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多分、お昼前。ようやく太陽が顔を出し風が若干だが収まる。雪は降っているが朝方よりかなりマシ。

アユミは裏側を見て絶句した。裏側は屋上まで雪崩で埋まっていた。よく崩れなかったな。が素直な印象だった。

何本もの木が建物に沿って重なって倒れているし、横側も土砂と雪が屋上近くまであった。

補強どころではない。普通なら即撤退する状況だ。

[周りの雪を取り除くとヤバい。周りの雪で支えてる状態だ]

佐々木が言った。

ここから移動するにもこの積雪の量では一キロ移動するのに何時間かかることか。


[寝る時は車の中になるかもな]

佐々木はアユミに近寄り呟くように小さな声で言った。駐車場にある車は雪で埋もれているが中は綺麗なはず。


[松浦、どう思う?]

アユミは松浦に聞いた。松浦は黙ったまま。だが頭をフル回転させてるのが分かる。

[ソリを作ろう]

やはり移動しかないのか。アユミは松浦の言葉で思った。

[建物の崩れ方でマシな場所で過ごそう。机を重ねて崩れた時に少しでも大丈夫なようにして]


松浦は一人だったら。と考えていた自分に少し嫌気がさした。トイレに荷物を何回も運ぶ時に思ってた。これが一人ならどんなに楽だろうか。と。

佐々木もアユミもそんな事は考えてないはずだ。

そんな事を少しでも思った自分を恥じた。少しでも皆の役に立てるには。


[山芋は俺が掘る]

松浦は続け様に言った。せめてもの償い。

[崩れたらどうするのよ]

[東北育ちは雪崩にあった時の対処は必ず教わる]

と言い松浦は、その場に亀のように丸くうずくまった。

[雪崩に巻き込まれたらなるべく顔の所に隙間を作るんだ。息ができるように。まぁ雪崩に巻き込まれたら上下の感覚が無くなるけど]

松浦は立ち上がり言った。

[そうなったらなるべく片手を上にあげて、もう片方の手は口を覆う。口の周りに空間を作れば窒息はしない]

[なんで手を上げるの?]

[掘ってもらってる時に早く気づいてもらえる可能性が高まる]

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