.64

手足の冷たさに耐えられなくなる。多分、汗をかいてる。痛みや痒みが無くなると凍傷へ進む。痛みがあるだけマシだと言い聞かせる。が松浦はついに限界を感じフェンスを越えて民家で休む事に決めた。フェンスから滑り転がり落ちる。道路でバウンドし壁にぶつかる。背中を強く打ち少しの間、息が出来なかった。


よろけるように立ち上がる。一番近い民家の窓ガラスを割り中に入る。真っ暗。急いで手袋を外しマッサージする。自分の手じゃない気がする。違う痛みに変わる。靴紐が固まって仕方なくナイフで紐を切り脱ぐ。ムワッとした臭さ。蒸れていて足から湯気が出ている。

一階に降りて台所。一階の方がまだ明るかった。タライの中で火をつける。それを持って部屋を物色する。コタツに座ったままの死体に驚き、思わずタライを落とす。

火が燃え移るのを慌てて消す。火のつけ直し。と同時に食料は何もないと理解する。靴下や服を探す。衣服だけはどこにでもある。手袋が見当たらない。死体の手袋を外す。幸いにも手袋は重ねて付けていた。靴下を履けるだけ履く。大きな長靴。服を着替えジャンバー。雨ガッパ。雨ガッパが小さく着れない。ジャンバーを脱ぎ雨ガッパを着る。


手と足の指先、背中、お腹、どこもかしこも痛くてどこが一番痛いか分からなくなっている。

どこからも雪で出られずに来た窓から這い出る。


数軒先の車庫。裏の窓を割って入る。

たくさんの段ボール。火を起こし車に置く。片っ端から探す。食べ物は何もない。諦め気味に車を開ける。

箱詰めのカップ麺とプラスチックスプーンの束。松浦は歓喜の声をあげた。引きちぎるようにカップ麺を開けてそのままかじりつく。すぐに噎せる。味が濃かった。が食べられる。

平たいステンレスのお盆でお湯を沸かす。待ちきれない。少し沸いただけですぐにカップ麺に注ぐ。汚れは気にしない。スプーンで崩す。早く。早く。松浦は寒さの震えに任せて貧乏揺りをする。

温かくないが美味しかった。五臓六腑に染み渡るとはこの事だ。一気に食べたいが胃が受け付けない。喉奥に汁も麺も呑みにくい。やっと熱くなったお湯を他のカップ麺に注ぐ。今までの飯で一番美味かった。気付いたら涙が出ていた。暖かくなったのもあるが胃が満たされたのが大きな原因。

全ての汁を飲み干す。気持ちはもっともっと食べたい。が、もう胃が受けつけない。多分食べると吐きそう。間違いなく吐く。すでに少し胃がおかしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る