天導の巫女

@R-tani

第1話プロローグ



が出たぞー! 皆、避難しろ!」



カン、カン、カン、カン!



既に深夜を回り、周囲は闇が支配していた。


街に設置された警報の鐘が四回鳴り響くと、住人達は慌てて飛び起き、荷物を纏めて近くの大きな建物へ向かって逃げ惑う。



「どこから穢れ人が?」



「ああ、それが……らしい」



「えぇ!? 世も末だねぇ……」



住民達は避難場所知り合いを見付けると、すぐさま状況確認の為に情報交換をする。


次第に穢れ人の出現ポイントらしき天草の屋敷から火が立ち昇り、周囲は煙に包まれていった。









「グアァァァァ!!」



「あなたっ!! どうしてっ……!?」



屋敷の中では灰色の衣に包まれた存在が頭を抱えながら悶え苦しんでいる。


その側には恐らくこの存在に殺されたのであろう、和服を着た男と女がそれぞれ血を流して倒れていた。



「お母様……お父様……は?」



「紫苑っ!? こっちに来てはいけません!」



「グォォォォ……」



「ひっ……お母様、怖い……うぇ~ん」



屋敷の中で少女が灰色の存在に恐怖し、涙を流しながら大きな声で泣き始めた。


すると、灰色の存在がその声に反応し、クルっと顔を少女へ向けた。


ニタァっと不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりとその足を踏み出していく。



「ダメっ!! あなた、それだけはさせません!!」



近くに居た女性は足を怪我しているのか、しかしその痛みを顧みずに必死に少女の近くへと駆け寄り、強く抱きしめる。



「お母様……」



「逃げなさい! 紫苑! 誰か、生き残ってるものはいないのですか!?

誰か来て!」



すると、再び灰色の存在は頭を抱えて悶え苦しむ。


そして、二人から距離を置くと、柱に自身の頭部を何度もぶつけていく。



「ヤメロォォ……私は……ワタシダ! 叶恵、紫苑、ニゲロ……もう、コレイジョウは……ガァァァアア」



遂に灰色の存在は自我を失い、ニタァっと不敵な笑みを浮かべると二人との距離を詰め始めた。



「あなた、あなた一人にはさせません。 いつまでも一緒におります」



すると、後方からもう一人の女性が現れた。



「お義姉様!」



「お願い、紫苑を連れてここから逃げて下さい」



「お兄様はっ!! まさかっ……」



「そのまさかです。 ですが、一人には致しません。

私が必ず……だからお願い! 紫苑を連れて逃げて!」



「くっ」



女は涙を拭い、少女を抱きしめた。



「紫苑、行くよ! 走るの!」



「お母様は!? お母様っ!」



「ごめんなさい、紫苑。 でも、きっと生きて……」



「ウォォォォオオオ!!!」



ズバっと灰色の存在の手が女性の腹部を貫く。



「あな、た……あ、なたの、所為じゃ、ないで、すよ……」



よく見れば灰色の存在は目から涙を流していた。


それに気付いた女性は腹部を貫かれながらも優しく抱きしめ、そのまま息絶えていった。



「ウガォォォォアアア!!!」









「もう、走れない……です」



「ゴメンね。 おいで」



女性は少女をおんぶして再びその足で駆け抜けていく。


既に屋敷からは遠く離れていた。


だが、油断が出来ないからこそ女性もまた、必死に森の奥へと足を運んでいくのだ。


だが――



「ウガァガァァァァ!」



「しまっ!?」



ズバっと上から降りて来た灰色の存在に女性もまた、右肩から腹部まで一気に鋭い爪で抉られてしまった。



「し、おん……はし、って……」



「お姉ちゃん! うぅ……怖いよぉ……やだぁ!」



「ウウゥゥゥゥ……」



「やだぁぁ!!」



灰色の存在が徐々に少女へ近づいていき、その手を伸ばした。


しかし、それは少女へ到達する事は無かった。




「おいおい、何たってこんな山奥に穢れ人が居るんじゃ?」



「ォォォ……」



灰色の存在が声のする方へ振り向くと、そこには小柄な老人が少女を抱きながら立っていた。



「ん? お前その紋章……」



灰色の存在はよく見れば腰に一本の刀を差していた。



「何故お前が……という事は……」



老人はその紋章に見覚えがあるらしく、少女を見つめた。



「ちょっと待っておれ」



「やっ! 皆いなくなっちゃう」



「大丈夫じゃ。 ほんの一瞬じゃ」



老人が少女の頭をぽんぽんと撫でると、腰から銀色の筒を取り出し、構える。



「お主が家族を殺めたとは思えん。 じゃが、目の前の事実だけ見ればそうなのじゃろう。 悪いが祓わせてもらうぞ」



「ウガァァァ!!」



灰色の存在も大きな雄叫びを上げ、老人へと襲い掛かった。


その声は山全体に響き、木々で休んでいた鳥などが一斉に羽ばたく。



「妬み、恨み、全ての罪を清めて純魂へと還りたまえ。

我が浄勁を以て汝の命、天へと導かん……ふんっ!」



そして老人と灰色の存在が交差して数秒後。


少しずつ灰色から水色の光へと変化していく。



「す……まん、武、ひ、こ……さま……」



「全くだ。 しかし気を付けねばならんな」



「むす、め、を……頼み、ま……」



灰色の存在はその全てを水色の粒子に変え、空へと舞って消えて行ったのだった。



「全く……」



老人が少女を見ると、疲れ果てたのか、既に眠りについていた。



「こんな幼げな少女には過酷じゃろうて……」



老人は少女を自分の住処まで運んでいくのだった――





穢れ人と呼ばれる存在が出現した翌日。


街ではその出現ポイントとなった屋敷の中から5人の遺体が発見された。


また、後に情報を得た者達が屋敷から遠く離れた山や森を探索し、もう1人の遺体を発見。


引き続き捜査が行われ、世間では〝伍家、天草穢れと成り果て堕落〟と広まった。

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