不死者な姉と屍術師の僕は迷宮の奥を目指します

紙風船

第一話 おやすみからおはようまで

 姉さんが死んだ。


 その病は医者にも治せないという不治の病だった。


「姉さん……」


 冷たくなった姉にすがっても、いつものように頭を撫でてくれない。抱きしめてもくれない。唯一の肉親。最愛の家族。


 そんな姉さんが死んだ。


「うあぁぁ……っぐ、ぅう……っ」


 姉は錬金術師アルケミストだった。それも結構な腕前で、昔は姉に頼ってくる人が沢山居た。怪我を治してほしいとか、それこそ医者のようなこともしていた。

 けどそれだけではなく、モンスターを撃退させるような薬を作り出したり、金属を変形させたりもした。姉曰く、薬物調合の応用だとか。


 ともかく、自慢の姉だった。そしてそれを貶めてしまったのは、僕だった。


 偶々だった。本当に、神様の悪戯のような、紛れ。


 ある日、僕が死んだ鳥を蘇らせてしまったのが間違いだった。


『凄いじゃないか! 流石は私の弟だ!』


 なんて褒めてくれたけれどそれでもやってはいけなかった。


 僕には屍術師ネクロマンサーの素質があったらしい。庭先で死んでいた鳥を見つけた僕は姉さんの所有している蔵書の中にあった屍術の本を手に取り、その通りに行い、鳥を蘇らせたのだ。


 ただ読んでその通りに行うだけでも結構な才能があるという屍術師。まさかそんな才能があるなんて思わなかったが、姉さんが喜んでくれたので最初は嬉しかった。


 でもその技を嫌う人間が居た。村の人間だ。


 僕が屍術を扱えると知った村人は今まで姉さんに頼っていたのに、手のひらを返して迫害するようになった。物を売らなくなったり、売ったとしてもふざけた値段設定だったり、家の窓に向かって石を投げたり、直接僕や姉に石を投げたり。


 そうして僕達姉弟は村から迫害され、やがて姉さんは病に倒れた。


 村唯一の医者の家に駆け込んでも追い払われる始末で、姉も病に冒されながら薬を作るが、どれも効果が無く、そして今日、姉さんが死んだ。


「どうしよう……姉さん……うぅぅ……」


 何もしてくれなかった村人を恨んだ。そりゃあ、不治の病だから仕方なかったとは言え、恨んだ。


 『屍術師になるなら恨みに囚われては駄目だよ』と姉さんは言ったけれど、それでも恨んだ。


 そうして恨みに恨み、泣き疲れた僕はいつの間にか眠ってしまった。夢で姉さんが僕を起こしてくれる。いつもみたいに優しく……でもそんなことはもう起こらない。何故なら姉さんは死んでしまったから。


「ほら、リューシ……こんな所で寝たら風邪引くよ?」

「んぅ……姉さん……」

「ほら、寝るならちゃんとベッドで……あら嫌だ、私が寝てる」

「ぅ……え……?」


 幻聴だと思っていたが、妙に現実味を帯びた言葉に顔を上げると、ベッドの上で横たわる姉さんを、宙に浮いた姉さんが困ったように眺めていた。


「姉、さん……?」

「あ、起きた。ねぇリューシ、どうしよう。ベッドが足りないわ」


 死んだはずの姉さんは幽霊となって、蘇ったらしい。

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