伊吹清・アモーレ

天羽伊吹清

第1話 ミンチカツ定食

 家の近所と言っていい所に、某定食屋のチェーン店がある。……まあ、実名を出すと色々とまずいと思うので、具体的に何処なのかは想像にお任せしたい。

 自身は時折その店を利用するのだが、最近、同じメニューばかりを頼んでいることに気付いた。

 ――『ミンチカツ定食』である。

 ……『メ』ンチカツではない、『ミ』ンチカツだ。

 自分は、『メ』ンチカツという呼び方の方が一般的だと思っていたので、最初気付いた時には首を捻ったものである。

 何となく、『メ』ではなく『ミ』であることに店側のこだわりを感じた。

 まあ、それはともかく。

 どんなメニューかと言えば、メインたる少し大きめのミンチカツがまず二つ。それ用のソースが別皿で提供されている。加えて、千切りにされたキャベツ……少量の同じく千切りにされた人参、ついでに幾本かのアルファルファというサラダが添えられているのだ。

 あとはご飯にみそ汁、冷奴に漬物という組み合わせ。ちなみに、ご飯はおかわり自由で漬物も良識の許す範囲で取り放題。

 それを実際に食すとなると、まずはサラダか漬物か、或いはみそ汁を一口やってから、メインのミンチカツに食らい付くわけですよ。

 なお、一口目の時はソースは付けない。……別に、「まずはそのままの味を楽しみたい!」という食通ぶったことではなく、ミンチカツが大き過ぎてソースを付け難いだけだ。

 付け易い大きさに切ればいいという意見もあるだろうが、ミンチカツは丸のまま齧りたいという気持ちも解ってほしい。……肉汁を無駄に零したくないのだ。

 何にせよ、ミンチカツの一口目は本当に美味しいと思う。程良い歯応えの衣を歯で突き破れば、口の中に雪崩れ込んでくる肉の旨味。挽き肉の柔らかい……けれど、やはり肉としての弾力がある食感。それらを楽しめる実に嬉しい瞬間だ。

 今度はソースを付けてもう一口とすれば、ソースの甘さと酸味がミンチカツの味を引き締める。……これがまた旨いのだ。

 白米は肉の後味だけで何杯も食べられそうだし、サラダや冷奴は時々しつこくなってしまうミンチカツの味わいをリセットしてくれる立役者。漬物の塩味は良いアクセントになるし、みそ汁を飲めばほっと一息吐ける……。

 定食全体が調和している印象なのだ。

 食べ進めれば、もう僅かの時間でミンチカツは最後の一口となる。……それにソースを付けて食べるか、付けずに食べるか……意外に悩む問題だったりするのだ。

 ――さて、そんな自分が大好きなミンチカツ定食だが、ずっと気になっていることがある。

 ……該当の店のホームページでメニューをいくら確認しても、載っていないのだ。

 ……裏メニュー? と思ったこともあったが、チェーン店でそれは無いと思うし、何より券売機の画面に普通に出てくるので、そういうことではないのだと感じる。

 はてさて、一体どういうことなのやら……?


 ――何にせよ、ミンチカツ定食は美味しいという話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る