第2話 そうか、こいつはバカだ。


「なるほどね。私より後にあなたはあの現場に居合わせたのね。それであなたは何か行動を起こしたの?」


「いや、俺は足が動かなくて、ただ見ているだけだった。でもそこに紙が風で流れてきて、犯人を探してとメッセージが書かれてあった。そして、気づけば授業中だった」


「そうだったのね。私もその紙は見たわ。だから、犯人探しをしているの」


「なら俺も手伝っていいか?」


単独で行動するより、この少女と共に犯人を探す方が効率が良いし、この少女の危ない行動を止められるだろう。

俺の言葉に目の前にいる少女は驚きを隠せない。


「別に構わないけど足手まといにはならないで」


「一言余計だ」


「何か言った?」


少女はカッターを取り出して、俺へ向ける。

満面の笑みを浮かべて首を傾げていて、とても怖すぎる。


「い、いや、なんでも」


俺は圧倒されて縮こまることしかできない。


「そう。なら良いわ。早速、今回の原因だと思う八乙女さんに話を聞きに行く。あなたも来るでしょ?」


今回の原因というのは血塗れの少女だろう。八乙女というのか。それにこいつの名前は何だよ。普通は名前知りたくないのか?まぁ、こいつがそれで良いなら構わないが。


「そうだな。まずはそいつに話を聞かないと始まらないからな。聞きに行くぞ」


「命令しないで?私はあなたについてくるかこないか聞いたの。あなたが先導しないでくれない?」


いちいち突っかかってくるが、顔が整っている分可愛くも思ってしまい憎めない。


「はぁー」


「何そのため息」


「い、いや」


鋭い目線を感じたので否定しといた。


俺の犯人探しは不穏な幕開けとなった。



教室に来た俺たちは周りを見渡し、八乙女という少女を探す。すると、机を寄せ合いグループで談笑してご飯を食べている八乙女がいた。

黒髪を伸ばし、凜然とした雰囲気を纏う少女、そのおかげもあり、とっかかりにくい感じもするが、誰に対しても笑顔を振り向き、クラスの中心人物。隣にいるこいつとは大違いの存在だ。


「あの、八乙女さん。少し時間が欲しいの。大丈夫?」


グループで談笑していても空気を読まず話しかけていくあたり、かなりの心の強さを感じる。


「天音ちゃん!私に話って何かな?」


八乙女はこの少女に対しても笑顔で答える。グループの他の少女達は一瞬にして真顔になったのだから女子は怖すぎる。


「色々よ。とりあえず来てくれない?」


「天音ちゃんがせっかく誘ってくれたんだから行くに決まってるじゃん!」


「良かったわ。八乙女さんを借りるわね」


「みんな〜。すぐ戻ってくるから待ってね〜」


「早く戻ってきてね〜」


「うん!!」



そして、またもや体育館裏へ戻ってきた俺と天音。そして謎の少女、八乙女。


「さて、聞きたいのだけれど、犯人を探してって何?」


「え?」


流石に唐突すぎるだろ。あの少女だからって少しは警戒した方が良いだろ。


「いや、あなたが書いたんじゃない?犯人を探してって紙に」


「何のこと?もしかして授業中にバレないように回していた紙なら私の友達が色々書いてるからそんな風なことも誰かが書いて天音ちゃんに渡ったのかな?」


「違うわよ。そもそも昨日のことは覚えいるの?」


「昨日はねー。なんか友達が色々悩んでいたから相談に乗ってたよー」


能天気に笑顔で話す八乙女。


「刺された記憶は?」


「さ、刺されたっって、え??私が?誰に?天音ちゃん気分悪いの?体調良くない?保健室連れて行こうか?」


一瞬困惑するが、すぐさま天音の心配をする。


「こいつ昨日のこと全く覚えてないみたいだぞ」


俺は様子を伺っていたが、昨日のことはもちろん、刺されたことや犯人を探してとメッセージを書いたことさえ覚えていなかった。八乙女は他の生徒と同じように記憶がないのだろう。


「そうみたいね...。これは参ったわ」


俺が天音に聞くと同じように思っていたみたいだった。ガッカリとした様子で落ち込んでる。スタートラインに立とうにもそもそもがなかったことになったのだ。これからどうすればいいか。


「八乙女さん?部活はやってる?放課後遊ぶ約束は?」


「ど、どうしたの天音ちゃんー、いきなりそんなこと聞いて〜〜」


焦りが出たのか、八乙女は汗をにじませる。


「真面目なことだから答えて」


真剣な顔で天音は問い詰める。


「今日は遊ぶ予定はないかな〜。でも部活あるから遊べないよ?」


「八乙女さんと遊びたいとは思わないけど、部活やってるなら一週間出ないで、それと友達とも遊ばないでくれる?」


「そんな〜。天音ちゃんって私を独占したいのっ??」


あははと笑う少女。小悪魔系というのだろうか。目が闇に呑まれているかのようだ。


「違うわ。八乙女さん自意識過剰ね。えーと、今から言うことは信じられないことだと思うけど、信じて」


「えーと、、、まだ私部活とか放課後友達と遊ばないとは言ってないんだけど」


八乙女が不機嫌そうに言うと天音は咳払いをし、改める。


「そうね。私の話し方が悪かったわ。ひとまずこの話を聞いて」


「んーと。結果的には私を束縛する感じ??無理だから。私はみんなに必要とされているの。遊ばないって言う考えはありえないから。これ以上話すこともないし、私戻るね」


今にも去ろうとする八乙女。天音の表情が一気に強張る。


「八乙女さんに危険が及ぶの!話聞いてくれない?」


「天音ちゃんってそう言う痛い人だったんだね。これからの付き合い方考えないといけないな〜。そういうことだからばいばい天音ちゃんと誰だっけ?まぁ良いや、ばいばい」


天音の声には耳を傾けず、冷め切った表情で八乙女は去ってしまった。クラスでは表、今は裏が出てしまったんだろう。残された俺たちに静寂の空間が訪れる。


「あなたの名前なんだっけ」


「あー、そうですか。なるほどね。って今頃!?」

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