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手足の冷たさに耐えられなくなる。多分、汗をかいてる。痛みや痒みが無くなると凍傷へ進む。痛みがあるだけマシだと言い聞かせる。が、松浦はついに限界を感じフェンスを越えて民家で休む事に決めた。フェンスから滑り転がり落ちる。道路でバウンドし壁にぶつかる。背中を強く打ち少しの間、息が出来なかった。
よろけるように立ち上がる。一番近い民家の窓ガラスを割り中に入る。真っ暗。急いで手袋を外しマッサージする。自分の手じゃない気がする。違う痛みに変わる。靴紐が固まって仕方なくナイフで紐を切り脱ぐ。ムワッとした臭さ。蒸れていて足から湯気が出ている。
一階に降りて台所。一階の方がまだ明るかった。タライの中で火をつける。それを持って部屋を物色する。コタツに座ったままの死体に驚き、思わずタライを落とす。
火が燃え移るのを慌てて消す。火のつけ直し。と同時に食料は何もないと理解する。靴下や服を探す。衣服だけはどこにでもある。手袋が見当たらない。死体の手袋を外す。幸いにも手袋は重ねて付けていた。靴下を履けるだけ履く。大きな長靴。服を着替えジャンバー。雨ガッパ。雨ガッパが小さく着れない。ジャンバーを脱ぎ雨ガッパを着る。
手と足の指先、背中、お腹、どこもかしこも痛くてどこが一番痛いか分からなくなっている。
どこからも雪で出られずに来た窓から這い出る。
数軒先の車庫。裏の窓を割って入る。
たくさんの段ボール。火を起こし車に置く。片っ端から探す。食べ物は何もない。諦め気味に車を開ける。
箱詰めのカップ麺とプラスチックスプーンの束。松浦は歓喜の声をあげた。引きちぎるようにカップ麺を開けてそのままかじりつく。すぐに噎せる。味が濃かった。が食べられる。
平たいステンレスのお盆でお湯を沸かす。待ちきれない。少し沸いただけですぐにカップ麺に注ぐ。汚れは気にしない。スプーンで崩す。早く。早く。松浦は寒さの震えに任せて貧乏揺りをする。
温かくないが美味しかった。五臓六腑に染み渡るとはこの事だ。一気に食べたいが胃が受け付けない。喉奥に汁も麺も呑みにくい。
やっと熱くなったお湯を他のカップ麺に注ぐ。今までの飯で一番美味かった。気付いたら涙が出ていた。暖かくなったのもあるが胃が満たされたのが大きな原因。
全ての汁を飲み干す。気持ちはもっともっと食べたい。が、もう胃が受けつけない。多分食べると吐きそう。間違いなく吐く。すでに少し胃がおかしい。
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