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アユミが目醒めたのは朝方。ヤケに静かだった。でも雪が横殴りに窓に吹き付けている。風の音がしない。その代わり自分の鼓動がヤケに大きく聞こえる。

間に合わなかった。アユミは舌打ちをした。多分、風邪。考えたくないがもっと酷いかも。肺炎とかかも。

頭痛はしないが頭が重い。身体の芯がもの凄く寒かった。背中が濡れてるのかと思う程冷たく感じる。


額に手を当てた手袋を見る。汗をかいてる。

ドアの霜で外の景色がよく分からない。佐々木が起きている。アユミはドアを叩く。佐々木が近付いて来る。雪を退ける音。ドアを叩いただけせいで一気に具合が悪くなる。胃から酸っぱい物がこみ上げて車の中でアユミは吐いた。

そこからアユミの意識があやふやになる。


[…荷物どかせ。アユミを乗せる]

佐々木の声。やけに遠くから。いや、耳のそばで聞こえる?よく分からない。




[…どかせ。いや、あそこから行けるぞ]

再び佐々木の声。背中が痛いが身体が動かない。




[よし、降ろすぞ。気をつけろ]

松浦?誰の声?瞼が重い。凍傷?失明はイヤだな。

[アユミは大丈夫か?]

身体中が熱い。ダルい。手足の先の感覚が無い。怖さはないが頭が痛い。




[割れ。割れ。急げ]

何を割るのだろう。私の手足?これ以上凍らないようにかな?




[早く。急げ]

手と足の先が痛い。まるで細かい針の板に触れてるようだ。痛いが声が出ない。身体も動かない。動かしたくない。




映画で見た荒れた海。その海の中で私が溺れてる。身体がグルグルと波に揉まれてる。口に水。喉に水が詰まる。吐き出す。もがいてるつもりだが身体が動いてるのか分からない。水で息が吸えない。苦しい。冷たい。寒い。こんな事になるなら海に遊びに行かなければよかった。

暗闇に呑み込まれる。




顔が熱い。手で顔を触る。

[アユミ?大丈夫か?アユミ?]

誰かの声。誰が溺れてた私を助けてくれたの?あんな海の真ん中で誰か居たの?なんでこんなに熱いの?




絶対にここは船の上。身体が上下に揺れているから分かる。私は助かった。でもこの揺れは酷い。きっと松浦が運転してるんだわ。




背中が痛くて起き上がった。身体が重く重心が取れずに横に転がる。

[大丈夫か?]

佐々木の声。私は現実に帰った。ここは?声がかすれてる。

[もう大丈夫なとこだ。とにかく大丈夫だから寝てろ。これ飲め]

半身を起こされ口の前に差し出された器に口をつける。甘い。甘過ぎる。

[普通の水を]

違う器が口につけられる。飲み干す。噎せて吐き出す。


謝りたかったが意識が遠のく。喉が痛い。

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