第四話 ついに到着。魔法学園!
「み、見えた……」
疲労でガクガクと震える足を引きずりながら、道の真ん中で私は言った。
後ろから付いてきたアリア、クラブ、シンドバットの表情も暗いものから明るい顔へと変化した。
「町だ」
「わたし達、遂に辿り着いたんですね」
「これが魔法学園……」
全員が髪がボロボロになって、木の枝を杖にしている。
手持ちの食糧はとうに無く、最期の方は狩猟した生き物を捌いて食べていた。
そんな生活とおさらば出来る!
「こら!そんな所にいると轢いちまうぞ!」
そんな風に私達を怒鳴りつけたのは馬車の御者と思われるおじさんだった。
しかも何処かお金持ちの家なのか、おじさんの服は上物で、馬車もピカピカだった。
茂みから出てきた私達に驚いて馬車を停車させたようだ。
「何かあったのか?」
馬車の窓から一人の男性が顔を出しておじさんに尋ねた。
「はい。田舎者みたいな連中が急に出てきまして」
「全く、何処のどいつだ。オレ様達の馬車を止めるなんて大馬鹿者は」
苛立ちながら、馬車に乗っていた人物がこっちを見た
。
「へいジャック!」
「……何をしてるんだ貴様らは…」
私に気づいた瞬間、呆れ顔になったのはこの国の第二王子である銀髪のイケメン、ジャック・スペードだった。
「おや、シルヴィア達じゃないか」
別の窓からは双子の兄のエースが顔を出した。
「お知り合いですか王子様方?」
「ぷぁ〜。生き返るわね!」
渡された水筒をごくごくと飲んで喉が潤う。
そんな私を見て、エースが苦笑した。
「しかし、とんでもない大冒険だったみたいだね」
「笑えないんですよエース王子」
頬を膨らませたアリアがエースに対して不機嫌そうな声を出す。
「なんというか苦労してるなクラブ」
「労いの言葉、ありがとうございますジャック様」
王家の馬車に相乗りさせてもらう事になった私達は久しぶりに再会した王子達に旅の話をしていた。
シンドバットを鍛えるために通常より遥かに険しいルートを通っていたら道に迷ったり、その先で獣の群れに遭遇し、大暴れした。
その結果、持っていた荷物を失くしたり食糧をいつの間にか奪われてピンチになり、暴れて魔力を使い果たしたせいで魔法が使えないまま山を下って、ついに学園都市まであと少しという所に出た。
「運が良かったな。オレ達に出会わなかったら遅刻していたぞ」
「本当に助かったわ」
道に迷ったせいで時間をロスし、当初の予定だとギリギリ着くのに間に合わなくなる所だった。
もしそうなればお師匠様からは勿論、実家の両親からもキツいお説教があったでしょうね。
「だけどエース達もギリギリよね。もうちょっと余裕を持って行くんじゃなかったの?」
お城で話をした時は、学園側へ話す事があるから早めに行くと言っていたような気がする。
「それはだな、今年度から魔法学園へ転入してくる予定だったシンドリアンの皇子が行方不明になったと連絡を受けたんだ」
海を渡って来てすぐ、お付きの人達の目を欺いてどっかに行ってしまったとか。
国内で皇子様に何かあれば国際問題に発展する。なので、エースとジャックはその捜査に参加していたそう。
世の中には変な皇子様もいるのね。
「シルヴィアちゃん。オレっちも喉渇いたから水くれない?」
「私の飲みかけでよかったらいいわよ」
荷物もあって少し手狭な車内より風を感じていたいと言って御者のおじさんの横に座っているシンドバットが窓の外から手を出して来た。
水筒を渡そうとすると、何故かクラブが遮って、代わりにジャックが自分の水筒を差し出した。
「あら、別に私のでよかったのに」
「貴様という奴は無自覚に……」
溜め息を吐くジャックに私は首を傾げる。
「サンキュー王子様。……ちぇ」
空っぽになって帰ってきた水筒を受け取る。
ついでに窓の外に目を向けると、大きな門がすぐ目の前に見えてきた。
「なんだか門が綺麗になっているわね。近くの地面にも花が咲いているし」
「お姉様。昨年度の最期にご自分が何をしたか覚えてます?あれ、お姉様とマーリン先生が壊したんですよ」
そういえばそうだった。
