チョコレートケーキ
「……お帰りなさい、榊さん」
口の中に何かを一気に突っ込んだ直後だったのだろう、頰を膨らませていた女はゴクリと喉を鳴らしてそれを飲み込んだ後に自分の雇い主である男にそう言った。
女の目の前にはチョコレートクリームらしきものが付着した白い皿が。
右手にはフォークが握られている。
無言で顔を見る男から女は目をそらして、いそいそと食器を片付けようと立ち上がる。
その時、女はふと甘い花のような匂いを感じた。
香水だろうか?
匂いは男から、いつも血と硝煙の匂いを纏わせている男から漂う甘ったるい香りに、珍しいことがあるものだと女は思わず男の顔を見上げた。
「……なんだ?」
苛立ったような表情で睨まれた女は少し慌てた様子で口を開く。
「いえ……香水みたいな匂いがしたので……珍しいと思っただけです」
「ああ……仕事で少しだけ女と……な」
その言葉を聞いた女の表情が少しだけ変化する。
少しだけ不満そうな表情だった。
「……浮気ですか?」
女がそういうと男が妙な表情をした。
女は自分が言ったことを頭の中で反芻して、男の表情の理由に気付いた。
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
女は少し慌ててそう言った。
その時男の口元がニタリ、と吊り上がった。
これは非常に不味い気がすると女は考えた、うっかり地雷踏み抜いたかもしれない、とも。
なんであんなわけのわからない発言をしたのだろうかと女が弁明しようとしたところで、男が女の肩を掴んで女の身体を自分に寄せる。
「……随分と、可愛い事を言ってくれる」
耳元でそう囁かれた女の肌にぞわぞわと鳥肌が立った。
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