二話 全裸の変態を捕まえたよ。
「お姉様大丈夫ですか!?」
私の悲鳴を聞きつけてアリアが走ってやって来た。
「だ、大丈夫よ……ただアレにビックリして」
少し震える手で、アレと私は指差す。
そこにはちょっと成長して全長が8メートルサイズのエカテリーナにぐるぐる巻きに拘束された男性の姿があった。
「ありゃ?オレっちかなり不味くね」
頬を引きつらせながら男性が喋った。
日焼けした色黒の肌。灰色の髪に海のような青色の瞳。体格は細いが、引き締まっていて筋肉はしっかりとある。
どうしてそこまで身体的特徴を捉えているかというと、
「お姉様、この人はどうして全裸なんですか!?」
「知らないわよ!いきなり全裸で倒れてたんだから!」
アリアは顔を真っ赤にしていた。
普段からセクハラ紛いの事を私にするアリアだけど、男性の裸には免疫が無かったようだ。
私だって、まさか男の裸なんて見る機会が無くて驚いている。初めて見る裸体はお師匠様かと思っていたのにどこの誰だか分からない人だなんて!
「シャー?」
「あー、とりあえずこの蛇ちゃんどかしてくんない?なんかヨダレが垂れて食べられそうなんだけど」
きゃーきゃーと騒ぐ私達に対して、裸の変態は顔を青くして言った。
「いやー、困った困った。なんつーか、水浴びしてたら野生の猿に荷物盗られちゃって、元から軽装だったのもあって食べ物も持ってなくてさ」
「は、早く服を着なさいよ!」
持っていたコートを着せて野営地に戻った私達と変態さん。
寝ていたクラブを起こして、彼の持っていた着替えを渡す。サイズが合わないのか服がピチピチだけどそこは我慢してもらおう。
ーーお師匠様の残り香が付着していたコートだったのに。……うぅ。
後から洗濯はするけど、身に付ける気にはなれない。このままこの男にあげちゃう?
「助けてくれてサンキュー。ついでに食べ物くれたらありがたいんだけど?」
「図々しいわね……ほら、パンよ」
荷物の中から明日の朝食用に用意しておいたパンを投げ渡す。
昼の間に山菜やきのこの採取はしているから、明日はそのスープだけの朝食ね。
「うーん。味はイマイチっすな」
「文句言うなら食べなくて結構よ?」
「冗談冗談。今なら何でも食べちゃうよ」
余程お腹が空いていたのか、男はあっという間にパンを食べてしまった。
水筒の水も飲んでひと息つく。
それを見て話を切り出したのはクラブだった。
「あの、貴方のお名前を教えて貰っていいですか?」
「オレっちの名前?いいぜ。オレっちはシンドバット。ヨロシクな」
シンドバットと名乗った男は笑顔で手を差し出した。
フレンドリーというか馴れ馴れしい人ね。
クラブは握手に応じて話を続ける。
「僕はクラブ・クローバー。こちらはアリアさん。そして最初に貴方を発見したのが姉のシルヴィアです」
「クラブっちにアリアちゃんにシルヴィアちゃんね。ヨロシクでーす!」
こっちにも手を伸ばしてきたので、それとなく握手に応じる。
「こんな可愛い子達に助けられるなんてマジでラッキーじゃん。もしかして運命の出会いってやつ?」
「こんなので運命感じないで。これからどうするの?見た感じだとこの辺りの人じゃないけど……」
口説いているみたいだけど、私にはお師匠様という運命の人がもう既にいる。こんなチャラそうな人には見向きもしないわ。
男の容姿は色黒。あまり見かけない肌色だし、言葉も少し訛っているような気がする。
「実は他所から用事があって来たけどさ、ちょーっと一人で旅しててさ。地理とかわかんねーから案内してくれると助かるんだけど……」
両手を合わせてお願い!とシンドバットは頭を下げた。
どうする?とクラブとアリアが私を見る。
このメンバーだと私がリーダーみたいな扱いになっている。
怪しいし、チャラそうな感じはするけど持ち物を全て失った可哀想な人を見捨てるレベルのロクでなしになったつもりはない。
「別に良いわよ」
「オッケーオッケー。ありがとシルヴィアちゃん、マジ感謝!」
「ちょ、何するのよ」
シンドバットは私の肩に手を回して来てバシバシと叩く。
さっきの握手といい、スキンシップが多くないかしら?
