バス
モーテルから出発して二時間くらい歩くと、私は、空気が湿ってきていることに気付いた。人間にとって心地好い環境を作り出す為に、私達メイトギアには様々なものを感じ取れるセンサーが装備されている。湿度計もその一つだった。
空を見上げると、真っ黒な雲が近付いてきているのが分かる。
「雨か…」
そう言葉にしてみて私は改めて気付いた。そう言えば、雨をしのぐ用意をしていない。
電子回路が樹脂でコーティングされユニット化されている私達は、防水機能が完璧である上にボディーには撥水作用もあるが故に改めて雨に備えるという必要がなく、そこまで思いが至らなかった。
もし普通の人間に仕えていたなら
「さて、どうしたものか…」
呟きながら周囲を見渡した私の視界に捉えられたものがあった。自身のカメラをズームさせると、それが道路を外れて停車しているバスだと分かった。
おそらく、この幹線道路を運行中にドライバーが発症したことで道路を外れ、事故防止の為の自動制御によってそこに停車したといったところか。
私は、リリア・ツヴァイをリアカーに乗せ、道を外れてそのバスの方へと向かった。その間にも雲が空を覆い尽くしていく。この辺りは雨季と乾季の差が激しい。年間で雨が降るのは二十日程度だけど、降る時は非常に激しく降る。そんな雨に打たれるのは、私は平気でも彼女には負担が大きすぎる。
幸い、雨が降り出す前にバスに辿り着くことができた。中を覗くと、誰もいない。非常ドアが開けられていたので、そこから外に出たのかもしれない。
しかし、車内には明らかに子供用のリュックがいくつも残されていた。それを見て私は察した。これは、初等部の子供達の遠足か修学旅行の為に用意された貸切バスなんだと。ここに乗っていた子供達も引率の教師もバスのドライバーも皆、<動く死体>と化して獲物を求めてさまよい出たのだろうな、と。
ここにそんな子供が残っていなかったのは、幸いだった。私は心を持たないロボットだ。人間じゃないとなれば相手がたとえ子供の姿をしていても容赦なく対処する。その為に、モーテルで手に入れた拳銃も構えていた。だけど、実際にそれをすると思うと、私のメインフレームに不可解な負荷が検出されるのだ。できればそれは避けたかった。
毛布と食料をバスの中に避難させてすぐ、雨が降り出した。リアカーはひっくりかえす形でバスに立て掛けて、荷台に雨水が溜まらないようにする。
そして私とリリア・ツヴァイは、バスの中で雨をしのぐことにしたのだった。
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