心配性のボディガード
「何故行ってはいけないの?」
真っ白い大きな円形のテーブルを囲んでシンプルな妖精の絵が描かれているティーカップを持ちながら少女は少しだけ不機嫌な様子で聞き返した。
「ですから、前回もかなり危険な目に合ってるじゃないですか」
男はヤレヤレといった口調で応える。
「でも、前回は犯人が空手の有段者だったからでしょ?それに、それでもまだ余裕がある様に見えたけど?私少しだけ見直したんですよ」
「……そりゃどうも」
男は「少しだけ」の所が気になったが、概ね褒められた事に納得しながら自分で淹れた紅茶に口を付けた。
最近ではメイドの桜庭が忙しい時などに何度も紅茶を淹れさせられる為、もはや紅茶係の様な扱いになって来ているのがボディガードとしては釈然としない。
「それに今回の被疑者の中には格闘経験者は居ないでしょ?どう考えても私が直接いった方が早いわ……あと、紅茶の淹れ方上手くなったわね
そう言って少女は男に淹れて貰った紅茶を口の高さまで持ってくると飲まずに香りを愉しんだ。
「……そりゃ、どうも」
あまり褒められた事がないので少しだけ気がゆるんで今回も事件へ首を突っ込む事を許しそうになったが、友人の言葉を思い出して
「今回の犯人はサイコパスの可能性がある」
友人の刑事からそう告げられていたのだ。
「駄目です、今回の犯人はサイコパスかもしれませんから」
男は断固として駄目という様に元々細い目を一層細くして言った。
「あら、そんなにサイコパスが怖いの?裏山流師範代が?」
男はそんな挑発には乗りませんと言いたげに無言で紅茶を飲んだ。
「あぁ、また見たかったんだけどなぁ、
合気道などが相手の攻撃を利用して投げ飛ばしたりするのと似ているが、カウンター攻撃の怖いところは、相手の攻撃力の上に自分の攻撃力を上乗せして返せるところにある。
つまり、相手の攻撃が強い程に致命的な打撃になり得る。
もちろん、相手の繰り出した攻撃の先を読んで(若しくは相手が攻撃してきた後に)相手より早く打撃を与えるなんて事は普通は出来ない。
ボクシングの試合でも稀にクロスカウンターが決まる場合があるが、狙って出せる選手となると未だに漫画の世界にしかいないのだから。
男は図らずも奥義を出さざる負えないほど相手が
「
「どう強敵なのよ」
少女は負けじと目を細めて聞き返した。
「実際に結構鍛えている人でもなにもしていないサイコパスに殺されるという事件はよくあるんですよ」
「あら、なぜ?」
少女は純粋に興味が湧いた時に見せる顔をした。
「
「躊躇?」
「そう、普通は有段者同士が対峙した場合でも急所を狙う場合は無意識に躊躇してしまいます」
「そうは見えなかったけど、この前は」
「ええ、体感でコンマ何秒の世界ですから普通の人から見たら全く躊躇してないように見えますが僅かにあるんです」
「なるほど」
「ところが稀にその躊躇がない人間が居るんです」
「それがサイコパスってわけね」
「その通り」
「ふうん」
尚も納得しかねる様なニュアンスの声だ。
「それに、その場で無事だったとしても、後で何をしてくるかわかりませんからね、サイコパスは」
「あら、それは偏見だわ」
「偏見?」
「普通の犯罪者だって逆恨みくらいするわよ」
男は普通の犯罪者という言い回しに少し笑いそうになったが、なんとか
だめだ、また、これではいつものように振り回されてしまう。
なんとか、興味を他の方へ向かわせる手はないだろうか?
「でもですね。今回はお嬢様の出番はないみたいですよ」
男は別の角度から攻めることにした。
「あらなんで?」
「どうやら、関係者の中にとんでもないキレ者がいるらしいんです。まるでかの名刑事、コロンボの様な」
「あら本当?」
「本当です」
「ふうん、それが本当なら任せても良いかもね」
「その通りです」
「それは良いけど、お嬢様はやめてと言ったはずだけど」
「すみません。
男は我ながら良い機転がきいたと心で自賛した。
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