第20話 覇者(女剣士)勧誘

 アモスは覇者の話を聞いていた。

 すると沢山の経験を経てここまで到達したとのこと、

 ある時はどこかの剣闘士という奴隷になり、コロシアムで命がけの戦いをしてきたこと。

 コロシアムの牢獄で、体を鍛えすぎて、

 しまいには牢屋番とかその国にいるすべての兵士をぶっ殺したことにより、

 周りからは覇者と呼ばれるようになったこと。


 それから修行の毎日でありながら、この剣豪の谷に落ちてから、100年ほど、さ迷い続けて、強いモンスターが出たら片っ端から倒している。


 いつしかこの剣豪の谷から脱出することをあきらめていた。

 そんな時にアモスが空から落下してきたということだ。


 一方でアモスも1500年生きてきたことなどを告白すると、

 目の前のダークエルフはにかりと笑って、そのようなことは当たり前だという。


 アモスとしては信じられない反応だった。

 女性だから年齢を聞けないし、


 鑑定でもそこは表示されなかった。


「人間にとって長く生きるということはとても耐えられないことなのです」

「そうなのか? ダークエルフにとって数千年の寿命は当たり前だぞ?」


「人間全員が数千年の命なら、いいのかもしれません」

「どういうことなのだ?」


「わしの周りではわし以外の人間がほとんど死に絶えております。わしを知っている人間はあまりおらんのです。寂しいといいますか」


「そうか人間は、確かに1人では生きてはいけぬのかもしれぬなぁ」


「覇者殿、折り入ってお話があります」

「どのようなものでもたのめ、ただし条件があるが」


「それはどのような」


「この剣豪の谷から救ってくれればな」


「お安い御用です」


「では頼みとやらを聞こう」


 アモスはこくりと頷いて、目の前のダークエルフを見ている。

 小ぶりな胸はそれだけで女性としての威厳を示しているかのようだ。


「わしのダンジョンの8階層を守っていただきたい、冒険者がやってきます。その人たちをぼこぼこにしてください、あなたも冒険者も死んでもよみがえるのでご安心ください」


「ふむ、そうか、そういうことなら、いいだろう、ただし、復活ポイントとやらはなしだ。死ぬときは死ぬ、それが剣士の生き方だ」


「ですが」


「ようは死なないで負ければいいのだろう?」


「は、どういうことですか」


「お主が呟いた冒険者はとても大事な人なのだろう?」


「そ、そうです」


「ならこちらが負けるときは、潔く負けを認めるさ」


「そうですか、本当にありがとうございます」


「さぁて、外の世界の空気を吸うのも久しぶりだなぁ」


「あなたはテレポートが使えないので、わしが案内します。詳しい内容はメイド長のリンティンに聞いてください、わしは冒険者の仲間のふりをして指導しているので」


「ふ、賢者殿も忙しいものだ」


「その方法こそわしがこの命から解放されるすべなのです」



 覇者はとても寂しそうな顔をして、こちらをじっと見ていた。

 アモスは泣き笑いのような顔で覇者を見ていた。


―――???―――


 アモスはダークエルフの覇者をアモスの大迷宮の最上階に運ぶと、

 後はリンティンに任せて次なる場所に到達していた。


 そこは巨大な墓場。

 誰の墓場か一目瞭然。

 だけど誰なのかを尋ねることはしない、

 少しの呪文と、少しの祈りで、

 そいつは現れる。


 アモスはそいつとご対面すると。


「おっひさー、ひさしぶりのなっちんぐ」


「相変わらずですね」


「そうですかーなっちんぐなっちんぐ、あの世に行ってから長い間なっちんぐ」


「よく奥さんにどやされませんね」


「すびまぜんのだ。しばらくあの世でハッピーライフをしていたのさ」


「あなたの関係者が一生懸命戦っているのに」


「なっちんぐ、わっちんぐはもう引退がご対面」


「いつもいつもあなたの意味の分からない言葉を聞いていた気がします」


「それが普通なっちんぐ」


「そのなっちんぐとはどういう意味ですか」


「元の世界の言葉っちんぐ、ありえねぇとかいろいろあるっちんぐ」


「そうでしたね、あなたは異世界召喚できたのでしたね」


「そのとおりっちんぐ」


「ではお願いがあります。9階層のボスとしてあなたを招待します」


「えーめんどっちんぐめんどっちぐ」


「あまりふさげないでください」


「ふ、それもそうだな、賢者よ、お前は長く生き過ぎたようだな」


「突然の変わりようにそれはそれで怖いですが」


「まぁよかろう、関係者とやらをぼこぼこにしてやるぜ」


「期待しています。最終的にはわしを殺せればいいのですが」


「その時にはもしかしたらお主は死にたいとは思わないかもしれないのう」


「なぜです?」


「こうやって魂の状態の奴とお前は話すことができるが、それは限られた時間だ。だからお前はあの世で今まで亡くなった人々と話がしたいのだろう?」


「そうですよ」


「それが逆に働くかもしれん、もしかしたら死んだ人ではなく生きている人と話がしたいとなるやもしれぬ」


「つ……」


「まぁ人生それぞれじゃ」


―――始まりの街―――

 

 遥か昔の旧友を誘い終わると、

 アモスはアモスの大迷宮に戻った。

 ベッドにゆっくりと老いた体を横たえらせると。

 隣にリンティンがやってくる。


 彼女はこちらをじっと見ていて、

 こくりと頭を下げる。


「いってらっしゃいませ」


「いってくるよ」


 アモスはゆっくりと目を閉じた。

 そこには分身体であるドッペルゲンガーが呆然と立ち尽くしており、


 アモスはロンパになるのだ。


 ロンパになったアモスはドッペルゲンガーの体の中で、深呼吸をしながら、

 20歳に若返った体を。ゆっくり動かし、次の瞬間にはテレポートしていた。


 向かう先は始まりの街。


 

 1日前から魔王と覇者と強者を集めてきた。

 魔王は先代の魔王の弟。

 覇者はダークエルフの美女

 強者は謎の幽霊。


 次の階層はドラゴンの間であったはず。

 これは単体で、とてつもなく強いドラゴンが相手となる。

 

 宿屋に到達すると、

 そこには食堂で朝飯をがっつり食べている勇者メイルンがいた。

 隣ではケーキをおいしそうに食べているネネーネがおり、

 ドースンは小さくした武器を磨いている。


 そこにはありふれた冒険者の3名がおり、


 最後の1人は窓から外を見ている男性がいる。

 彼はフィーズであり、なんか格好をつけている。


 ロンパが入ってくるのを見ると、あわててフィーズは走り出した。


 こちらにやってきて、頭を下げる。


「師匠、いつでも準備できてます」


「フィーズ、よろしくな」


「もちろんです」


「がふがふがふ、師匠、お久しぶりでござっす」

「師匠、今ケーキタイム」

「うお、いいところにきたのう」


「ではみなさん、準備が整い次第出発です」


「「「「うっす」」」」


 なんか暑苦しい言葉が返ってきた。


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