第7話 危険な少女シャイタン
復活の儀式が失敗し幼女になってしまった魔王を。そんな魔王をなんやかんやあって半ば誘拐する様に連れ去ったシャイタン。無計画で突発的な犯行だったが、幸いにして魔族の住む最果ての島は常に天候が悪く、さらに夜間ともなればほとんど見通しが利かないため、気絶した幼女を抱えて疾走する怪しい姿を誰かに見られることはなかった。
シャイタンは無事自宅へと帰還すると、いまだ眠ったままの幼女を寝室へと運び、自身のベッドへ横たえさせた。
「すやぁ。」
魔王ヤクサヤはまったく目覚める気配がなく、呑気に眠りこけている。
ところで魔族の少女シャイタンは一人暮らしである。見た目こそ幼いが、既に魔族としての成人年齢に達しており、実家を出て自立しているのだ。なお彼氏は居ないが募集もしていない。話が逸れたが、一人暮らしゆえ家人に連れ込んだ幼女を見られる心配はないのだ。
「なんだか疲れましたね。私も寝るとしますか。」
少女は独り言をこぼすとふわぁっとあくびをして、眠っている魔王のベッドにいそいそと潜り込んだ。一人暮らしのためベッドは当然一つしかなく、やむを得ない対応なので他意はない。少女はその強大な力のためか、自宅に呼ぶような気の知れた友人はおらず、来客用の予備寝具も用意していないのだ。
魔王復活から自宅に逃げ帰るまでの間はかなり忙しなかったため、魔王の顔をちゃんと見ていなかったな、と気づいた少女は眠っている幼女の顔を覗き込んだ。すると鼻腔をくすぐる心地よい香りを感じた。
「小さい子特有の甘い匂いがしますねぇ。」
言動が危ない人(魔族)のそれである。
少女は魔王の顔があどけない幼女そのものであると確認すると、次いでその頬をむにっとつまみ、さらに腕や足、腹部をわさわさとまさぐった。
「んにー。むあー。」
魔王はあちこち触られたせいか妙な鳴き声を上げて顔をしかめた。しかし起きる気配はまるでない。
「全然起きないですねぇ。ぐへへーイタズラしちゃうぞー。なんちゃって。」
既にかなりのイタズラをしていると思うが、それを見とがめる者は残念ながらこの場にはいない。
シャイタンは子供好きであるのに加えて少々そっちの
「完全に小さな子供そのものですね。魔王様が自身に封印をかけるきっかけにもなったという致命傷・・・ともすればその治癒のために身体構成要素を消耗し、その結果体が縮小したのかとも思いましたが、どうやら一時的な弱体化とかそういう次元ではなく、若返りあるいは転生とでもいうべき状態の変化が起きている雰囲気です。」
シャイタンは眠っている幼女にただイタズラしていたわけではなく、魔王の現在の状況を確認していたのだ。それは魔王に起きている変化が、実は自身の瑕疵とは無関係なのではないか、と淡い期待を抱いての調査だった。彼女は自身が儀式中に気を逸らし魔力を暴発させてしまったのは分かっていたが、失敗するにせよ魔王が幼女化するなどという異常事態は想定外であったため、自身の失敗とは別の要因があると考えるのはある意味自然だった。
そして状況確認の結果、残念ながらシャイタンの魔力の暴発が魔王幼女化の主因であろうと結論付けざるを得ないのだった。
「やはり私のせいですかねこれは。」
少女は無慈悲な現実を目の当たりにすると、ふーっとため息をついて仰向けに寝転がった。
シャイタンがふと横を見ると、魔王と自身の体がちょうど横並びになって比較しやすい状態である事に気付いた。シャイタンは同年代の魔族よりかなり幼い外見をしており決して大柄ではないのだが、魔王はそんな彼女よりさらに頭一つ分は背が低く、その胸は一見すると男児と見紛うほど平坦であった。シャイタンは幼い姿の魔王を、その可愛らしい顔と声から幼女だと思い込んでいたが、よもやと言うこともあるので念のため性別を確認することにした。
その方法はというと・・・事もあろうに無防備に眠る魔王の下着をめくり、その股間を確かめたのだ。それも躊躇の欠片もない動きで。お巡りさんこの人です。
「むー。」
下着をめくられお腹が冷えたのか、魔王はまたしても妙な鳴き声を出している。そしてやはり起きる気配はない。
「なるほど、女の子ですね。」
シャイタンは魔王の魔王自身をしっかりと確認すると、何事もなかったように着衣を元に戻した。そして魔王は見た目通りの幼女であると確証を得たのだった。
断りを入れておくと、魔族は誰でも他人の股間を覗き見る事に躊躇が無いというわけではなく、シャイタンが特殊なだけである。魔王クラスの力を持つ変異体の魔族である影響か、その精神は変異体ならぬ変態だった。
こうして、魔王の現状確認を済ませたシャイタンは、やり切ったいい笑顔で眠りにつくのだった。悪い奴程よく眠るというが、一切の悪気なく、また誰に気付かれることもなく悪事を働き、なんの引け目もなくぐっすり眠る少女の行為は正にそれである。
一方魔王はというと相変わらずぐっすりと眠っていた。何をされても頑として起きないのは強者の貫禄か、はたまた見た目通りの幼女であるがゆえか。いずれにせよ大物であることは自他ともに認める公然の事実であった。
奇妙な出会いから始まった二人の関係は、魔族社会全体に波及する大きな変化の明確な開始点となるのだが、今はまだそれに気づくものは居ない。
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