第4話

 

「次は経験値倍増ね。これはわかるよね?」


「えっと、モンスターとかを倒したら経験値が通常の二倍貰えたりするやつですよね。それもゲームでたまにありますね」


「うんうん、知っているね。その通り、この能力は敵を倒したら、二倍どころか通常の何倍もの経験値を貰えるんだ。どう、チートっぽい?」


「おおっ! はい! そんなのがあれば世界征服も夢じゃありませんよ!」


 最悪寄生プレイでもして楽にレベルを上げ、強敵を倒して更に一気に上げるなんて手もあるからな。戦闘は何も一人で行うものじゃないんだゼ! ゲームじゃ嫌われるスタイルだが異世界でアレコレ言ってくる奴なんていないだろうし。


「ああでも、経験値倍増は最初はスキルレベル1だから、自分でちゃんと倒さないと意味ないよ。君の行く世界は、レベル1では経験値が二倍になるんだけれど、魔物などを最後に倒した人はそのまま、パーティになっている人は二分の一になるという世界だからね」


 そ、それじゃあ、寄生プレイをしたらしばらくは普通の経験値しか貰えないと……?


「そんなのアリかよ……」


「ズルはダメだよ。あの世界の人だって頑張って生きているんだ」


「じゃあ、なんでチートをくれるんですか? 有難いとは思いますが、それなら俺も普通にさっさと送り出せば良かったのでは?」


「……ご、ごほん」


「……何かあるんですか?」


「……内緒だ。良いかい、これは聞いてはいけないことだ。これ以上聞いたら神様怒っちゃうからね? そのままほっぽり出すからね?」


「はあ? 神様が隠し事とか……わ、わかりましたよ。何かは知りませんが、何かがあってこんなことをしてくれていることは分かりましたから」


「そうかい、ふう。だから、経験値が欲しかったら、当分の間は自分で戦うこと。その為のクリエイトでもあるんだからさ。ま、レベルが上がれば寄生なんてしなくとも普通に戦えるようになるし、どのみち自分の力に頼ることになるだろうけどね」


「はあ、そうですか。あの、戦いと言ったらもちろん、魔法や戦闘スキルなんかもあるんですよね?」


「うんうんあるよ。魔法は火・水・土・光・闇・聖の六つだね。一般に使われている生活魔法というものもあるが、これは戦闘用ではないので、大まかかな魔法の体系とは別に考えられているよ」


「成る程、魔法についてはゲームなどと似たような感じなのですね。闇魔法と聖魔法についてだけ説明してもらえますか?」


「闇魔法は一言で言えば召喚魔法などの特殊な能力を必要とする魔法で、聖魔法は主に教会関係者が使える魔法だ。回復魔法は聖魔法に入るね」


 そこら辺の設定はラノベみたいだな。教会か、現実の宗教はめんどくさいんだろうなあ……宗教関係については、元いた世界と変わりはないと考えておいたほうが良いだろう。


「ありがとうございます。それで、スキルのほうは? 先程の『クリエイト』もスキルになるんですかね?」


「いいや、クリエイトは僕からの『ギフト』扱いになるね。現地ではその力を持つものは"天から力を授かりし者"として崇められることもある。君の場合はどうか知らないけどね」


「ギフト、ですか。それじゃあ経験値倍増は何故スキルなのですか?」


「他に持っている人がいるから」


 グチワロスさんは何でも無いように答えた。


「な、なるほど」


「言っておくけど、経験値倍増自体はあっちの世界でも、というかどこの世界でもごく稀に現れるスキルなんだ。このスキルを持っている人は、大抵は大成するね。天才って呼ばれたり秀才って呼ばれたり。地球でもすごい発明をした人は大抵このスキル持ちだったんだよね〜」


「んじゃあもしかして、英雄とか、勇者とかいたり……?」


「"あっちの世界には"まあ過去にはいたね。気になるなら勇者についても後で説明するから、今はスキルの話に戻していいかい?」


 なんか含みのある言い方だな?


「は、はい。わかりました」


「スキルについては、そういうわけで種類が非常に多い。普通の人でも一つは何かしら持っているよ。それが発動される作業が得意な作業となり、職に就く人もいる訳だ。世界は上手く回っているのさ。ま、スキルなんて言い方は元々なかったんだけどね」


「元々なかった?」


「うん、とある時代の冒険者ギルドが……まあこれも後で話そう」


 今とてもワクワクする単語が聞こえたぞ! 俺、気になります!


