第44、45話 いよいよ、扉の前



「さあ、グズグズしてると、次のやつが来る。さっさと行くぞ」


 言いながら、くるっと背をむけて、ワレスさんが歩きだす。

 スゴイなぁ。ホーリーナイト。

 何がスゴイって、この人、返り血をあびてないんだ。白銀のよろいはやっぱり白銀のまま輝いている。


 あの戦闘で返り血もあびないって、どうなってるんだ?

 ああ、僕もいつか、あんなことができるようになるかなぁ? ムリっぽい気がするなぁ。


 あっ、小銭。みっけ。

 ん? 五百円?

 …………五百円ッ?

 ちょっと待ってよ。

 こっちには千円硬貨が……銀色の1000って書いてある初めて見る硬貨。


 どんどん額が上がっていく。

 僕の所持金が増えたからってのは確実に関係してる。

 高額すぎて怖いんだけど。


「あっ……また千円。拾っちゃった」

「かーくん、えらい儲かっとるなぁ。商売人よりスゴイやないか」

「あ、あはは……は……」


 所持金の総額が一万を超したころには、ついさっき竜を倒して手に入れたのと同じ金色の硬貨を見つけるようになった。もうこうなると、倍々にお金が増えていくようなものだ。


「僕の得意技が小銭拾いなんだけど……小銭じゃなくなってる」


 三村くんが何やら思案顔ののち、こう言った。

「ずっと見とったんやけど、基本は所持金の百分の一やな。けど、そこに登場するモンスターと自分のレベル差が影響して、ベースの十から数十倍のあいだをランダムに算出しとる——って感じやな」


 つまり、お金をいっぱい持って強いモンスターがいるダンジョンを歩けば、僕は戦わずして、ものすごい額のお金を手に入れられる。


 これだ!

 これなら、億万長者も夢じゃない!



 *


 そのあとは蘭さんの危険察知の特技で、戦闘を回避しながら地下まで来た。

 僕らが泊まっていた宿舎が一階にあって、牢屋にも近かったことが幸いした。


 あの赤い両扉の前に僕らは立った。


「ここですね。僕が、こうすれば……」


 蘭さんが手を伸ばし、扉の鍵の部分にあてる。カチリと小さな音がして、扉は自動でひらいた。


 扉のなかをのぞくけど、強そうなモンスターがいるようすはない。

 やっぱり城内のほかの場所にいるモンスターたちはイベントで発生した特別なものだ。

 地下道にはもともと設定されたモンスターしかいないようだった。


「これなら、おまえたちだけで行けるな?」


 あっ、ワレスさんが行ってしまう。さみしいなぁ。

 ドラゴン倒してくれて、ありがとう。

 お金と経験値、役に立てますよぉ。


「父と母をお願いします」

「ああ。できるかぎりのことをする」


 蘭さんがさしだした手をワレスさんがにぎる。

 けど、僕は忘れてたね。この人、ただの礼儀正しい騎士じゃなかった。それは表向きの猫かぶりだ。

 ワレスさんは急に、蘭さんに壁ドンかますと、アゴくいだ。


 ああ、何してんですか?

 このゲームはBLじゃないんですよ?

 そういうことは、ひかえてもらわないと。


「麗しさだけは一級品だな。早く、おれを超えてみせろよ?」

「当然です」

「いいだろう。楽しみにしておく」

「手を離せ。無礼だぞ」


 ワレスさんは笑った。

「ではな。必ず生きて会おう」

「…………」


 ワレスさんは蘭さんを離すと走りさっていった。


 うーん。カッコイイんだけどねぇ。

 美形だし、強いし。

 ただ、あの人、俺様絶対主義者王族なんてクソくらえ!だったっけぇ。身分が高かろうと気に入った人にしか忠義を尽くさない。あれで、よく騎士やってるなぁ……。

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