第9話 初めての冒険
僕とアッシュとエルザは王都の町の中にあった迷宮の入り口まで来ていた。
迷宮の入り口は横幅のある階段になっていて、その前には槍を手にした兵士が二人、警備についていた。
モンスター、特にゴブリンやオークは日の光を嫌うので、昼間はあまり念入りに警備を行わなくても良いらしい。
逆に夜になると、警備の手を甘くすればモンスターが町の中へと入り込む時がある。
そうなれば大事になるので、夜は良く鍛えられた兵士が十人がかりで迷宮の入り口を警備しているのだそうだ。
ちなみに、迷宮への入り口は一か所ではない。
町の中に複数あるので、どの入り口から迷宮に入るのかも良く考えなければならないことだった。
「先日、ここの警備が破られてゴブリンが町の人間を殺すと言う事件があったんだ。だから、俺たちは迷宮へと逃げ帰ったそのゴブリンを退治しなきゃならない」
そう言うと、アッシュは冒険者の手帳をポケットから取り出す。
冒険者の証である手帳を見せなければ、兵士たちは迷宮の中には入れてくれないのだ。
「一度、人間に危害を与えたモンスターはまた同じことを繰り返す傾向があるのよ。それを看過することはできないわ」
エルザは鼻を鳴らしながら言った。
「でも、人を殺したゴブリンに目印なんて付いてないんでしょ。なら、見つけ出すのは難しいんじゃないんですか?」
僕の指摘にアッシュはニカッと笑った。
「そのゴブリンには警備の兵士がかけた魔法がかかってるから大丈夫だ。そのゴブリンの体は赤く発光してるから、すぐに分かるし」
「警備の兵士の魔法ですか」
何となく頼りないものを感じるのは僕だけかな。
「この王都アルサスで暮らしている地元民のアルセイアン人はみんな魔法が使えるんだ。魔法が使えないのは他所者だけだぜ」
「その言い方だとアッシュさんも魔法が使えるんですね」
「当たり前だろ。俺は魔法の力に秀でているわけじゃないが、回復魔法くらいは使える」
それは頼もしいことだ。
「私は回復魔法だけでなく、攻撃魔法もバンバン使えるわよ。特に炎の魔法には一角の自信があるわ」
エルザは誇らしげに言った。
「僕も魔法が使えたらなぁ」
僕は羨望の眼差しで二人を見る。魔法の国に来たと言うのに肝心の魔法を使えないなんて何とも間抜けな話だと思う。
「ユウヤは魔法が使えないのか。なら、他の国から来たってことだな」
「まあ、そんなところです」
「そんなしけた面はするなよ。お前がどこの国から来た、なんてことは尋ねたりはしないからさ」
アッシュは僕の肩に手を乗せた。
「そうよ。私たちは他人の詮索はしない主義なの。ましてや仲間になってくれた人なら尚更だわ」
エルザも心を柔らかくするような言葉を投げかけて来る。
「そう言ってくれると助かります」
僕はこの二人なら本当に信頼できそうだなと思った。
「ま、お前の剣の腕には期待してるし、張り切って行こうぜ」
アッシュはそう言って、迷宮へと続く階段に足の爪先を向けた。
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