「そんな輝いた目で見ないでくれ……とにかく、君も他にも何かのスキルを手に入れられる可能性がある訳だ。それは僕にもわからないから、頑張って生きてね」


「はい、ありがとうございます」


 努力次第で有能なスキルがいろいろ手に入るわけか。マジでゲームっぽいぞ異世界よ!


「魔法の使用については、君のクリエイトで創る事ができるから、苦労する事はまあ無いだろう。"魔法の種類を覚える"必要があるけれど、それ位はやってくれ」


「はいっ、頑張ります。チート人生のためにも!」


「はははっ、元気良いねえ。そして三つ目の能力、僕からの祝福だ。ようは神の祝福だね」


「祝福、ですか?」


「一度だけ生き返る事ができる、でわかるかな?」


「生き返る……事が出来る……」


 でも先程はそんなことできないと言っていたはずだが?


「そう、君の行く世界では、まだ奇跡で済ます事ができるからね。それに、変な噂を広める組織も少ないし。教会が宣伝に使うかもしれないけどね」


 神の奇跡! とか言って利用されるという事か? それは少し嫌だな。


「まあ、究極的にいえば死ななければ良い話だ。せいぜい人生を全う出来るよう頑張りたまえ」


「はい」


「さて、能力は以上だ。次の説明に入る」


「え? 能力に関しては三つだけですか?」


「何か不満でも?」


「だって……あれ、そこまで不自由じゃ無い?」


「何事もコンパクトさが必要だからね。バカスカと能力を与える神は馬鹿なのさ。というわけでさっさと君の行く世界について説明したいんだけれど、能力についてはもう良いよね?」


「は、はい……」


 うーん、こんなものなのか、チートと言っても。話を要約する限り結局は俺の頑張り次第、という訳みたいだな。


「まず。君の行く世界は『ドルガ』と呼ばれている。呼ばれていると言っても神の間でだけどね。現地の人はせいぜい大陸の名前や国の名前、村の名前くらいしか知らないよ。ドルガには、『ドルガドルゲリアス』という女神がいる。その女神が僕みたいに、ドルガを統治し制御している訳さ。ここまで良いかい?」


「女神、ですか。か、可愛いんですかね?」


「さあ? 人間の嗜好なんて正直わからないし?」


「そ、そうですよね。すみません」


 つい気になってしまった。


「で、ドルガは剣と魔法の世界。どんなものか言わなくてもわかるよね、君の想像通りだ。人口は約十億人、大陸の数は五つある。北大陸に南大陸。東大陸、西大陸に、そして中央大陸。北大陸は現在魔王が治めており、それ以外は基本人類が統治している。ここまで良い?」


「ま、魔王ですか?」


「うん。魔王。闇の化身、世界を滅ぼさんとするもの。たまに出る"らしい"んだよね、こういうのが。その点地球は細かな争いばかりで助かるよ。超すごい敵と戦うのって、創作物ではあまり描写されないけどとんでもない犠牲が出るものなんだよ。逆にいえば被害が大きいからこそ早くなんとかしなきゃってなるわけなんだけど。別に害がなければ魔王とかなんとか言ったところで放っておけばいい話だし」


 確かにそれも一理ある。


「魔王……それじゃあ、勇者も」


 ゴクリ、と自然と唾を飲み込んでしまう。


「勿論存在するよ。まず、『勇者』は女神ドルガの神託によって選ばれる。なお現在はまだ選ばれてはいない」


「そ、それじゃあ、俺が選ばれる可能性も?」


「あるよ」


「よ、よっしゃ〜! 勇者ライフきたああああああ!」


「……勇者ってそんなに良いものかい?」


「だって、世界の英雄ですよ! 世界を救うために、あちこち旅をして、仲間を作って、ゆくゆくはハーレムも……ぬしし」


「凛くんが見たら悲しむだろうねえ」


「うっ……」


「好きな女の子が死んだのにねえ」


「ぬっ……」


「ハーレム……君そこまでカッコよく無いよね」


「ぐはぁっ!」


 見事な三連コンボが決まってしまった。


「さ、流石は神様、凄い攻撃力だぜ……」


「はいはい、そういうのいいから。まあ勇者になりたかったら、それこそドルガさんから認められるように頑張れば良いんじゃ無い? 歴代の勇者は魔王を倒すだけあってそこそこ強かったらしいし、まずは力を手に入れるところからだよね」


「そ、そうですよね。まずは強くならないと! それに、魔力を増やさないと、クリエイトも満足に使えなさそうだし」


「そうそう、何事も計画的にね」


「はい、わかりました」


「で、世界情勢についてはこんなものかな。あとは通貨とか諸々の事情を……」



 グチワロスさんはその後、日常的な事柄や、『異世界ドルガ』においての常識を俺に教えていった。

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