集落

モーリスが亡くなっても関係なく私とリリアテレサの旅は続いた。


別にどこで終わっても構わない旅だけど、逆にどこで終わらなきゃいけない訳でもない。むしろ高齢のモーリスにこんな旅を続けさせずに済んだのは良かったのかもしれない。


亡くなった当日は悲しくて涙も出たけど、その日の夕方には平気になってた。思い出せば胸が締め付けられるような感じはあっても、もう涙までは出ない。たっぷり泣いたことで気持ちが落ち着いたんだろう。


<泣く>という行為の意義を改めて教えられた気がする、人間は感情を大きく揺さぶられるようなことがあると涙が出る。それは、ストレスを緩和する為の反応だそうだ。だから泣くのを無理に我慢するよりも素直に泣いた方がいいんだとか。それも実感させられた気がするな。


「モーリスは豚なんだから、食べてやることが人間の言う<供養>に当たる可能性もあったかもしれないな……」


なんてリリアテレサも言ったけど、でもそういう彼女だって、昨夜遅くにモーリスの心臓が止まったことに気付いてながらその時点で<食肉処理>しなかったんでしょ? 血抜きとかしないで何時間も放ってあったんじゃ、溶血して肉に血が混じってしまって味が落ちてしまってたんじゃないかな。


私に本気で食べさせるつもりなら、食肉加工してなかったのはおかしいよ。だから本気で言ってる訳じゃないってのも分かる。


『…さようなら、モーリス……』


私はふと立ち止まって湖があった方にふり返り、そんなことを思ってた。




なんてこともありつつもさらに歩くと、またぽつぽつと集落が見え始めた。でもリリアテレサは油断なく周囲の様子を窺ってる。CLS患者や患畜が出る可能性ももちろんだけど、今回はそれとは別のことを警戒してた。


『メイトギアの信号だ。しかも複数。少なくとも六機はいる…』


その集落まで数キロっていう場所で彼女はそんなことを言い出した。メイトギアの信号があること自体は何も不思議じゃない。以前にも出会ったアレクシオーネPJ9S2のようにCLS患者や患畜を<処置>する為に大量に投入されたからね。と言っても、市場では価値のなくなった中古品や故障品の最終処分先としてという意味もあるけど。何しろ、この惑星リヴィアターネに一度でも足を踏み入れたモノは未来永劫、ここから出さないということが決定されてるし。


「フランネルSJ30FH、マリアンヌJK2、アリアBJ42VMCM、フローリアCS-MD7、フローリアCS-MD9、プリムラCX707。以上の六機を確認。こちらの目的を問い掛けてきてるな」


ってことだった。


そうか、あれだな。


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