第5話

 その日は特に収穫もなく、まあ収穫もなかったことは収穫といえなくもないが、そのまま家に帰り食事にした。料理やそれ以外の掃除に関して、一切わからないことなんてなかった。


 ということは普段の私は家事をしていなかったという解釈でよいのだろうか。まあそんなことを考えていても仕方はなく、私は制服を着て神代高校へ向かうことにした。




 家から外に出て大通りまで歩くと、同じ制服を着た人間がちらほらと見えてきた。見覚えのある人間は誰一人としていなかった。私は生徒に連なって初めてその校門をくぐった。そういえば今更思ったが私には行く場所がない。




 ああそうか、そもそも私は昇降口からではなく来賓用の玄関からかと、私は生徒の群れから離れそれらしきところを探した。校舎の周りを歩いていて、私と同じように校舎を外周する朝練部員が多くいるのを見かけた。この学校は部活動が盛んな方なのだろうか、それとも高校はこのくらい普通なのだろうか。




もし盛んな学校で一年生強制入部とかだったらどうしたものかと、その時は帰宅部で真剣に活動しなければならないと思った。




 歩き続けてまた同じような景色を見た。どうやら一周してきてしまったようだ。それでも来客用玄関は見当たらない……と、思っていたら生徒用の昇降口の横に看板が出ているのを発見した。




探し物を探しているとき、一番最初に探すべきところは自分の信じたものの中だったりするものだろうか。私は靴を脱ぎ、来客用の下駄箱からスリッパを取り出して職員室へ向かった。




「失礼します。おはようございます、1年E組の月山です。担任の森先生はいらっしゃいますか。」


「あ、月山くんお久しぶりです。退院おめでとう、ちょっと待っててね。」




 私はそのまま先生と校長室へ向かった。




「失礼します。1年E組の月山です。」


「ああ月山くん初めまして。私が現神代高校校長です。入学おめでとう、といってもよいのかな。君のことは警察と、それから病院での話も聞いています。この度はご愁傷さまです。」




「いえいえ気にしないでください。私も気にすることはできませんから。それよりその、私はこれからどうなるのでしょうか。」




「君の入学手続きに関しては問題ない。すぐにでも君は1年E組の生徒だ。何か困ったことや、学校でわからないことがあったら何でも言ってくれて構わないよ。」




 なんとも渋くてかっこいいおじ様だった。ともあれ学校の入学に関しては森先生からの話でもあったが問題ないらしい。とりあえずいきなり路頭に迷わなくてよかった。そしてこの後、人生の中で誰しもが避けては通れぬ戦いが私を待っていた。

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