長男の居場所 1 不登校適応教室 ひまわり

 三男がまなざし教室に居場所を見つけた頃から本格的に長男が不登校になった。

 私は三男より長男の不登校に、より強い危機感を感じていた。おなじ不登校でも小学2年生と中学1年生では将来や進学に関する重みが全く違うように感じたのだった。


 ある日私はひまわり教室(仮名)と呼ばれるところに電話をした。学校に行かなくなった頃に担任の先生から「そういう生徒が行く、市が運営している場所もありますが…」と言って教えてもらった場所だった。その時は先生も私も"まだその段階ではない"と思っていた。しかしそれから何日か経ち、車で送って行っては、そのまま帰ってくる事を繰り返し…


 その日も学校で車から降りる事もできなかった長男をそのまま連れて家に帰ってきたところだった。

 私はリビングにあるパソコンで市の名前と「不登校」そして「ひまわり教室」と入れて検索した。ひまわり教室は市内にいくつかあり、教育委員会が管轄する建物の一角や廃校となった中学の校舎などが利用されていた。その中に広い公園の敷地内にある教室があった。家から車で10分ほどのその公園は古くからあり、私が子どもの時には学校行事や子ども会で使う宿泊施設などもあるような場所だった。もちろん数年前までは家族でよく遊びにいった。

"あの公園にそんな場所が?…"

半信半疑でその教室の電話番号にかけてみた。


「大丈夫ですよ。いつでもどうぞ」

と言った女性の言葉を信じて電話を切ると直ぐに長男をつれて公園に行ってみた。家から車で15分ほどのその公園は遊具や芝生広場、テニスコートもあり、週末には大勢の親子連れで賑わうのだが、平日には広いだけにすれ違う人も少なかった。

 電話で教えられたように駐車場前の管理事務所の横の坂を登っていく。子どもが小さい頃に遊んだ遊具の横を通り抜けて少しゆくと右手に古いコンクリートの建物があり、ドアのよこには「ひまわり教室」と小さな札がかかっていた。。普通の一軒家ほどのその建物は、"そういえば、こんな建物あったなぁ"と私に思わせる物だった。もう少し坂を上がると自分が小学生の頃に子ども会で泊まった宿泊施設や釜戸があるはずだった。教えてもらったその建物は昔は研修や説明会などに使われていたような気がする。

アルミ製のドアを開けて長男と一緒に中に入り、

「こんにちは」

と声をかけてみる。すると入ってすぐの部屋ドアが開き、電話で話したらしい女性が出てきた。思ったより若い。

「こんにちは。お電話くださった…」

女性は人なつこい笑顔で出迎えると、建物の中を案内してくれた。1階は広いタイル貼りの部屋が一部屋、読書や学習ができるように大きな机が2脚と向かい合わせるように何脚かのイスが置かれていた。そして2階には卓球台が置かれている部屋が一部屋。

「ここでは何をして過ごしてもらっても構いません。漫画を読んでも、絵を描いても、ゲームをしても…卓球のラケットもボールもあるよ」

後半の一言は長男に向かって女性は説明した。こちらのことは名前と学校名と学年だけで、その他の詳しい状況は何も聞かれなかった。

 長男も少しづつ表情から緊張がなくなっていくようだった。そして

「よかったら、今日このままここで過ごしてみてもいいよ。」

という女性の言葉に

「じゃあ…」

と答え、その日から長男はひまわり教室に通う事になった。


 初めてひまわり教室に行った夕刻、担任から電話があった。

「今日、ひまわり教室に行ったんですか?」

と聞く担任は心なしか焦っているようにも思えた。私が肯定の返答をすると

「そうですかぁ。分かりました」

とだけ言って会話は終わった。

 学校や担任に断りもなく、ひまわり教室に行ってはいけなかったのだろうか?

 電話を切ったあと、私は担任に申し訳ないような気持ちがした。しかし、私も焦っていたのだ。不登校になって数週間、この頃の私はずっと家にいる息子を見ているだけで、

"この子はもうずっとこのままなのか?"

と不安がおしよせ、

"何かしなければ"

"何かさせなければ"

という気持ちでいっぱいになるのだ。

 ひまわり教室は市の教育委員会の管轄なので情報が学校にわたるのは当然であるが、私と長男がひまわり教室に行ったことを担任が誰から聞いたのか、どのように聞いたのかわからない。

 ただ、やはり親の焦りというのをどうか解ってほしいと思う。




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