こすぷれいや~はじめました! ~目指せフォロワー10000人! 地味なあの娘を人気レイヤーに~
あぼのん
プロローグ 地味な子はなにをやっても地味。
「やっぱり……ダメでしたね……」
人気レイヤーにしてやると言っておきながら、結局俺はその約束を果たしてやることができなかった。
彼女の為にこの二日間、寝る間も惜しみ駆けずり回って、なんとか形にすることは出来たが所詮は付け焼刃、何か月もかけて準備をしてきたレイヤーさん達とは雲泥の差の出来だった。
いや、出来なんて言えた代物ではない。
出来合いの衣装を買ってきてそれにチョロっと手を加えただけの物に、メイクだって本を見ながら見よう見まねでやったもの、ポージングだって練習を積み重ねてきたものではなかったから、酷くたどたどしいものだった。
結局は俺の浅はかな考えで彼女を振り回してしまっただけ。
「ごめん土留、俺が頼りないばっかりに……俺にカメラの腕がもっとあれば……」
「いいんです
そんな恨めしい目つきで気にするなとか言われてもめっちゃ気になるんだがな。台詞と表情が一致していないぞ土留。
こいつ絶対にあれだわ。無理やり恥ずかしい恰好をさせられて、人前でその醜態を晒されたことを恨んでいるってそんな目だ。
でもさ、おまえだって最終的にはやりたいって言ってたじゃないか? 俺だけが悪いの? ちっくしょう。
それにしても……。
俺は自分で撮った土留のコスプレ写真を見つめて溜息を吐いた。
SNSに上げた写真に付いたファボの数は2、リツイートに至っては0だ。
インプレッションの数が1000前後なのは、#コミケコスプレのハッシュタグを付けているからだろう。
「も、もしかしたら、俺より全然上手いカメコが、良い写真撮ってアップしてくれているかもしれないし、お前のIDで検索し……」
「もうしましたよ……。特にわたしのコスプレに対する感想もなし、撮影させて頂きありがとうございました。って適当にお礼だけ書いて、レタッチも当然されていない撮って出しの写真ばかりが、有象無象と混じってゴロゴロと出てきましたよ」
他のレイヤーさんを有象無象とか言うんじゃありませんよ、このすかぽんたん。
俺は底辺カメコだけど、レイヤーさん、いや、レイヤー様にはそれなりの敬意を払っているつもりだ。
自分の大好きなアニメのキャラに扮した姿を、しかもかわいい女の子達のそんな姿をタダで撮影させてくれるなんて、まずそれだけでも感謝である。
それなのに愛想がなかっただの、ポーズリクエストを受けてくれなかっただの、ツーショットを断られただのと文句を言う輩の気がしれない。
だいたい考えてもみろ、自分がもし美少女レイヤーになったとして、オタクが「お願いしまーす、ぐへへー」とか言って近寄ってきたらキモいに決まっているだろう?
カメラのレンズ越しに舐めまわすような視線で自分を撮影していくのだ。家に帰ってからその写真を何に使われているのかもわかったものではない。
そんな気持ちを押し殺して写真を撮らせてくれているのだ。文句を言う意味がわからない。
ちなみに俺は撮った写真はちゃんとレイヤー様にお送りしていますよ? え、変なことに使ってないかって? 変なことってなんですか? よくわかりません。
「まあ、底辺カメコに乗せられてみた結果がこれでしたよ。自分の身の程がよくわかりました。いい勉強になったと思って、これからは大人しく一般参加者の道を貫きます」
「土留……」
そんなことはない……。おまえは……。
「地味な子はなにをやっても地味なんですね」
笑いながらそう言う土留の顔を俺は忘れられなかった。
それはまるで泣き顔だった。
変わりたいと願った少女の、地味で目立たない自分を変えたいと思った少女の願いを、俺は叶えてあげることができなかった。
これは土留の所為じゃない、彼女にそんな顔をさせてしまったのは全部俺の所為だ。
決して土留が地味だからとか、冴えないからだとか、腐女子だからとか、友達いないからとか、人見知りでなんか喋り方がオタクっぽくて気持ち悪いからとか、見た目がちんちくりんでしかも貧乳だからとか、結構毒を吐くとか、あとなんだ? だいたいの悪口は言ったな。よしっ! 底辺カメコって言った仕返しは終わりっ!
とにかく俺は知っているんだ。土留は本当は光り輝くダイヤの原石であると言うことを。
コミケの初日、コスプレエリアでコスプレイヤー達を見つめる彼女を見た時に、燦々と照り付ける夏の日差しの下、まるでアイドルを見るかのような、そんな憧れの眼差しをしていた彼女を見たときに確信したんだ。
彼女は絶対に最高の人気レイヤーになれると、俺、数馬(かずま)九十九(つくも)は思ったんだ。
こすぷれいや~はじめました! ~目指せフォロワー10000人! 地味なあの娘を人気レイヤーに~
はじまりますっ!
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