肩パン

 中ニの夏頃、スリッパの裏を一部くり抜いて壁に飛ばし破裂音を響かせる遊びの次に流行ったのが肩パンだった。肩パンは単純な遊びで、ただお互いの二の腕をグーパンチで殴るだけのこと。それを繰り返し喜び合う波は陰キャの僕たちのもとまで押し寄せてきた。


 殴り殴られ続けた僕らの右の二の腕はやがて肥大化しカッターシャツの袖が通らなくなったので男子生徒のほとんどが右の袖だけノースリーブになった。


 小池はクラスで唯一のサウスポーとして左の袖を破っていたのでたちまち女子たちにモテ始めた。だから陽キャたちの間では左側の肩パンが流行し、すぐに両側ノースリーブになった。「モテ」に対する羞恥心が強い僕たちはいつまでも右肩パンを続けていたので不均衡は加速の一途を辿った。


 終業式の校歌斉唱中に右腕の重みに耐えられなくなった澤田が転倒したことで事態を重く見た学校側は肩パンの禁止を校則に追加した。


 僕たちは夏が過ぎ冬が来ることを危惧し制服に腕を通すためなるべく腕を使わないように夏休みを過ごした。だから陰キャのほとんどは夏休み中に足使いが上達しサッカー部だった僕は補欠からレギュラーに上がったどころか市の選抜選手にも選ばれ高校のスカウトに声をかけられた。制服のことがなくても気の小さい僕たちには校則を破るなんてことはできなかった。


 夏休み明け、遅れて教室に入ってきた陽キャたちは上半身が肥大化し肉団子のような姿になっていた。彼らはカッターシャツ四枚でたくましい肉体を覆っていたのでシュウマイみたいだった。


 陽キャは僕たちを見て目をひんむいた。それもそのはず、夏休み中の日常生活を足のみで行っていた僕らの下半身は肥大化しほとんどその上に頭が乗っていたのだ。股下百センチ以上の僕たちが女子にチヤホヤされるのを陽キャたちは憎らしげに見つめていた。始業式のあと突っかかってきた陽キャの近藤を澤田がひと蹴りで文字通り一蹴したことによって僕たちの評価は鰻登りだった。しかしそれも足の力が腕の力の三倍ほどであることを考えれば当然の結果だった。


 しかし陽キャたちのモテることに傾ける力は侮れない。二週間もすれば全身肥大化した彼らの身長は優に三メートルを越えていた。萎縮した僕たちは彼らのひと睨みで元の体に戻ると大人しい彼女と本や映画について語り合いながら穏やかな学校生活を送った。

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