第51話 窓際クランとトレイン3
近づいてきているのは十匹のマッドフィッシュだった。
それを見てアルティナは小さく呟いた。
「多いな」
ユーリはアルティナのつぶやきを聞いて、盾を両手で構えた。
「何匹までなら問題ないんだ?」
「・・・六匹かな」
少し考えた後、アルティナがそう答えると、ユーリは向かって左側の四匹のマッドフィッシュに狙いを定めた。
「了解。じゃあ、四匹は俺が足止めする、よ!」
「な?ユーリ君!何を!?」
アルティナが手を伸ばしたが、その手をすり抜けるようにユーリはマッドフィッシュに向かって駆け出した。
「うぉらぁー!!!お前らの血は何色だー」
「ユーリ君!」
ユーリは訳の分からないことを言いながら大盾をかざしてマッドフィッシュはの群れに突っ込んでいった。
こんな時でもユーリの盾はユーリの魔力を吸って敵の注意を引きつけた。
ユーリのぶちかましを受けた一匹と周囲にいた三匹、合計四匹のマッドフィッシュは立ち止まった。ここ数日同じような行動を取っていたので力加減は完璧だ。残った六匹のマッドフィッシュが勢いそのままユーリの脇を抜けた。
アルティナはユーリのやりたいことを一瞬で理解し、剣を構えた。
そして、近づいてきたマッドフィッシュに向かって剣を振るった。
「あ!」
アルティナの剣は五匹のマッドフィッシュを倒したが、一匹だけ取り残していた。
生き残ったマッドフィッシュが勢いそのままにアルティナに向かって攻撃しようとする。
しかし、マッドフィッシュをの攻撃は飛んできた槍によって阻まれた。
「無理なら無理って言ってくれ!あいて!」
槍はユーリが投げたものだったらしい。
槍を投げて体制が崩れているところにマッドフィッシュから攻撃を食らっていた。
ダメージは大きくないようだが、なんとも閉まらない。
「ほら。残りも五体だから頼む」
ユーリはアルティナの隣にまで下がると、ユーリが抑えていた四匹がアルティナの方に向かってきた。
アルティナは難なくその四匹とさっきユーリが槍で足止めした一匹を倒した。
「その、ユーリ君?君は大丈夫かい?さっき、攻撃を食らっていたようだけど」
「あぁ」
ユーリは攻撃を受けた部分をアルティナに見せた。
服が破れ、中に隠れていた鍛え上げられたからだがあらわになっているが、傷らしき傷は見当たらない。
さすが土属性といったところか。
「あの程度なら大した傷にならないよ」
一方、アルティナは初めて見る男性の肌に真っ赤になっていた。
ユーリはその様子に気づかず、槍を引き抜いて次に備えていた。
「次は五匹そっちに行くようにするよ」
「は、はい」
そんななしをしているうちにも、マッドフィッシュはユーリたちに近づいてきていた。
「?まあいいか。アルティナ、次が来た」
「え?あ!わかった!」
アルティナは剣を構えた。
通路の向こうからまた十匹のマッドフィッシュが来ていた。
ユーリはさっき同様に突っ込んでいき、さっき以上の魔力を盾に込めた。
しかし、魔力が足りなかったのか、四匹しか止めることができなかった。
「ちっ!オメェはこっちだよ」
ユーリは脇を抜けていこうとしたマッドフィッシュのうち一匹のマッドフィッシュを槍でなぎ払った。
槍の攻撃はマッドフィッシュを捉え、一匹のマッドフィッシュがユーリの方へと標的を変えた。
「はっ!」
ユーリの後ろではアルティナが手早く五匹のマッドフィッシュを倒していた。
ユーリはアルティナが五匹を倒したのを見て下がろうとした。
しかし今度はアルティナがユーリの前に出ることで、マッドフィッシュを倒してしまった。
アルティナは剣についた泥を剣を振るうことで弾き飛ばした。
そして、ユーリの方を見ると、ユーリの盾はマッドフィッシュの攻撃を受けた時に付着した泥で泥まみれだった。
今までは気づかなかったが、その盾には多くの傷が刻まれていた。
「ユーリ君はいつもこんな危ないことをしているのかい?」
「危ない?あぁ。俺にとっては大したことないからな。防御力には自信がある」
明るく笑いながらユーリはそういった。
そこには義務感や恐怖は感じられない。どうやら彼に取ってはモンスターの攻撃を受けることは当然のことらしい。
そんな話をしていると、マッドフィッシュが近づいてきていた。
そのマッドフィッシュの向こうにもマッドフィッシュの群が近づいてきているのが見える。
「?お、次が来たぞ、アルティナ。今度は休み無しみたいだけど、大丈夫か?」
ユーリが盾を構えながらそう言うと、アルティナはその隣に立ちながら剣を構えた。
「アルでいいよ」
「?」
突然の発言にユーリが横目でアルティナを見ると、アルティナは柔らかく笑いながら剣を構えていた。
ユーリは作り物じゃない彼女の笑顔を今日初めて見た。
それは芸術品などよりずっと綺麗で生気に満ち溢れていた。
ユーリは思わずその笑顔に見ほれてしまった。
「アルティナじゃ長いだろ?だから、アルでいい。親しいものは皆そう呼んでいる」
笑顔に見ほれていたユーリははっと我に帰り、盾を構え直した。
そして、にっと笑った。
「そっか。じゃあ、行くぞ!アル!」
「任せるよ。ユーリ」
マッドフィッシュは数え切れなないほど近づいてきている。
普通なら絶望するほどの数だが、この二人でならきっと大丈夫。
ユーリとアルティナは根拠のない自信を持っていた。
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