第8話
これはほんの二日前の話だ。
迷宮がある街からほんの少し離れたアイワーン王がいる城では深夜夜遅く、秘密裏に魔術師たちが集められていた。
そこには禁忌と言われる古代魔法である特別な召喚の複雑な魔方陣が描かれており、そこを囲うように複数の奴隷印がされた魔術師たちが呪文を唱えていた。
そう、アイワーン王は聖女を抜擢したのにも関わらず、密かに異世界召喚を行っていたのだ。
彼は自己の保身のために女神アヴァンドラの神託を一旦は従い、彼女の使いたる聖女にエルフ、ドワーフ、ドラゴニュートの冒険を護衛として付けさせたが、それは女神アヴァンドラが現世に降臨するために過ぎないと思っていたのだ。
むしろ、国政復帰を狙う彼としては他の冒険者同様に邪魔でしかなかったのだ。
自身の配下であったドワーフの傭兵ヴォンダルも自身に対する忠誠心はなく、アレックスに至っては教会側に属する聖騎士だ。
報告を聞くところによれば、自身の配下の冒険者は迷宮の中で不審な死を遂げる者もおり、迷宮攻略には程遠かった。
このままでは『黒銀の鉾』のステルベンに先に攻略をされてしまう。
そう感じたアイワーン王は密かに奴隷売買を行い、秘密裏に異世界召還を行おうとした。
「始めよ」
アイワーン王はそう告げると、彼の側近が奴隷印を用いて、魔術師たちに無理やり呪文を唱えさせた。
国王の顔には汗が噴き出ており、その様子を黙って見てるしかなかったのだ。
異世界召還そのものは150年前にかつて空より現れた赤い彗星を討伐するために、女神アヴァンドラの神託の下、召還が行われた。
その際に召還された『荒川蒼真≪あらかわそうま≫』は世界を滅ぼそうとする赤い彗星を討伐し、元の世界に戻ったと言われている。
そのため、異世界召還の術式はアイワーン王の独自の調査で判明していたのだ。
異世界召還が始めると、その場にいた魔術師たちはそこから現れた光輝く玉虫色の球状に飲み込まれると、召喚が完了した。
王は異世界召還の様子を見ると発狂すると言う言葉からか、側近たちに命じて、罪人の一人にその様子を見届けるさせることで罪を免罪とする言葉を出した。
そして、自身とその側近はそれを見ないように目を閉じて安全なところでその様子を聞いていたのだ。
異世界召還を見届けた罪人が叫び声を発すると、王はその瞬間に目を開いたのだ。
すると、そこには魔術師たちと同様の数である見たことない服装の男女4人がそこにいた。
「おお!成功したのか!すぐにそれを片付けよ。異世界からの来訪者に見苦しいところを見せるわけにはいかん」
王はその様子を見ると、地面で廃人と化した罪人を片付けるように命じて、自身は玉座に座り、来訪者が目覚めるのを待った。
数分経つと、彼らは目覚めた。
「う、う~んここは…いったい?」
最初に言葉を発したのは背が高く、非常に容姿が整った青年だ。
「自室って感じでもないわよね」
次に言葉を発したのはいかにもお嬢様風の美しい女性だ。
「やべっ、ここどこだよ。俺さらわれた系?ウケんだけどまじ」
それに続くように金髪の元気のいい若者も目を覚ました。
「異世界召還だ、これ」
最後に言葉を発したのは他の三人と比べるとごく普通の可愛らしい少女だ。
彼女の名前は相原紗季≪あいはらさき≫と言う。
パット見た感じ、四人とも同じぐらいの年頃のようであった。
また、年相応に四人とも目をパチクリさせながらも、好奇心のためかあたりをキョロキョロとしており、未知への恐怖と関心がその目に溢れていた。
王は彼らが目を覚ますの見ると、大声でこう言った。
「よくぞ参られた!異世界の勇者たちよ!」
この一言に紗季のみがピンっと来た。
(あっ、これ国から追放された方がいいパターンだ)
◇◆
相原紗季は元々日本と言う世界で暮らしていたごく普通の女子学生であった。
学校ではその容姿の良さからか男子に密かに人気があったが、如何せんコミュニケーションが苦手であり、友達がいなかった。
表情も乏しく、学校に来ては授業を受け、ただひたすら一人で孤独に学校生活を謳歌(?)していた。
そんな彼女の友達と言えるのは、専らSNSやスマホのゲーム、そしてネットに投稿された小説とかだ。
人付き合いが苦手であった彼女はひたすらSNSで適当なことを呟いたり、スマホのゲームや小説に夢中であった。
この日もいつものように自宅でゲームや小説に夢中のまま寝てしまった。
そして、気が付いたらここにいたのであった。
王様の話を聞いていた紗季はよくネットとかで見る「悪い」パターンの異世界召還だと察した。
何故ならば、王の話があまりにも典型的だったからだ。
その内容も「この世界は魔族によって侵略されそうとしている。奴ら魔族はこの付近の迷宮の深部を根城しており、我らの力だけではどうしようもない。そこで異世界からやってきた貴殿らの力を借りたい」と言うものだ。
これはまずいと察した紗季は適当にいかにも充実してますオーラを出している端正な顔立ちの青年に進行任せた。
そして、ステータス画面を開くときになり、紗季は心の中でこう念じた。
(どうかクソステでありますように。それからチート能力もありますようにと)
その願いが叶ったのか、紗季の能力は他の三人よりも極めて低く、平凡であった。
サキ・アイハラ 17歳 女
職業:盗賊≪シーフ≫ Lv.6
【STR:12】
【MAG:10】
【SPR:12】
【DEF:10】
【SPE:42】
【LUK:39】
【スキル】
・気配遮断
・盗賊の極意
「な、なんじゃと!?【巻き込まれし者】じゃと!?どうなっておる!??まさか召喚失敗したのか!?」
その反応を見た紗季は内心(やったぜ)と呟いた。
案の定王様の態度は一変し、多少の財と冒険者階級第5である“青”級を授けるからすぐに王城から出て行けと申した。
その様子は一見すると、あまりの出来事に紗季は無表情を保ったままショックを受けている様子に見えるが、実際は彼女は心の中でさらにガッツポーズをしていた。
(これならしばらくの間はのんびり(たぶん)スローライフを楽しめそう)
そう考えた彼女は黙って、王様の言葉に頷いて広間から出て行った。
これが彼女がこれまで見てきた異世界召還ならば、そうだろう。
広間から出た彼女は一人で外出ようとした時だった。
「実に滑稽だ。あの愚鈍なる王が生きて君を帰すと思っているのかい?だとしたら、おめでたい脳の持ち主だ」
何者かが廊下で紗季に話しかけてきたのだ。
「誰?」
紗季はその言葉の主に声をかけようと、振り返ってそう言った。
その言葉の主は壁の中から返事をした。
「私が何者か知りたければそこの壁に窪みがあるだろう。そこは隠し扉になっている。万が一備えて王が用意したのだろう」
紗季はその男に言われるままに壁を調べると確かに一つだけ出っ張っている箇所があった。
彼女は珍しく緊張しながら、そこを押すとグルっと壁が回った。
回転扉であろう。
彼女は無表情のままに隠し部屋に入ると、一人の男がそこにいた。
そいつは素顔を完全に隠しており、漆黒の衣を身にまとっていた。
その人物は紗季の姿を見ると、不敵に笑ったように見えた。
紗季は直感した。
(こいつ絶対強キャラだ)
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