第49話 窓際クランとトレイン

 ユーリがアルティナの後ろを歩いていると、アルティナはユーリの方へ近づいてきた。

 ユーリの隣まで来ると、アルティナは微笑んだ。


「どうだい?」

「デートに付き合わされる彼氏の気分がよくわかるよ」


 両手いっぱいの荷物を見ながらユーリがそういうと、アルティナは可笑しそうに笑い出した。


「ははは。それは良かった。でも、僕が言ってるのはそっちじゃなくてさ、参考になったかい?ってことだよ」

「あー。そっちか」


 ユーリは苦笑いした。


「アルティナは強すぎだよ」

「はは。だから言っただろ?ユーリ君には負けるつもりはないって」


 自信満々に言うアルティナに、ユーリは驚いた。

 もっと冷めたやつだと思っていたが、その言葉には強い決意のようなものがこもっていた。


 アルティナがどういった理由でそう思っているのかはユーリには分からなかった。

 しかし、ユーリには一つだけ言えることがあった。


「・・・そうだな。たしかに、俺には勝てないかもしれない」

「?」


 不思議そうな顔のアルティナにユーリはニヤリと笑い返した。


「でも、俺たち。なら勝てるかもしれないとは思ってるよ」


 アルティナは一瞬キョトンとした顔をした後、攻撃的な笑みをユーリに向けた。


「まあ、やってみてくれ。楽しみにしているよ」


 ユーリたちが話をしていると、進行方向から言い争うような声が聞こえてきた。


「ん?何かあったのかな?」

「妙だな。三人とも、少し止まってくれ!」


 ユーリが静止を呼びかけると三人は怒りの形相で振り向いた。


「はぁ?荷物持ちの分際で何指図してんのよ」

「身の程知らず」

「ちょっと教育が必要ね」


 三人は後ろでアルティナと楽しそうに話しているユーリに対して苛立ちを感じていた。

 しかし、アルティナが楽しそうなので、声をかけるにかけられない状況だった。

 そこにユーリから声がかかったので、攻撃的に返してしまった。


 アルティナもユーリもその状況を理解して、苦笑いをした。

 そして、アルティナが三人に近づきながら優しくいった。


「三人とも、申し訳ないけど、僕の後ろに隠れていてくれるかい?」

「「「はい!わかりました!アルティナ様!!!」


 三人はアルティナの指示に一瞬で後ろへと移動した。その様子にアルティナは満足げな微笑みを三人に向けた。三人娘はキャーキャー言いながらその様子を喜んでいた。

 ユーリは荷物を近くにおろしてアルティナの隣に並んだ。

 ユーリは盾をアルティナは剣を構えた。


 遠くからは何かが近づいてくる音が聞こえる。

 その数は10や20ではない気がする。


「ユーリ君はどう思う?」

「トレインかなー」


 アルティナの問いにユーリは答えた。

 アルティナは通路の先をにらみながらユーリに聞いた。


「トレイン?」


 アルティナの問いに、ユーリはゲーム用語を使ってしまったと悟った。

 最近はフィーもレイラもある程度のゲーム用語を覚えたので、普通に使ってしまっているので、気づかずに使ってしまったらしい。


「モンスターを引き連れて逃げる行為のことだよ。遠くの国に馬車をいくつも繋げて強力な竜に引かせる電車っていう乗り物があって、後ろにモンスターを引っ付けて電車みたいになってるからそういうらしい」

「へー」


 ユーリはいつものように異国の言葉ということで流した。

 この国には多くの異国人が来るため、こういっておけば、特に問題にならないと少し前に気付いたのだ。


 そんな話をしているうちに、通路の向こう側から人影が見えた。

 四人は探索者のようだった。装備から考えるにユーリたちと同世代のようだ。


「五階層で勝手がわからずって感じかな?」

「そうみたいだね」


 五階層は一番死者が出やすい階層だと言われている。

 四階層まで順調に攻略してきて調子に乗っているパーティが多いこともあるが、五階層では大きな変化があるためだ、

 五階層からはミニシーワーム以外のモンスターが出てくる。

 そして、その全てがミニシーワームより素早く動く。

 今までは簡単に逃げきれていたのに逃げきれないと言うことはよくある。

 おそらく、彼らもやってみて無理そうなら逃げようととか考えて戦いを挑んで、逃げきれずに困っているのだろう。


「逃げるのが正解だけど、助けるんだろ?」

「当然」


 他の探索者のトラブルを目にすれば巻き込まれないように逃げることを探索者ギルドは推奨している。

 二次被害や探索者間のトラブルを防ぐためだ。

 しかし、この高潔な探索者のはきっと困っている人を見捨てたりしないだろう。


 少し前にも同じようなことがあって、その時は知らずに逃げられなかったが今回もどうやら逃げられないようだ。どうやら、イベントごとからは逃げられない体質らしい。ゲームじゃないんだからと思わなくもないが。

 ユーリはアルティナに一瞥して苦笑いをした後通路の奥を睨みつけた。


 どうやら、逃げてくる探索者もこっちに気づいたようだ。

 こちらに向かって声をかけてきた。


「ひー」

「助けてくれー」

「死にたくない死にたくない死にたくない」

「おかーさーん」


 四人の探索者がこちらに向かって一目散に逃げてくるため、後ろにいるモンスターを見ることができるようになった。

 彼らの後ろには五匹のマッドフィッシュが追いかけていた。

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