お師匠様に告白して、好きって言ってもらった印象が強くて忘れてたわ。
トムリドルが保険として集めた大群の獣を撃退するために大魔法使って吹き飛ばしたのよね。
あの魔法は威力が高過ぎると使用を禁止されてしまったけど、あの時は聖杯による魔力の供給があったからとんでもない威力になっただけ。一人だけだと半分以下の威力も出せたいわ。
「随分と前の出来事みたいに思えるわね」
それくらいに一年目は濃かった。
本来なら始まっていないゲームのシナリオを前倒ししちゃったんだから。
後は残りの隠しアイテムを回収して学園を無事に卒業出来たらお師匠様と結婚。幸せな未来が待っている。
「そうですね。お姉様、二年目もよろしくお願いしますね」
「僕もよろしく」
「俺とジャックも頼むよ」
「シルヴィア、余計な事だけはするなよ」
みんなが私を見る。
なんだか一言多い人もいたけど、このメンバーならどんな事があっても負けはしないわ。
もう変な破滅フラグなんて無いし、今の私には婚約者だっているんだから。
「どうしてこうなった……」
門を通る為の検査の途中で、私達一行は見慣れない服装の集団に囲まれてしまった。
王家の紋章がデカデカと描いてある馬車なんですけど!?
「貴方達邪魔よ。どきなさい!」
「誰ですか彼奴は」
顔がよく見えないようにターバン?を巻いている集団のリーダーらしき人物が私を睨む。
「私はシルヴィア・クローバーよ。突然現れて取り囲むなんて何様よ」
こっちは王子が二人もいるんだ。無礼よ無礼。
「知りませんね。それよりも、これはどういう事情ですか我が君よ」
な、私を無視ですって!?
ムキー!となって馬車から飛び出そうとする私をクラブが必死に引き止める。
離してよ!一発痛いのをお見舞いしてやるんだから!
「我が君って、王子達のお知り合いですか?」
「知らんな」
「あぁ、少なくとも俺達の周りにはあんな格好の者はいない。となれば……」
エース達の知り合いじゃないのに馬車を止めたの?
それじゃあ、一体誰を……。
「まっ、先回りしてたらこうなるよね。隠してる剣を収めろよお前ら」
そう言って御者の席からシンドバットが飛び降りた。
「シン様。貴方がいなくなってどれだけ我々が心配したとお思いですか」
「オッケー、わかったよ。悪かった悪かった」
シンドバットの一声で、怪しい集団から警戒心が消えた。
どうやらリーダーと思わしき人物はシンドバットと親しいようだ。
「ねぇ、知り合いなのその人達?」
「無礼ですよ貴方」
「無礼なのはお前の方だぜモルジャーナ。この馬車はトランプ王国の王族車だ」
モルジャーナなと呼ばれた人物はシンドバットの言葉に慌ててターバンを取った。
その下にはシンドバットに似て焼けた色黒の肌のショートカットの女の子だった。
「あ、えっと、私は、」
さっきまでのツンツンした雰囲気はどこへやら。オロオロし始めるモルジャーナさん。
「王子さん達。ここはオレっちの顔に免じて許してくんない?ゴメンね」
シンドバットが申し訳なさそうに頭を下げると、モルジャーナさんとその部下達は深々と頭を下げた。
「そんな事だろうと思ったよ。まぁ、行方不明になった主人を心配したのは理解したから、今回は無かった事にするよ」
「いや〜、ありがとね」
エースが許すと、シンドバットは笑顔で礼を言った。
私は話が見えてこないんだけど、クラブとアリアはなんだか顔色が悪くなっている。
キョトンとした私を見てジャックは顔に手を当てて溜め息を吐くし、意味が分からない。
「じゃあ、ここで一旦お別れで。また後で会おうねシルヴィアちゃん!」
「ねぇ、シンドバット。貴方って一体何者なの?」
私の問いかけに対して、チャラ男みたいな雰囲気の彼は気まずそうに答えた。
「オレっちはシンドバット・シンドリアン。まぁ、海の向こうにある国で皇子やってます」
やっぱりか……と馬車の中で誰かが呟いた。
ーーーわ、私そんなの聞いてないんですけど!?
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