第41話
人々の歓声は止むことがない。私は話を続ける為に、手を前に突き出し人々に落ち着くよう促した。
「……最後に、一つ伝えたいことがある」
私は決心したことを実行する。兜に手をかけ、変声の魔法を解除した。
――――ザワザワ。
人々は私の顔を見た瞬間、再び騒ぎ出した。
「な、そ、そんな……」
「あれが、勇者様……」
私のことを指差したり、口をぽかんと開けたり、民は皆驚いている。
「ベル!?」
「何を!」
仲間たちにも伝えていなかったため、目下に群がる民衆と同じ反応だ。
「……見ての通り、私は女性です。私の名前はベル=エイティア。最初の勇者の仲間の子孫です」
「エイティア!」
「最初の勇者の仲間の子孫、だって?」
「綺麗な声だ……」
「こほん、皆さんには騙したようで申し訳ありませんでした。ですが、勇者という立場上、身分を明かすことができなかったのです。ごめんなさい」
「ベル……」
エメディアが驚きながらも一番最初に反応した。
「……ふっ。してやられたな」
ジャステイズも私の考えを理解してくれたようだ。
「魔王は確かに倒されました。私達の手によって。よってここに、勇者ベルとして、世界に平和が戻ってきたことを宣言します!」
…………
うおおおおおおおお!!
庭園は先程と同じく、熱気で包まれる。
「勇者ベル、万歳!」
「ベル様万歳!」
「嫁に来てくれー!」
「うおおおおお超絶美人きたー!」
先程の宣言とは違った歓声も聞こえてくる。今まで勇者の素性というものはプリナンバーの一族以外にはほぼ知られていなかったため、私の代で人々は勇者という存在について認識を改めることになる。良くも悪くも、この世界の転換期となってくれるだろう。
プリナンバーの権力は多大なるものがある。しかしこの国の王にして”最初の勇者の子孫”であるレオナルド=パス=ファストリア陛下はそのような旧態依然な世界のあり様を変えようと為されている。真の平和は皆が一様に手を取り合って初めて生まれるものであると。その為に、まずは自分達の不必要な権力を放棄しようと提案されたのだ。
他のプリナンバーの一族が何を考えているかはまだわからない。勿論抵抗もあるだろう。しかし私は陛下のお考えに賛同し、魔王が倒された今、真の平和を実現しようと決心したのだ。勇者としても、プリナンバーとしても、最後の大仕事になる。使える”力”は全て駆使するつもりだ。プリナンバーの権力を無くすのに、権力を使わなければいけないというのが何とも皮肉ではあるが、こればかりは仕方がないことだ。
それに、世界の統治についても急な変革ではなく、緩やかな変革でなければならない。下手をすると新たな権力を巡って戦争が起きかねないからだ。陛下は権力の集中についても既に考えがあるらしいが……
「皆の者!」
私がそんなことを考えていると、不意に後ろから声がした。私がちらりと振り向くと、何と国王陛下だ。
陛下が御出でになられたことにより、騒いでいた民衆が一瞬にして静かになる。これも陛下のお力であろう。
「よくぞ集まってくれた。勇者ベルにより、魔王は倒された。改めて、礼を言う」
陛下が私に向かい言う。私はにこりと笑い返す。
「そう、ベルの言う通り、勇者とは常に”選ばれしもの”であった。プリナンバーという一部の特権階級から神託によって選ばれ、魔王を倒す。その倒した功績により更に権力を増す。この構図が何千年も続いてきたのだ」
陛下は勇者の仕組みについて、この世界の仕組みについて、洗いざらい話し始めた。
「――――以上の点を踏まえて、私が考えるのは、議会制民主主義、と呼ばれる仕組みだ。私のような上に立つものが全てを決めるのではなく、民の中から選ばれた代表が物事を決め、政を治める。民と言っても、貴族だけではない。文字通り、今ここにいる皆の中から選ばれる可能性も大いにあるのだ!」
ざわざわ……
「俺が、王様に?」
「ちげえよ、話聞いてたか?」
「町内会みたいなもんかな?」
「うむ、皆で話し合って決めよう、という話であろうな」
人々は陛下の提案に驚きを隠せない。話をイマイチ理解しきれていない者もいるが、大体は陛下が何を為さんとしているかを察したようだ。
プリナンバーにも、代表会議と呼ばれるものがあった。戦争のため暫く開かれてはいなかったが、世界の統治については基本その代表会議で取り決められていた。大国間の話し合いも含めてだ。その仕組みを広く市井の民に至るまで開放しようというわけだ。
「ごほん! 話を続けよう。いきなり、という訳にはいかないので、まずはプリナンバーだけから世界中の国の代表による会議という形にまで広げようと考えている。皆が参加出来るようになるにはまだ時間がかかるやもしれんが、そう遠くない未来、ふとした一声が人々の生活を豊かにする日がやってくる。その時まで、私に力を貸してもらいたい……! 頼む」
陛下が、頭を下げる。
「なっ!」
私は思わず声を上げてしまった。
「「「「陛下!?」」」」
ジャステイズたちも皆一様に驚く。
「陛下が頭を」
「そんな、俺たちに向かって……」
「お、畏れ多い……」
「どうすれば!?」
こちらを見上げる民も戸惑いを隠せないでいる。当たり前だ、今まで半ば崇拝してきた存在にいきなり下手に出られたのであるのだから。
「…………」
陛下はそんな声を聞きもせず頭を下げ続ける。普通の為政者なら決して出来る行動ではないだろう。しかも世界の支配者たるプリナンバーの実質トップであるのだ。ここまでする決断はそう容易いものでは無かっただろうに。
「……皆、落ち着け! 陛下の想いは伝わったはずだ。ここは我々の気持ちで応えるべきではなかろうか!」
私は咄嗟に、人々に向かい叫んだ。
「……そ、そうだ。陛下の話は素晴らしいものじゃないか!」
「そうよ、確かに驚いたけど、私達にもできることがあるってことなのよね?」
「みんなで物事を決める……素晴らしい!」
「賛成!」
「私も賛成だわ!」
「おう、ベル様に誓って陛下に協力するぜ!」
何故私に誓うの……? とにかく、皆陛下の話に納得してくれたようだ。
「……ありがとう、皆……」
陛下も漸く頭を上げ、人々の歓声に耳を傾けている。なんだが、感慨深いものを感じるな。
「よし、そうと決まったら、まずは勇者ベルの凱旋パーティだ! 今日は国を挙げて祝うことにしよう! 皆、魔王がいなくなったことを、勇者の帰還を、そして人類の手に平和が戻ってきたことを、共に祝おう!」
陛下は吹っ切れたのか、普段は見られないようなテンションでそう叫んだ。拳を天に突き上げ、もはや宴会モードだ。
「うおおおおおおおお!!」
「国王陛下、バンザーイ!」
「勇者ベル様、バンザーイ!」
「平和、バンザーイ!!」
民もそれに呼応するかのように、万歳三唱の嵐だ。改めて、平和がこの手に戻ってきたのだということを感じる。
私がふと下を見ると、いつの間にかヴァンがいなくなっていた。一体どこに行ったのだろうか?
私はバルコニーを後にし、人々を尻目にヴァンを探しに向かった。
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