あいるさんへのお祝い

 冬晴れの雲ひとつない空。突き抜けるような青の中に、白い鳥が飛翔する。陽に照らされた市街の石畳には翼の影が横切り、屋根屋根の上を過ぎて街の中心を目指す。先にはこの国で唯一時間を知らせる美しき時計塔。その針が十二時を指し、澄み切った鐘の音が十二回、城下に鳴りわたり、耳に心地よい響きが市門の外の平野、森を抜けて南の海へ向かっていく。


 鐘楼の鐘の音を聞いたシューザリエ城のものたちは、仕事に走り回る足をいっそう早めた。


「もうこんな時間よ! 次の時報に間に合わせて!」

「針子はドレスの仕立ては終わってる? 全部姫様のところに持っていって!」


 女官長が叫び、言いつけられた見習いの女官が服をいくつも抱えていく。王城の一室を勢いよく開けると、中ではこの城の主人の一人、シレア国第二子第一王女が他の荷物の検分をしていた。


「あ、ドレスご苦労様。ちゃんと言った分だけ揃ってる?」

「ええ、作りはどれも違いますよ! 一級の仕立て人によるものです。こちらはひだが多めので、こっちは少し丈が短め。こちらは絹をいくつも重ねて花の大輪を作りまして、背中の腰のところに飾ってあります」

「色も指定した通りかしら。全部で七色だからね。純白は絶対よ。あと薄桜色と、碧と、あっ蒼も入れてある、よかった。それから階調で変わるもの揃ってる?」

「もちろんですわ。金箔も豪勢に使いましたし。派手すぎませんよ」


 全てのドレスを丁寧に畳むと、王女と侍女は花と草模様で飾られた大きな衣装箱にそれらを入れ、美しく光沢のある帯で蓋を閉じる。


「これで、あとは……」


 そのとき、開け放した扉から下男と王子つき従者が駆け入ってきた。手には大小の箱を持っている。その後ろから城のもう一人の主人である兄王子が贈呈物一覧を見ながら部屋へ足を踏み入れる。


「姫様、こちらの担当分はこれで全てです」

「あっ間に合いませんでした?」

「大丈夫、宝飾品は別の箱で送るから」


 下男が運んできたのは女性用の数々の飾り物だった。珊瑚のついた髪飾りや、真珠と水晶を連ねた耳飾り、ドレスを留める月長石の細工など、隣国の匠の品もある。


「男物はこちらです。やはり純白の絹の上下ですね。それから薄灰色の上着も。袖留めは金剛石をあしらいましたが……」

「手袋忘れないで」


 言われて従者は桐箱を開けた。両の手袋は翠玉の飾り紐でまとめられ、絽紗の布袋に入れて衣服の上に置かれた。


「全部揃ったか? どれも不足ないといいが」

「ええ、あとは気に入ってくださると良いのだけれど」

「近年稀に見るほど大事な祝いだ。落ち度がないようにしなければ……恐らく、女性ものはアウロラの方が趣味がわかるだろう」

「大丈夫だと信じましょう。婚礼のお色直しは六回できるようにドレスは揃えたし、向こうは寒いというからシレア極上の毛織物も入れたし……」


 そうである。今日は日頃から何かと世話になっている、トマトが素晴らしいと評判の遠方国の王女あいる姫に、シレア国をあげて婚礼の祝いを贈るのだ。


「いまはお加減が悪いというのが心痛むわね……何か、もっと元気になるようなものを」

「書が好きだというから、推奨のものでも」

「あ、そうね。あとはお祝い! お祝いのお手紙を!」

「ああ、それならここに全部集まった」


 兄王子に言われ、従者が大きな箱を指し示した。その中にはシレア国民皆からの祝言の手紙が入っている。物よりも何よりも、伝えたいのは気持ちである。


「それでは準備は整ったな」

「急がないとお祝いの時を逃しちゃう。行きましょう」


 色とりどりの生花をこぼれんばかりに飾った蓋で箱が閉じられる。箱の四隅それぞれには金銀の糸を編み込んだ飾り紐がついており、それらが四羽の大鷲の足に括り付けられた。

 そして太陽の光が眩しくさす露台から、居合わせた全員が祝いと祈りの言葉とともに荷物を送り出す。


「お祝いを申し上げます! あいる姫! この嬉しき日に言葉をお送りする機会に恵まれましたこと、感謝申し上げます! どうぞ一刻も早きご快復と、溢れるほどの幸せを!!」


 ***


 フォロワーのあいるさんへの祝電です。いまご病気と戦っていらっしゃり、結婚式もまだあげられないとのことなので、皆さんがカクヨム結婚式をなさっているみたいで、僭越ながら参加させていただきます。


 🥀💐🥀💐



 あいるさん、ご結婚おめでとうございます!

 いつも楽しく、明るく、優しい言葉で綴られるエッセイから、あいるさんのお人柄が伝わってきてほっこりしています。読ませていただいた小説も、心温まるものばかりで、あいるさんもすごく温かなお心の方なのだな、と思っております。


 いま、とてもお辛い気持ちでいらっしゃると思います。お身体も心配です。

 でも今日はあまり暗いお話はせず、ただただお祝いを述べたいと思います。


 エッセイで様子をお聞きしていると、旦那様もすごく素敵な方で、あいるさんを心から思ってくださっているのがわかります。

 実際にお会いしたことはないけれど、お二人ならこれから先、強い絆で繋がれて、お互い支え合って素晴らしいご夫婦で居続けるのだろうと思います。


 リアル結婚式はひとまず延期になってしまったとのことですごく残念ですね。

 実際にものはお送り出来ないので空想贈り物をたくさん送りたいと思います(笑)山下くんの分も。何よりも気持ちよ届け! と。


 元気になるような本も読めるといいですよね。

 色々とご紹介したい本はありますが、児童文学では「魔女の宅急便」の原作、おすすめです。まだお読みでなければぜひ。優しい気持ちになれて、頑張ろうって思えます(頑張りすぎちゃダメ!)以前ご紹介したコバルト文庫の「ちょー」シリーズも、ライトノベルなのかもしれませんが、内容はライトでない奥深さと勇気と優しさをくれますよ。


 カクヨム祝電をどう送ろう、と悩んだのですが、せっかく蜜柑桜がカクヨムでおくるなら、と思いまして、しばしばこのエッセイにもスピンオフしてくる自作の『時の迷い路』から皆総出でお祝いを送ります。


 あいるさんに、元気と幸せを。心から。

 言葉を重ねても足りない気がする。本当に早く元気になって、幸せいっぱい降りますように。


 お二人の先々の平穏と幸福を祈って乾杯します!

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