第32話

「──お呼びですか、陛下」




 勝手知ったる女王執務室へと、直属の部下であるメイドが当然のようにして、顔パスで扉を開けてくれるとともに入室して、大きなマホガニーの執務机にて、いかにもなしかめっ面をして職務に邁進している二十代半ばの女性──このネオジパングの最高権力者であり、王都ネオトウキョウの都知事でもある、シラユキ=ホワンロンに向かって、私こと、女王親衛隊長兼近衛師団長メイ=アカシャ=ドーマンは、挙手の礼をしながら声をかけた。(※軍隊における正式な礼式である『おじぎ』では無いのは、我がメイド隊においてはヘッドドレスは、正式なる『軍人の制帽』扱いだからです)




「……ああ、メイ、ご苦労様、そこに座って。今、お茶を用意させるから。──メリーベル、お願い」


「──メイ隊長、どうぞ」


「……ああ、どうも」


 女王が一言声をかけるだけで、文字通り打てば響くように、まったく気配を感じさせずに忍び寄り、私へと紅茶入りのカップをソーサーごと差し出す、女王専属メイドにて、こちらも私の直属の部下である、近衛師団、メリーベル=ポイッツネル。


 ……しかし、メイドがメイドに傅いて接待をするって、絵面的にはどうなのよ?


 まあ、女王の護衛こそが主任務である、我々女王親衛隊の制服が、メイド服なのは仕方ないことだけどね。


 そんなことを思いながら、もはや遠慮なぞすること無しにソファにどっかと座って、カップに口を付けようとしたところで、おもむろに声をかけてくる女王様。




「さて、ここで問題です。キャラ名が『メリーベル』と言うことですが、彼女こと通称『ベルちゃん』は、外見描写のほうは、『○ーの一族』系でしょうか? それとも『ター○エー』系でしょうか?」




 ──うおっと。


 もう少しで、お茶を吹き出しそうになってぞ、このアホ女王が!


「何をおっしゃっているんですか? 一応今回の【ハロウィン特別編】は、『某少女漫画界のレジェンドの生誕70周年記念企画』も兼ねているんだから、『○ーの一族』系のほうに決まっているでしょうが⁉」


 いやむしろ、いくら名前が『メリーベル』だからって、『ター○エー』系のほうが登場してきたら、それはそれですごいと思うけど。


「あ、でも、はぎ○先生は、『ター○エー』にも、関係なされていたはずよ?」


「えっ、そうでしたっけ?」


「ええ、確か、スニ○カー文庫版の、カバーイラストと口絵をご担当なされていたわね」


「──ああ、そういえば、すげえ美少年のロ○ンのイラストを、当時テレビのCMかなんかで、見た覚えがあるような⁉」


 もうね、『残酷な神が支○する』のジ○ルミかって感じで、一目見るだけで、グ○ン卿がまっしぐらに飛びついてくるんじゃないかという、いかにも中性的で色っぽいやつだったよな。


「いやでも、『ター○エー』のメリーベルをキャラデザしたのは、萩○先生ではなく、別の方でしょう? 確か有名なゲームの絵師さんだったと記憶しておりますが?」


 なんか、『ストーリーでファイトしたりする』やつとかの。


「だったら、通称が『ベル』で、メイド姿だから、現在絶賛放映中の「──うわあああっ、だからそのネタばかり持ち出すのは、やめてくださいってば!」


 あまりしつこいと、そのうち怒られるぞ?


 このように本作のあまりに危うい現状を、真剣に危惧する私を尻目に、可愛らしく両手を胸の前で打ち合わせながら、更なるとんでもない問題発言をぶちかます、女王様。




「──だったら、いっそのこと、『Kisetsu先生の手による、「○ーの一族のメリーベル」の、二次イラストみたいな容姿をしている』、ってことにいたしましょう♡」




 ……こ、この人ときたら、言うに事欠いて「──いいですね、それって!」




 もうね、一も二もなく、賛同いたしましたよ!


 何せK○先生と言えば、『アズ○ン』公式の『ベルフ○スト』嬢のキャラデザの美麗さは言うに及ばず、個人的に活動しておられる、『艦○れ』二次創作における『艦む○』たちの、みずみずしい可憐さときたら、もう!


 そんな先生が、『○ーの一族のメリーベル』を描かれたりしたら、ネット上の二次創作イラスト界に、どんな奇跡が舞い降りることか⁉


 いや、もちろん、『原典オリジナル』のメリーベルの、『永遠の少女』性は、絶対不可侵の美の最高峰であることは、否定しませんよ?


