第40話 初めてのおつかい

GW《ゴールデンウィーク》2日目も、その翌日も、大和は午前に家事や大学の課題等を片付けて、午後から夜遅くまでPAOにログインし続けた。


PAO内では連日リングレットの特訓を受け、彼女の言葉通り、スキル使用時の技を仕掛けるタイミングを徹底的に叩き込まれ、また、スキルに頼らない大和ユウ自身の戦闘技術も、幾度となく殺されながら、半強制的に押し上げられていった。


ユウがスキルを含む戦闘技術に関してリンから合格を貰えたのは、GW半ばを過ぎた日の夜であった。


「今はこれで大丈夫かな。」


とは、リンの言葉。

本当はもう少し鍛えたいところだが、ステータスポイント付与による強化も大切なので、レベルアップを頑張ってほしいとの事である。


「それじゃあ、またレベルが良い感じに上がったら特訓しようね!しーゆーっ。」


そう言いながら、鎧の上からユウの胸に黄金の剣を突き刺し、体内から燃やし始める。


「ああ、ありがとう。次はかーー」


ユウも慣れたもので、殺されながら感謝と別れの挨拶を口にしたが、途中でHPバーが全損し、最後まで言い終わらない内に光の粒子となって消滅した。


特訓中は殺されても死に戻りせず、廃神殿に再び出現するのだが、リンが特訓終了と宣言していたので、ユウが次に姿を現した場所は、王都の地点登録した場所であった。


時間もまだ余裕があるので、レベルアップともう1つの目的の為にフィールドへ向かう。


王都と第2の街を繋ぐ草原地帯へ戻ったユウは、複数のコボルト相手に特訓の復習を行った。


ー キィン! ー


ー ザシュッ! ー


ー ギャン! ー


一番槍となったコボルトの斬撃を左腕で弾き、返しに右手の剣で胴体を薙ぐ。斬れ味の鋭い『初心者片手剣オーバーコート』はそれだけで、コボルトを上下に分離させた。


ユウはそのまま踏み込み、攻撃モーションに移る前の個体を、回転を加えた袈裟斬りで斬り裂く。

力なく崩れ落ちる様を横目に3体目へと接近し、柄でその腹部を殴打した後、くの字に折れ曲がり、普段の位置より下がった頭部を素早く胴体から斬り離した。


瞬く間に3体を屠ったユウは、残りの4体も手早く倒して一息つく。


「楽勝なのは良いけど物足りないな。」


今のオーバーコートを手に入れた時点でコボルト相手には余裕であった上、黒鎧を纏い、特訓を受け戦闘技術が更に向上している現在では最早動作確認の相手以上の意味を成さなくなった。


「ササッとフブキさんの所へ行って、レベリングは違う場所でしよう。」


レベルアップ以外の目的とは第2の街で隠れ鍛冶屋を営んでいる鬼族の『フブキ』に新しい盾の作製依頼をする事であった。


現在装備している初期装備の盾が、リンとの特訓によって確立されつつあるユウの戦闘スタイルと若干のズレが生じ始めたのだ。


現在のユウは、相手の攻撃をいなすと同時に素早くカウンターを入れる、もしくは自ら斬り込んでいく攻撃的なスタイルとなっている。


今の盾は初期装備である分、癖がなく片手でも扱い易いが、それでも半身を覆い隠せる程の大きさの為、相手の攻撃を受け止めたり、いなした後、いざ攻撃へ転じようとするも、どうしてもタイミングが一歩遅れてしまう。


そこで今回、初期盾からの変更を期に、自分に合った盾を見繕ってもらおうと考えていたのだ。


極小の盾もしくは、大きめの篭手ガントレット

それがユウの望む防御手段であった。


その有用性を確認する為、ユウは草原地帯へ入ると同時に盾を装備解除していた。

代わりにコボルトの攻撃は黒鎧に包まれた自分の腕でいなしており、盾で受けた時よりも攻撃に転じる速度が上がったので、思い描く方向性は正しいと言える。


一種の動作確認をコボルトやゴブリン相手に繰り返し行い、レベルが1上がったところで、ようやく第2の街に辿り着く事ができた。


ニカに案内された時の記憶を頼りに路地裏を進むと、見覚えのある家が見つかり、門を叩くと目的の人物、フブキが顔を出した。


「この素材を採ってきておくれ。」


家の中に通され少し世間話をした後、本題に移るとフブキは逆に1つの依頼クエストをユウに出す。


プレイヤー側からの武具要望は受注生産オーダーメイドとなっており、フブキが武具を見立てた上で、必要な素材が足りなければ取りに行かなければいけない。


せっかくなので依頼を受けたユウは、フブキと一旦別れ、再びフィールドへと戻った。


目指すは王都とは別方向の湖のある森林。

かつてクロードの奇襲を受けた場所である。

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