第112話
「な、何をするのですか!!!」
私はどういう理由でなのかいきなりヴァンさんを攻撃したグチワロスを警戒し攻撃態勢を取る。ヴァンさんは床に倒れ伏し、微動だにしていない。まさか、彼は今更私と手を切って、穏便に済ませるはずだったカオスに暴走を支持したというの? ならばベルさんも危ない……!
「まあまあ、慌てずに。神樹の血の一族にして変革派の実質的リーダーである上級神ドルガドルゲリアス。主神ネヴ=カ=ドゥ=ネズアルの名を持ってその功績を称えさせてもらうよ」
「まっ! 何という誉なのでしょう! 人生最大の素晴らしい晴れの日になりましたわよ、アナタ!」
「グフッ……主神様の名を使い称賛を受ける幸福……噛み締めるが吉……カハッ」
「だ、大丈夫かいアデス?」
「心配御無用……もう大丈夫であると主張」
「そうかい? まあ、本番はこれからだからね。"あんな一撃"くらいでくたばってもらったら困るよ全く?」
「善処する所存」
三人の会話が頭に入ってこない……主神様の名を騙る? それは神界において最も重大な罪の一つであるはず……ありえない、まさかそんな、ご当人だと仰るの!?
しかし、グチワロスは今までもずっと地球の管理人として存在していた。実は何らかの理由で偽名を名乗っていたというの? いや、でも今のグチワロスと今までの私の知るグチワロスとは、何かが違う……
そう、目の前で明らかな強者だと確信できるほどの二柱に気安く話しかけるその姿は、『有』であり『無』、『虚』であり『実』だ。存在しているのにしていないように感じられ、しかし私の五感は確かにその場に佇んでいることを主張して譲らない。いったい、いったいこの神は、いいえ、このお方はどなたなのだろうか?
「えっと、その顔を見ているとどうやら僕のことを疑っているみたいだね」
「なんとまあ! 不敬にも程がありますわ!」
「不快。いくら温厚な我とて怒りを覚えずにはいられないと憤怒」
「あの、えっと、すみません?」
とりあえず頭を深く下げておく。グチワロスも含め三柱とも逆らっても全くの無駄であると言い切れるくらいの力の持ち主だということくらいはわかる。
「んー、とりあえず、ヴァンくんを調律神のところまで連れて行こうか。細かい説明は人間のお二人を返してからということで」
「え、はい」
と言うと、グチワロスモドキはヴァンの身体を宙に浮かし、脇に連れて転移する。続いて私も、白銀の神とゆらゆら蠢いている黒い神と共に、調律神マキナ卿の守護しているはずの
「おお!! またお会いしましたな。これはこれは、お二方もご一緒で」
そうしてそこにはやはりマキナ卿が。だが、側にはベルが寝転がされていた。
「再開の挨拶なぞ不要」
「そうね、また今度ゆっくりね〜」
「ほっほっ、そうしましょうそうしましょう。ではこちらも早速仕事を」
マキナ卿はベルと今グチワロスモドキが連れてきたヴァンさんの二人に向けて魔法を使用する。
「マキナ卿、何を!?」
「まあ、慌てるな。これは記憶操作じゃ。そう、知るべきでない情報は封印させてもらう。記憶を消すのはリスクが高いからの、だが一時的に脳の奥底へ押し込むくらいならばまだ安全じゃからな」
二人の身体が深い碧色に発光する。
「なぜ記憶を。彼らは私たちに協力してくれていたというのに、また世界の中に閉じ込めるというのですか?」
「女神ドルガドルゲリアス」
「は、はい」
グチワロスモドキが不意に話しかけてくる。
「二人を世界の中に戻しなさい」
「えっと、でも……」
本当にいいのだろうか? ここまでは後ろの二柱の圧力もあってあまり抵抗できなかったが、今このチャンスを伸逃せばヴァンさんたちは居なくなり、またこちらの戦力も大幅にダウンしてしまう。
「いいからさっさとしましょう、ね?」
「くっ、はい」
白銀の神の方が催促してくる。ヴァンさんという戦力を失うのは痛手だが、ここで私が死ぬことも問題だ。変革派の皆の思想がそんな簡単に揺らぐものではないことは信じている。しかし一方で、それをまとめ上げるもの、指導者がいなければならないのも事実。
ここはお二人を別の神のところに逃して、後のことはマキナ卿にお任せするという手もないことはないが……
「まあまあ、でもよく考えてよ。この二人には、今から神界のそれぞれの勢力の代表として闘ってもらうんだ」
「え? 二人が、戦闘?」
と、白と黒をそれぞれ眺める。
どちらとも、あのヘラキュロスでさえ優に超える強大な力を有している。正直なところ、ここから逃げ出せと私の頭が警鐘を鳴らすくらいなのだ。
「……まさか、貴方は!!」
もしこのグチワロスモドキが本当に主神ネヴ=カ=ドゥ=ネズアル様なのだとしたら、その戦闘の思惑はきっと……!
「おお、僕が何がしたいか気がついたようだね。そう、その人間には最後のひと時を過ごしてもらおうって言ってるんだよ。君が僕や二人に逆らったところで、何の意味もなさないことくらいはわかるよね?」
「はい…………しかし、希をかけるくらいは許されるはずですよね」
ボソリと呟き、私は『ドルガ』のコンソールを弄る。
出来るだけ向こうの時間の方が早くなるよう。しかし世界に影響が出ないギリギリでなければ……いつかきっと、ヴァンさんなら再び神界に現れて、今度こそ。
「二人の魂を世界の中に戻す設定は終わりました。では二人を」
「そうかい? じゃ、頼んだよ」
「ええ。ですので、もう少しだけお時間を」
「まさか、いきなり始めたりはしないよ。きちんと御触れを出しておかないとね」
グチワロスモドキはウィンクをする。だとならばその分時間も稼げる……!
「では」
そうして私は
宙に浮く二人を、盆の覆水に帰した――――
「――――――――んん、ここは?」
目を開けると、見慣れぬ風景……いや、正確にいうとどういう場所かはわかる。
病院のベッドの上? 恐らくはだが、俺は今治療を受け寝かされているようだ。
「!! ヴァンさん、目を覚まされたのですね!」
「ん? え、エンデリシェか?」
ベッドの脇にある椅子には、婚約者となってしまったエンデリシェが座り、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
右隣にもベットがあるようだが、そちらは仕切りで隠されて中を伺うことはできない。
「はい、良かったです! ベルがあんなことをするなんて……ヴァンさん、もう少しで危ないところだったんですよ?」
「な、何のことだ?」
「覚えていらっしゃらないのですか? 彼女の隠れ家に拘束して、あなたのことを肉人形のように扱ったじゃありませんか」
「ああ、そういえば、そうだったか?」
確か俺の顔写真やらが一面を覆っていた部屋でそんなことをしていたんだったか。あれ? 俺は何で倒れたんだろう? それにその後、誰かと会って----んん、思い出せないな、記憶にモヤが掛かったようだ。喉元まで出掛かっているのがどうしても晴れない。
「それで、急に意識を失った二人を、こちらの旅人さんが助けてくださったんですよ?」
と、エンデリシェが手で指すのは、旅装束を着たレンジャーの少女であった。
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