後日録―ウェルネス王国記より

(前略)


 ウェルネス王国は古くから封建制を取っている。

 王国各地を、さまざまな領主が治め、その政治はそれぞれだ。

 善政、悪政、さまざま存在し、それに応じた評価が後世に残っている。

 その中でも、特筆すべき善政をしたとされる領主を挙げるとするならば、ローゼハイム家であろう。


 ローゼハイム領は、ケイロン州の南方に位置する、比較的温暖な地域だ。

 以前は、ゴーン家が統治を任されていた。彼らの功績は、関税の撤廃により、商業を推奨したことだが、それに前後した関所の廃止により、治安が悪化。

 無税街と称された彼らの街は、無法街と揶揄されることとなった。

 また他にも贈賄、反国家組織への献金などが明るみになり、ゴーン男爵家は爵位を剥奪され、取りつぶしとなった。


 そこで、入れ替わりで爵位を叙された男に、その領地の再建を託された。

 彼の名は、ベルト・ローゼハイム。

 優れた内政手腕の実力で、内政を担当したレオナルド王子を補佐した男で、豊富な人脈と、したたかな交渉術を持っていた。

 レオナルド王子の推薦で、爵位を叙された彼は、任地の再建に取り掛かった。

 彼は私財を投げ打ち、スラム街と化した街並みを立て直し、また、商業の発展により衰退した、農業を再建した。

 やがて、彼の跡を継いだ、息子のレックスはその善政を引き継ぎ、税を取らずに民を安んじる政治を試みた。また、積極的に農民や工房を招致した。

 その姿勢に、さまざまな工房が集い、産業が復興しつつある中――。

 レックスの急死により、その領地に激震が走った。


 それの跡を継いだのはその娘、シャルロットであった。

 その年齢は、十六歳――年若くして、彼女はその重責を担うことになった。

 だが、彼女は臆することなかった。数多くの使用人、そして、ベルト、レックスに支えられてきた住民たちに支えられ、見事、窮地を乗り切る。

 それどころか、地方通貨という新制度を発案することにより、益々の繁栄へとローゼハイム領を導いていった。

 やがて、シャルロットは、幼馴染の使用人と結婚。

 身分差ある結婚に、眉を寄せる貴族が多かったが、ローゼハイム領の人々はそれを祝福。二人は仲睦まじい家庭を紡ぎ、多くの子宝に恵まれた。

 彼女が四十代の頃、息子に爵位を譲り、夫と共に隠遁した。


 シャルロットは、周りの意見をよく聞き、判断はいつも迷うことはなかった。その判断が間違っていたとしても、自分の責任として粛然と受け入れた。

『どんなときでも、民の自由の権利を護ることを、忘れない』

 彼女は常々、そのような言葉を口にしていた。

 跡を継いだ、リオル・ローゼハイムもまた、民を安んじる善政を敷いていく。

 ローゼハイム三代が築いた地盤を固く守り、リオルの子孫もまた、シャルロットの言葉を守り、どんな苦境に即しても民を軽んじることは一切なかった。

 ベルト、レックス、シャルロット――三代の領主の善政を、時の国王、ショウ・ウェルネスは高く評価し、『王国貴族の鑑である』と称したほどであった。


(ウェルネス王国記より抜粋)

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