第73話 お忍びセイラン

―――時間を少し巻き戻して、クリム達が港町シリカに向かう前日。一足先にシリカに訪れていた四大龍セイランに視点を移す。


 セイランは青龍会の会合の折、シリカに現れたという龍の巫女を名乗る少女クリムの話を聞き、彼女が何者であるのか調査するために現地に訪れていた。セイランは伝聞をそのまま信じる事を嫌い、あくまでも自分の目で確かめた事を真実とする現場主義を信条としているからだ。その信条のため彼女は人間社会に潜り込んでこっそりと調査する機会が度々あるのだが、彼女の正体が人間達に知られると彼らを恐縮させてしまい思うように話が聞けないので、そう言った場合セイランは龍人ドラゴニュート形態に変身した上で正体を隠しお忍びで調査をしているのだった。

 その容姿は20歳くらいの美しい女性で、空色の長髪をお団子状にまとめて青い宝石をあしらった簪を刺している。この宝石はセイランが自ら産み出した魔法石で、装着者の魔力を弱く擬装する効果を持っている。またクリムゾンがそうであったように、ドラゴンの時と同じ特徴を有する角・尻尾・翼を生やしているが、これは龍人形態共通の特徴である。

 身に纏う衣服は下は黒の股引で、上は青い袢纏を緩く羽織って帯を巻いており、その下には下着代わりに晒しをきつく締めている。なお晒しが無くともその胸は貧相であった。話が逸れたが、青い袢纏には青龍会の幹部である事を示す青いドラゴンが刺繍されている。

 青龍会の幹部はセイランの眷属達の中でも選りすぐりの武闘派で構成されており、その力は人間達にも広く知られている。しかし青龍会は基本的に中立で、盗賊や海賊の様な明確な犯罪者は例外であるが、真っ当な生活を送っている者にとって害はなく、むしろ幹部達が存在するだけで地域の治安向上に一役買っているので、人口のボリュームゾーンである中流以下の平民層、特に商人や生産者からの支持が篤い。その背景には青龍会の実質的傘下であるアラヌイ商会との関係を悪化させたくないという思いも多少含まれているが、そうでなくとも幹部達は人当たりがよく、被支配階級の者達から見れば、見返りを求めず問題を解決してくれるありがたい存在であるため信頼を得ているのだ。逆に支配階級の者からすれば、経済面と防衛面で勝手に影響力を高めている気味の悪い存在であり、自分たちの支配力・求心力の低下にもつながるため目に見えた害はないもののあまり歓迎されてはいない。

 また話が逸れたが、要するにセイランが青龍会の幹部として行動する理由は、多くの人間から好印象を持たれていて話を聞きやすい立場だからである。

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