第3話 変わりはじめた日常
「あー。そういうことか。」
明たちによると昨日の一件で明たちの家も半壊したらしい。そこで明たちの家族は親戚や友達の家にバラバラに居候しているらしい。茜の方もだいたい同じ事情だった。
「分かった。美菜、このこと母さんは知ってるのか?」
「うん。」
ならいいか。賑やかになるのは良いことだ。
「なあ翔太。」
「ん?」
「その腕どうした?ゲーセン行ったときはそんなのなかったよな?」
俺は昨日ライトニングパンサーと戦ったことを話した。話終わる頃には明は腹を抱えて笑っており、茜は顔面蒼白になっていた。
「おいおい。もっとマシな嘘ならいくらでもあるだろ。よりにもよってこんな・・・」
「嘘じゃない。これを見ろ。」
昨日家に帰って着替えたとき、ライトニングパンサーの牙が入っていた。この牙は金色でタイクエをやってる奴なら一目で分かる。
「・・・マジで?」
「おう。」
「その時にやられた傷なの?」
「そう。飛びかかってきたのを躱しきれなくてな。」
「なんでそう無茶ばっかすんのよ。馬鹿…」
「傷は痛まないのか?」
「ああ。もう大丈夫。」
「ならさ、久しぶりに対戦しようぜ!」
「こんな時にか?」
「大丈夫だろ。今は自衛隊の人もいるし。」
明はどこまでも楽観的だ。
「お兄ちゃん!私もやる!」
「美菜まで…」
「私もやろうかしら。」
なんで皆乗り気なんだろうとも思ったが、俺にもゲームしたいと思う心はある。結局その日はみんなでゲームして過ごした。
2週間後
学校はずっと休校。ニュースでは謎の光が日本各地で起こっていることがしきりと報道されている。そして昨日、なんと浜松市でライトニングパンサーらしき物が現れ街を破壊。4日前には彦根市で大きな熊、多分ハードベアーだろう。こいつが街を破壊して回った。他にも横浜市の鶴見の方でソード・ビーが発生し被害が出たり、前橋市でオーガが現れ行方不明者が続出した。
そして今、俺らは横浜市の関内のおじいちゃんたちの家の近くの避難所にいる。おじいちゃんたちの安否を確かめておきたかったのだ。明と茜、美菜もいる。最初は1人で行く予定だったがついて行くと言って聞かなかった。しかし
「嘘・・・」
俺たちは呆然と立ち尽くしていた。美菜は泣きじゃくり、茜と明も黙っている。なぜこんなことになってるかというと
約10時間前
「あちゃー。やっぱ京急も京浜東北も止まってるかあ。」
「タクシー呼ぼうぜ!」
「いくらかかると思ってんのよ。」
「どうするの、お兄ちゃん?」
「お、なんとか横須賀線は動いてる。」
俺たちは横須賀線で横浜まで行き、そこからタクシーを呼ぶことにした。
「まずは品川に出よう。」
「もう夕方だよ。行けるのか?」
「着くのは夜になりそうね。」
「ウゲェー」
そして俺たちは30分程かけて品川へ向かっている。
「うわ!なんでこんなに人が!?」
「帰宅困難者たちが何とかして帰ろうとしてるんだって。ニュースになってるわ。」
茜がスマホを見せてくる。そこには品川駅や川崎駅などが混雑しており、入場規制がかかっているらしい。
「こりゃ夜中になりそうだな。」
「ええ。困ったものね。」
「お兄ちゃん。夕食は?」
「最悪、抜きになるかもな。」
アナウンスが品川へ到着することを告げる。ホームを見るとすごい人だかりだ。これは本当に夜中になりそうだな、とため息をつきながら電車を降りた。
夜
あと1、2時間で日が変わるごろ俺たちは何とか横浜駅に着いた。もう飲食店は閉まっているので仕方なくコンビニでいろいろ買って食べていると轟音が響いた。
「おい。あっちって…」
「関内の方ね。」
「くそ!急ぐぞ!」
「お兄ちゃん!待ってよ〜」
俺はいても立ってもいられず走り出した。やっぱり足が速くなってる気がする。いや。後ろに美菜たちもしっかりついて来ている。気のせいだろう。
