普通のロボット

インスタントラーメンを『美味しい!』と声を上げて喜んだリリア・ツヴァイの様子に、私は何とも言えない不可思議な負荷がメインフレームに掛かるのを感じてた。


人間の感覚に倣うとすれば、これはもしかすると<嫉妬>というものなのだろうか。私は、人間のようにラーメンを食べて『美味しい!』と声を上げる彼女に嫉妬しているのかもしれない。


だけど、それは不思議と悪い意味での負荷ではない気もした。以前あったように、彼女の頭に拳銃を向けようという思考は浮かばない。


それが何故なのか、私には分からなかった。分からないけれど、決して良くない意味ではない気もする。


スープまで飲み切ったどんぶりを自分で返却口に戻し、<インスタントラーメン屋>に向かって彼女は手を合わせて頭を下げて、


「ごちそうさまでした!」


といつもよりも張りのある声で言った。


その様子もまた、<良好>であると私は受け取っていた。


「バイバイ…」


パーキングエリアから出る時、公園脇のベンチに座ったまま機能停止しているフランソワPX-33に向かってリリア・ツヴァイが手を振りながらそう言った。別れの挨拶だった。


ロボットは別れを惜しんだりしない。そういう風に人間風に挨拶をすることがあっても、それはあくまで<演出>に過ぎない。だけどこの時の彼女のそれは、ロボットとしての人間を模した演出でないことは、私にも分かってしまった。


彼女は、最後の最後まで自らの役目を全うしたフランソワPX-33を、<労った>んだ。人間がたまにロボットを労ってくれるのと同じように。


私達ロボットには心はない。だから労ってもらったとしてもそれで喜んだりもしない。逆に労ってもらえなかったからといってそれを苦痛に感じたりもしない。


なのに、フランソワPX-33を労ってくれる彼女の姿に、不可思議な負荷がメインフレームに掛かるのは何故だろう。


私のメインフレーム内で、私、リリアテレサとしての思考とは別の領域で行われている彼女の思考が何らかの影響を与えているんだろうか。


その事実を考え合わせるに、私はもう、普通のロボットではなくなってしまっているのかもしれないという、本来なら有り得ない推測が思い浮かんでしまう。


ああでも、リサイクルショップで捨て値で売られていた私を博士に買われて、博士の好みに合うように、正規のそれだけじゃなく非正規のカスタマイズを受けた時点で、私はもう、<普通のロボット>ではなくなっていたのかもしれない。


博士が、私をそうしてしまったんだ……



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