 ただ、まったく別の方向性の──ぶっちゃけ、K○先生ならではの、『百合の花の香り』がそこはかとなくかもし出されている、『GL版(?)メリーベルちゃん』も、是非とも一目なりとて拝ませていただきたいではありませんか♡




「……いやいや、いくら私たちにとっては『部下』とはいえ、なに他人様の容姿を勝手に決めようとなされているんですか⁉ ベルにはベルの容姿が、元からちゃんと備わっておりますでしょうが!」




 あまりに魅力的な提案を受けて、ついうっかり悪ノリしそうになったものの、ギリギリで踏みとどまることに成功する、一応は『部下想い』で定評がある親衛隊長。


 ……何せメリーベル嬢はしっかりと、複雑に編み上げられたブロンドヘアと、縁なし眼鏡に覆われた怜悧な美顔の中で輝いている青玉サファイアの瞳という、いかにも優等生的なルックスを誇っているんだしね。


 ちなみにすぐ面前におられる、女王陛下御自身のご容貌のほうはと言うと、『白雪姫』の御尊称に負けない、処女雪そのものの白磁の肌に、烏の濡れ羽色の長い髪の毛に縁取られた彫りの深い端整な小顔と、黒曜石のごとき瞳に鮮血そのままの深紅の唇──といった感じになっております。


 しかしその、おとぎ話のお姫様もかくやといった美貌も、今や完全にくたびれ果てて、見る影も無かったのであった。


「……陛下、さっきからタチの悪い冗談ばかり、おっしゃられたりして、もしかして、お疲れなのでは?」




「──そりゃあ、疲れるわよ! ここ最近の東○都政──じゃなかった、ネオジパング王国経営ときたら、頭の痛い問題ばかりなんだから!」




 執務室に響き渡る、文字通り血を吐くかのような、万感のこもった絶叫。


 それも、無理は無かった。


「……せっかく、先史文明滅亡以来初めての、ネオトウキョウ『ドレインピック』を開催しようと思って、国内外の反対を押し切って、時代錯誤の『奴隷法』を復活させて、国外から大量の奴隷を移民させたというのに、ドレインピックの華である、真夏の灼熱の太陽のもとで、奴隷アスリートたちを遠距離走らせるという、『八熱地獄マラソンの刑』を、ネオI○Cの横槍によって、ネオエゾ自治特区に開催権を奪われてしまうなんて! これじゃ王都最大の癒着団体である、ゼネ○ンの皆様に怒られてしまうじゃないの⁉ それに王都民に対しても、王都高オートコー(速道路)の料金を10倍にしたり、宅配便の受け取りを自粛させたりと、無理難題を押し付けていたのに、面目丸つぶれではないの!」


「──押し付けるな! それからゼネ○ンとも癒着するな! 一体何のために、ドレインピックを開催しようとしているんだよ⁉」


「……え、もちろん、『利権』のためですけど?」


「ぶっちゃけたな、おい⁉」


「それ以外の、何があるというの? そもそも政治行政なんて、何よりもこれまでの既得権を堅持するために、癒着業者の、役人たちが契約書等を作成時において、『私たちはけして、法令違反なんかしていませんよ?』というふうに、『アリバイ工作』をしているだけなのよ?」


「もう、やめろよ⁉ この作者ってば、かつて本当に、某役所に勤務歴があるんだから、洒落にならないだろうが⁉」


「そうそう、作者と言えば、『自衛隊』お呼び『旭日旗』の絶対的支持者でありながら、あまりにもオリンピックに反対ばかりしていて、『反○』だと誤解されるのも嫌だから、最近になって急にトーンダウンしたところ、この期に及んでいろいろな要因から、来年の『東○五輪』の開催が怪しくなったのは、皮肉なものよねえ……」


「……まあねえ、ここの作者に限っては、別に何かの利権団体に所属していたり、どこぞの『工作員』だったりするわけではなく、あくまでも己自身の判断に基づいて、個人的な意見を言っているだけだったのに、まさか『オリンピック』に関しては、自分の意見こそが、他でもなくI○Cの会長さんから見ても正しかったなんて、想像だにしなかったでしょうしねえ」


「うんうん…………とはいえ、そういった『よその世界』の事情はともかくとして、我が王国においても、『ドレインピック』がこういうことになってしまい、女王兼王都知事としては、現在非常に頭を悩ませているわけなのよ」


「はあ、おっしゃることは理解しましたし、心底お気の毒とは思いますが、別に執政官でもない、あなた様ご自身の警護方面の責任者である私を、こうして直々に呼び出されたのは、一体いかなる御用向きなのでしょうか?」


 国家権力者ならではの愚痴を散々聞かされて、いい加減うんざりし始めたところで、つい突っ込みを入れたところ、唐突にこれまでのだらけた態度を改めて、まさしく『女王様』そのものの、冷徹で威厳のある表情と成り変わる、ほんの目の前の女性。




「もちろん、餅は餅屋ということで、あなたにはお得意の『荒事』方面のお仕事を、お任せしようと思っているのですよ」




 ──っ。


「……それって、まさか?」




「ええ、現在私を悩ませている、もう一つの重大事項である、毎年恒例の『ハロウィン』のシブヤ・ゲットーにおける、『悪役令嬢セイレーン狩り』ですよ」

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