら、初めから来てねぇっつーの!」
「うむ、それもそうじゃな」
「一理ある。なるほど、少なくとも会話は出来そうだ」
「お前ら俺らをなんだとおもってやがる!!」
「人間をやめた何か」
「肥溜め出身の何か」
「ひ、酷い……!!こ、こいつら、絶対痛い目見せてやる……。姉貴、お願いしやす!!」
盗賊団の人が振り返り、腰を低くすると、そこには一人の女性が扇を仰ぎながら立っていた。
服は如何にも野蛮盗賊っぽく、燃えるような真っ赤な髪。両手からは微かな火花が散り、特徴的なのはその[狐の面]。それには自分も見覚えがあった。
面のせいで顔は見えないが、自分の中ではその人物だと確信を得ていた。
靴を鳴らして奥から出てきたのは案の定、その人物だった。
手には武器を持っておらず、それでも両手からは無詠唱で燃える炎が出ている。
「まぁまぁ、落ち着け。武力行使は行けない、少なくとも文明人でありたいからな」
圧倒的な存在感と、ずば抜けた戦力が感じられるその人は、落ち着いた口調でそういった。
厳し目の口調だが、それに対して盗賊団の部下達は何も思ってはいないようだ。
出てきた女性に、隣に居たティアが恐る恐る話しかける。
「あ……、あなたは誰?どうしてこんな村に襲撃を?」
かすれる声が耳に届いた女性は、「ははは、」と軽く笑って面の奥にある素顔を覗かせた。
彼女の顔が露になった時、確信は好奇心へと変わる。
面が取れ、声がこもらなくなった女性はニヤリと笑って口を開いた。
「ここは半龍族の村と聞いた。龍の角が高価で取引されているのは知っているだろう?少しばかり貰おうと思ってな」
バカ言うな。我ら龍族において、角というのは生きている証。それを人間ごときに譲ってしまえば、我らは生きる価値なしと定められるのだ。そんなの誰が許すか。
村の人にどよめきが走った後、女性は言葉を続ける。
「私の名は[リュカ・アザリア]。盗賊団リーダー【夜の炎狐】の方が良いだろうか?」
自身をリュカ・アザリアと名乗ったその女性は、その後面を側頭にやって溜め息をついた。
・・・・・
「ふざけるな!そんなの、許すわけがないだろう!」
盗賊団の襲撃理由に腹を立てた村人が怒声を浴びせる。
その声にもリュカは大きく反応せず、その赤と黄色の瞳でこちらを見つめた。
龍の角は確かに高価で取引される。されるのだが。
「ここに残っているのは龍化出来ない者ばかりじゃ!残念だったな、ばーーか!」
「「かーえーれー!かーえーれー!」」
さすが我ら半龍族。初対面の相手でも、襲撃の当事者にも喧嘩を売っていく。
逆に相手を煽らない方が礼儀が無いという考え方だ。
「姉貴、どうします?こいつら生意気ですぜ、命令があればすぐに殲滅しやす」
小さな声で盗賊団の一人がリュカに伝える。
数秒間沈黙が流れ、その声とともに戦いが始まってしまう。
「────やろうか」
「……ッ!!みんな、家に戻って身を隠せ!!ここは我とティアが引き受ける!」
少なくともこの中で一番強いのは自分とティアだ。その他は人間の方が強かったり、足でまといになったりするだけだ。
怪我をして薬草を使うのなら、家に隠れていて欲しい。
なんと言ってもその威圧。リュカのその一言で、何が良くない事が起きてしまうと野生の勘で察してしまったのだ。
仕方ない、と言わんばかりに老人たちはその場に武器を置いて家の方へ走っていった。
その後、横に立つティアが前を向いたまま言う。
「嬉しいなぁ、ルリ。私もここにいて良いんだ?」
「まあ、腐っても好敵手だからな。最期にお前の隣に立ててこっちも嬉しいぞ」
「何言ってるの、この先もずっと一緒なんだからね!そのためには……絶対勝つよ、ルリ!」
ティアは拳を握って腰を低くした。
あぁ、お前とならどんなことだって出来そうだ。
自分も息を吸って気合を入れる。
「盗賊団の……ばぁぁぁぁああか!!!!!」
「だから煽っちゃダメってええええ!!」
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