「シンドバットさん。姉さんから離れてください」
「あーめんごめんご。妬いちゃった?」
「妬いてません!」
シンドバットがからかうとクラブは大きな声で否定した。
そこはお姉ちゃん的に妬いて欲しかったんだけどなぁ。僕の姉さんに触るな!とか。
「あんまり私にベタベタ触ると今度は本当にエカテリーナのエサにするわよ」
「それは勘弁。生きた心地しなかったすわ……」
私との距離を開けて座り直すシンドバット。
物分かりは悪くないようね。
「案内するのは構わないけど、私達には目的地があるの。だからそんなに長くは一緒にいられないわよ」
見捨てては置けないけど、時間がかかるのも困る。
予定を少し押しているから新学期に間に合わないなんて事態は避けたい。
「あー、そこは大丈夫っすわ。その制服、魔法学園のだよね?オレっちの目的地もそこだから」
「魔法学園に?でも、貴方みたいな人いたかしら?」
これだけキャラが濃ゆいと目立ちそうだけど、私は知らない。
記憶の中にある【どきメモ】にもいなかったわよね?
クラブとアリアの方を見ると、二人共知らないと首を横に振った。
「えっと……今年からの入学?転入?って感じ。二年生なんだけど皆んなは何年?」
「私達も二年生よ」
大人びてる……というより軽薄そうな感じのホストみたいで年上かと思っていたけど。
「魔法使いなら猿の相手くらい簡単じゃなかったの?」
「それがちょっと訳ありでさぁ、魔法を使うのが下手っぴなんだよねー。まぁ、足りない分は根性で?どうにか?するけど」
あははは、と頭をがしがし掻くシンドバット。
「魔法学園に行くのもそんな自分を鍛えようつーわけで。……その前に一度この目で確かめたい事あったんだけど…」
後半、何かを呟いていたが聞こえなかった。
野生の猿にすら負けてしまう実力だと下位のクラスにしか入れないでしょうね。
「魔法学園には優秀なせんせーがいるらしいし?ちょっと期待してんだよね」
「そうね。とびっきり優秀で素敵な先生がいるわよ。天才よ天才」
つい自慢げに話をしてしまう。
彼が言う優秀な教師とはお師匠様の事だろう。他所の地域でもお師匠様の名は広まっているのかしら?だとしたら未来の妻として鼻が高いわ。
「シルヴィアちゃん達も学校で優秀なんでしょ? さっきの召喚獣の強さとか半端ねー感じだし。あーあ、オレっちも強くなりてーな」
「そんなに言うなら少し稽古してあげましょうか?」
「ね、姉さん!」
何言ってるの!?と言いたげなクラブを制止する。
心配いらないわよ。お師匠様の一番弟子である私が指導すればどんな子でも成績上がるって。
Fクラスの生徒だって私の教えで成長出来たんだから。
「マジで!?シルヴィアちゃん助かるわー。器が大きい。聖女様とか巫女様みたいじゃん」
「いやねぇ、そんなわけ無いじゃない。おほほほ」
次々と褒め言葉を言って煽ててくるシンドバット。
わかりやすいお世辞だけど嫌な気はしないわ。
「よーし、魔法学園に辿り着くまでにじゃんじゃん鍛えるわよ!」
「イェーイ!!」
「クラブさん。わたし、嫌な予感が…」
「僕もだよアリアさん」
視界の先では何やら盛り上がって話をしているシルヴィアとシンドバット。
「Fクラスの時と同じやり方だと間違いなくあの人潰れますよ」
「僕らもとばっちりを受けないように気をつけないと。……姉さんの調子がいい時は何か事件が起こるんだから」
クラブはそう言って、旅の荷物の中からマーリン特製の胃薬を取り出して飲むのだった。
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