第151話

 

「ーーっっっ! ……あ、ふ、二人とも?」


 光線が俺たちを吹き飛ばそうと迫って来たので、せめて周りの人たちだけもと俺たちの前に障壁を張ったのだが。


 そのさらに手前、屋敷を覆うように大きな障壁が出来上がったのが、窓から見て取れる。

 それを作ったのは、あのドラゴン姉妹のようだった。


 空からやって来た二匹は、協力して強固な魔法の盾を作り出す。

 ドラゴンだけあって、その性能は素晴らしいようで、見るからにすごい威力だろう光線を難なく受け止めている。


「……いや、眺めている場合じゃない!」


 ほっとしてしまったが、俺も慌ててそこにかぶせるように魔法を使用する。三人の魔法障壁が重なり合い、より強固なものとなる。


「<ヴァンさんですか!?>」


「<イアちゃんか、そうだ。ありがとう、よく間に合ったな?>」


「<実は空から海を見下ろしていたら、当然タコの魔物が現れて……慌てて障壁を張ったのですがっ! っっっ>」


「<ま、待ってくれ、今張り直すから!>」


 焦燥が伝わってくる。

 光線は次第に収束していったが、まだ攻撃を受けているのだろう。早く助太刀に行かないと。


「陛下、失礼致します! 魔物はお任せくださいませ」


「あいわかった、頼んだぞ」


「はっ」


 俺は屋敷に放置タイプの障壁を設置し、急いで海上都市へ転移する。


「イアちゃん! ルビちゃん、大丈夫かっ?!」


 おおっ!? なんだこれは。


 白い頭に白い触手を伸ばした一つ目のタコが、その腕を振り回し暴れていた。

 体長はとんでもない大きさだ、怪獣映画の敵モンスターかと思うくらい、ど迫力の光景に度肝を抜かれる。


 タコの魔物は、その血走った黄色い目をぐるぐると忙しなく動かしながら、空を飛ぶ二匹の竜に対して執拗に攻撃を仕掛けている。


 さらに大きな問題が一つ。

 なんと、転移した空から見下ろす海上都市部が半壊していたのだ。

 街の真ん中を左右に分断するように太い線が走っており、そこには水が流れ込んでいる。おそらくだが、あの光線攻撃によって破壊されてしまったのだろう。えぐれた地面に海水が走るせいで、都市の中に局所的な荒波が発生してしまっている。


 そしてその海面には、幾人もの兵士らしき者たちが浮いており、必死に海岸・・にたどり着こうとしている。だがあの様子ではすぐに荒立つ波に飲み込まれてしまうだろう。


「助けないと! 魔法で陸地を作るか? いや、それだと事故が生きる可能性もあるか……」


 土に半身が埋もれて真っ二つ、というのはよくある事故だ。

 それを防ぐためには、、まず海中に沈んでしまっている兵士がどのくらいいるか、どの深さから嵩上げしていけばいいかを調べなければならない。だが当たり前だが、そんな悠長な時間はない。


 また他には、風の魔法や水の魔法で波を調整し穏やかになるよう抑えるという方法もある。だが残念ながら今の俺でもそんな細かな計算をし調整するような芸当はできない。

 最新スパコン何台分もの計算を一人でしろと言われていふようなものだ。到底不可能。


「どうする、考えろ俺…………そうか、わかったぞ! ルビちゃんイアちゃん、俺は今から兵士を助ける! そっちでもう少しだけ相手を引きつけておけるか?」


「<ぐぬぬ、頑張って見るのじゃ! 早くするのじゃぞ!>」


「<こちらは任せてください、今のところ私たちに矛先を向けているようなので、引きつけてみます!>」


「頼んだ! さて、やってみますか!」


 俺はまず、四角い形になっている街の海側、抉られはじめの方に、左右を繋ぐ形で土壁を作る。手応えがあるまで下に伸ばしていき、海底にぶつかったのを認識してそこで止める。これでまずは開いた穴からの海水の出入りを止めた。幸い、壁に巻き込まれる兵士はいなかったので良かった。


 そして次に、俺は一度海水面まで降り、その中に片手を突っ込む。


「出来るかな……?」


 使うのは、倉庫魔法。ステータス上では『無限倉庫』のスキルとなっているものだ。これは早くからスキルレベルがマックスになっているため、MP依存のこのスキルでは今の俺の魔力数値だとかなりの量を収納できる。

 そしてそれはもちろん、膨大な体積である海水もだ。


 そのまま、倉庫に向かって海水を流し込み始める。

 倉庫の中はなんでもごちゃ混ぜなんてことはなく、きちんと種類ごとに分けられるので、中に入っているものが丸ごと水浸しなんてことにはならないのでその点は安心だ。


「やはりかなりの量だなっ。だがまだいけるぞ!」


 海水が吸い込まれて行くにつれ、先ほど防いだ壁の方から順に、兵士が残った泥の上に晒し出されていく。中には明らかに死体であろうものや、それですらない肉塊、またその他街の建物や道の残骸も見えている。


 そうして五分もしないうちに、すべての海水が無限倉庫の中に収まり、破壊された跡だけが残った。


「大丈夫ですか!」


 生き残っている兵士も当然幾らかダメージを受けている様子で、中には重傷者もいる。


「よし、とりあえず飛ばそう」


 そしてさらに魔法を行使。風魔法で優しく兵士たちを浮かした後、まとめて丘にある本陣に連れていく。

 あそこにはミュリー他回復魔法の達人教会関係者がわんさか待機している為なんとかなるだろう。


 空を沢山の人間が生身のまま浮かぶシュールな光景を作り出し、一気に飛行する。


 今回の反撃作戦最大の拠点となる先ほど俺がいた屋敷のある丘。屋敷はもう少し奥の方にあるが、その手前に広がるだだっ広い草原には待機中の兵や後方支援部隊などが詰めている。保養地的な別荘地だけあって変に開拓されているわけでもなく、その分すぐに軍事拠点に転用できた。


「ヴァンさん! 大丈夫ですか? 一体海で何が起こって………それにさっきの光線、まさか魔物? あの、後その空に浮かんでいるたくさんの人たちは」


 ミュリーが話しかけてくる。

 彼女の他にも、草原にいた人々が空を見上げて指をさしたり騒いだりしている。


「待って待って、そんなに一度に質問しないでくれ。大丈夫、魔物の方は今はベルちゃんたちがなんとか抑えてくれてるから。あと、この人たちはさっきの攻撃で負傷した人たちだ。治療をお願いしたいんだが、頼めるか?」


「はい、わかりました!」


 そして俺は持ってきた負傷者たちを原っぱに優しく下ろす。

 自力で動けそうなものは自分で。そうでないものは人の手を借りつつ大至急治療所まで運ばれていく。


「じゃあ、あとは任せた!」


 俺は周りにいる兵にUターンの意思を伝えすぐさま海上へ戻る。


「<おお、帰ったか! 遅いのじゃ!>」


「いやいや、これでも頑張った方なんだが?」


 ルビちゃんが文句を言いつつ、未だ暴れ続けるタコをいなしている。


「<ヴァンさん、そろそろバトンタッチしていいでしょうか……っ>」


「ありがとう、二人とも。ここからは、俺が相手だ化け物め!」


 二匹を後方に下がらせ、俺は自分の身長の何十倍もある魔物と対峙する。


「ゴポポポッ! シネ、ニンゲン!!」


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