しばらく走ると桜木町辺りに来た。もうヘトヘトになったので少し休憩していると母親からメールが来ていた。確認すると、今から30分前、母親におじいちゃんから電話が来たらしく、それにはグリズリーらしき魔物が家の周辺を荒らしていて今から避難すると言っていたらしい。
「それで?ママはなんて言ってた?」
「俺たちが無事ならメールしてくれってのと、行けるなら避難所へ行っておじいちゃんたちのに会ってこいだって。無茶はしないで、って来てる。」
「避難所はどこなんだ?」
「ここから多分15分。」
「ならもう一走りしようぜ。」
俺たちは避難所へ向かって走った。しかし避難所に近づいているはずなのに全く人影がない。
「なんで、こんなに、人がいないの?」
「もう皆、避難したんだろ。」
「そうあって欲しいわね。」
「・・・」
(嫌な予感がする。もしかして皆、避難できずにやられた?いや。そんなことは考えるな。)
「お兄ちゃん?」
「あ、ああ。大丈夫だ。」
いかんいかん。こういうことは考えすぎが一番良くない。今は頭より足を動かそう。
「ほら。もう少しで着くから急ぐぞ。」
「分かった。」
そして俺たちが母親のメールが示してある場所に来たとき
「え?」
そこには立ち並んでいたはずの建物も、避難しているはずの人影も無く、瓦礫の山がそこにあった。
「嘘・・・」
「なあ!あそこに埋もれてる人がいないか!?」
「ほんとだ!翔太!行くぞ!」
俺と明は瓦礫の山から人の手が出ているのを見つけたので助けに向かう。もしかしたら生きてるかもしれない、という淡い期待がそこにはあった。
「翔太。俺が上の瓦礫を持ち上げるから、お前は人を引っ張ってくれ。」
「分かった。」
「行くぞ。せーの!」
明が瓦礫を少し持ち上げた瞬間、一気に人を引っ張り上げた。
「あれ。思ったより軽・・・」
「ハア…ハア…どうし・・・」
俺が今持っているのは、生きた人ではなく、無理矢理千切られた上半身だった。目は飛び出ていて顔は潰され、腕は変な方向に曲がっている。ゾンビのようだ。
「2人とも!どうし・・・」
「茜!来るな!」
茜にこんなものを見せてはいけない。明も顔を青くして、震えている。
「なによそれ!一体何が・・・」
気づいた時には遅かった。茜と美菜は思いっきりこの嬲り殺された死体を見てしまった。
「お兄ちゃん。これって・・・」
「・・・」
茜は走ってどこかへ行ってしまった。少しすると咳こむ音とベチャっとする音が聞こえてくる。きっと吐いてるのだろう。そっとしておこう。
「お兄ちゃん…怖いよ・・・」
「大丈夫だ。心配するな。きっとおじいちゃんは無事だよ。」
今の俺には妹を慰めてやることしかできなかった。
「ねえ。これからどうするの?」
少しやつれた顔をした茜が聞いてきた。
「俺は一度じいちゃん家に行く。」
「え…、でもおじいちゃんはもう…」
「やめろ!」
「ごめん…」
思わず怒鳴ってしまう。心の中では正直じいちゃん達が生きてるとは思ってない。それでも確かめずにはいられなかった。
「悪い。感情的になった。」
「いや、別に良いわよ。今のは私が悪いから気にしないで、ね。」
その時意を決したかのように明が声を上げた。
「俺は翔太についてく。」
「わ、私も!」
「茜は?」
「もちろん私もいくわよ!」
なら決まりだ。
「行くぞ!」
胸に大きいな不安と不吉の塊を持ちながら、おじいちゃん家に急いだ。足取りは重く、走る元気もない。すると、
「なあ。あれ・・・」
明が指差した方を見ると、大きな赤い熊が暴れているのが見えた。
「クリムゾンベアーかよ。」
「ライトニングパンサーよりはマシ…なのか?」
「まあ、な。」
ゲームでは攻略難易度は天と地の差だがどっちも今の俺たちには危険だ。マシも何もない。
「見つからないように、急ごう。」
「おう。」
俺たちは真夜中の道路をひたすらに走った。
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