ペンキ絵師「菅野涼」3

 スマホの時刻表示を見ると0:22。こんな時間に掛かってくるあいつの電話にはあまりいい思い出が無い。そして大体の内容を予想出来てしまっている自分がいる。通話のアイコンをフリックするとスマホを耳に当てる。


「もしもし、こんな時間にどうした?」

「最終便には乗れたんだけど空港で寝ちゃってた。今タクシーで向かってるんだけどかなめは何処にいるの?ふじの湯前?」

「あー……。今鍵閉めたところかな。一応聞いておくけど今日は泊まるところは確保してるの?」

「勿論。かなめさんの安アパートに直行しています」

「だよなぁ……。ちゃんと来る前に連絡入れてくれよ」

「仕事が忙しくてさ。空いた時間にこう、スパッと」

「んー。あんまり無理すんなよ。わかったけど、あとどれくらいで着きそうなの?」

「えー……、運転手さん後どれくらいで着きそうですか?……ええ、有難う御座います。後10分くらいで着きそうだって」

「もっと早く連絡してくれよ!」

「ごめんごめん。タクシーの揺れが気持ちよくてうっかりしててさ」

「疲れてんだから無理すんなよ。飯食ってるのか?」

「まだ」

「何か作る?」

「おおー。かなめさん優しいねぇ」

「今冷蔵庫に大した物入ってないから適当になるけど」

「ご飯多めに炊いてね」

「分かってる。……分かってるわー」

「んん?なんか文句あんの?」

「……ないない。鍵は何時ものところにあるから、先に着いたら適当に上がっておいて」

「了解。エロ本チェックしておくわ」

「そんなもんねぇよ!」

「えー、だってコンビニの佐藤さんからLINE来たよ?独り身の寂しさ分かってるから知らない振りしといたって」

「あれは無理やり渡されただけだから!俺は買ってないし!」

「最悪。やっぱ持ってんじゃん」

「誘導尋問じゃないかよ!佐藤さん何言っちゃってるの!?っていうか何でLINE交換してるの!?」

「え?ふじの湯のグループLINEだけど」

「俺が入ってないけど!?」

「小さいこと気にするんじゃないわよ。そろそろ着くみたいだから一回切るねー」

「あー……。分かった。俺もすぐ着くと思う。今日は寒いからストーブつけて暖かくしといた方がいいよ。こっちは寒いだろ」

「めちゃくちゃ寒い。雪降ったんだね」

「うん。今日っていうか昨日かな。初雪だった」

「そっか。明日積もってるかな」

「この降り方だと無理だろ。草むらとかだったら少しだけ残ってるかもな」

「うん」

「んじゃ、また後で」

「分かった。ありがと」

「おう」


 通話が終了したスマホをポケットに突っ込むと少し冷たくなった掌に息を吹きかける。


「……相変わらず忙しい奴だなぁ」


 俺は冷蔵庫の中身を思い出し夜食のメニューを考えながら、少し速足で人気のない駅前の道を歩き始めた。

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