第50話 乙女騎士参戦
村から一旦離れたニカであったが、それ以上離れる事もなく、遠くから戦闘の様子を窺っていた。
そもそも彼女の中には逃げるといった選択肢は存在していなかった。
ここはゲームであり、たとえユウがドリューに敗けても王都へ死に戻りするだけ。
それでもニカは、ゲームであれユウに死んで欲しくなかった。
彼を見捨てて、目的地である麓の街へ自分だけ行くなど
ユウが倒されて死に戻りするのなら自分も。むしろ誰かに倒されるくらいなら私が倒す。
全ては彼への思慕の念。
想いが少々危険な方向にねじ曲がりつつ、乙女騎士はユウの戦いを見守る。
そんな彼は、スキルを駆使してバーンスを倒し、ドリューの尾を斬り落としたものの、スキルが切れた現在、劣勢に立たされていた。
ニカは深呼吸をすると共に
「ユウ君、今行くね。」
今が好機とみたニカは小さく呟き村へと駆け出した。
彼女の歩様は馬で言う常歩、速歩、駈歩を一瞬で終え、すぐに襲歩に達する。
ニカもまたイベントでアラジンに軽くあしらわれた悔しさから、度々、主である獣皇女エルレンシアと秘密の特訓を行い、走術から戦術まで鍛え直したのだ。
襲歩に達してもなお、彼女のスキル、『
ー ドゴォオオオオオオン!! ー
「ギィイイヤアアアアアア!!」
ランスの槍先がドリューの下半身の肉を突き刺し、半歩遅れて爆発音にも似た凄まじい轟音が周囲一帯に響き渡った。
ー ゴォウ! ー
ユウは光の煌めきを目撃した瞬間から悪い予感がし、全力で回避行動をとっていた為、ニカの突撃に巻き込まれずに済んだが、衝突の際に生じた衝撃波によって数メートル飛ばされた。
一方、直撃を受けたドリューは耳をつんざくような絶叫を上げ、数十メートルの距離を吹き飛び、その先にあった民家に突っ込んで崩壊させる。
ユウが衝撃から立ち直ると、目の前にいたのは先程まで対峙していた
「おお・・・。」
ランスを手に凛と佇む彼女の姿に、ユウは思わず息を呑む。
「ユウ君、来ちゃった♪」
「あ、はい。」
しかし、戦乙女ばりの美しさはすぐに台無しとなった。
ー バキバキバキィイイ! ー
脱力したのも束の間、家屋の下敷きとなったドリューが木材をへし折りながら這い出てきた。
「小娘、貴様かぁあああ!」
ドリューの目は血走っており、明らかに怒り狂っている。
強固な肉体により、スキルが乗ったニカの突撃にも五体満足で耐え抜いたが、バックアタックボーナスもあり、ドリューのHPバーは目に見えて削られていた。
「卑怯な手を使いおって!先ずは貴様から食い散らかしてやる!」
その表情には知性の欠片もなく、飢えた獣のように牙を剥いて唸る。
「黙りなさい、人面獅子。」
しかし、ニカは恫喝に怯む事なく毅然とした態度で宣戦する。
「これからは私達2人で相手するから覚悟しなさい。」
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