強襲、エイリアン!!
大国の条件の一つとしては強大な軍事力が挙げられるが、その国、いや世界のパワーバランスはもはや、その国の三人で決められるほどになってしまった。
三人が三人とも、ぽっと出の、軍人や専門職ですらない普通の家に生まれているが、能力だけがおかしかった。
三人が三人とも、一〇〇〇年に一人か、それ以下の
神話の世界に居たか居ないかくらいなので能力が測定不能、というとんでもない人物たちである。
「
「生物、亜生物でネットワークが構築できるなら、それにやらせちゃえばいいのに。アストラル?」
「私の配下の者は、前線に立てそうなものは愚かで、賢いものは臆病だ、分かるな? ムジーク」
「へいへい」
ムジークと言われた、短めの金髪で碧眼の青年が応じた。最初に問いを発した人物でもある。
三人が三人とも、こたつに入って暖を取っていた。
こたつの上にはみかんが礼儀正しく並んでいる。
会話はひどく物騒だが、その光景は平和だった。和式の居間と呼ばれる場所である。
ナハト・ムジーク。『
アラストル・アストラル。『
アンチ・マギア。『
ムジークがこたつに突っ伏して愚痴を紡ぐ。
「軍人も俺たちが居るからってまるでやる気ナシ。
危険な仕事は俺に振るってか。サンタクロースじゃないんだぞ、俺は」
「それはそうと、なんか宇宙から降ってくるわ。隕石かしら」
「大気圏外はさすがに私の管轄外だな」
「あら、異次元世界になら干渉できるのに、意外ね」
「人の話を聞けよ……。
まあ、まずいな、これ」
マギアの結界の感知能力はマギア、及びムジークとアストラルにシンクロされている。
三人とも、事態の深刻さを悟ったのだった。
ガタン、とこたつが鳴り、ころころとみかんが転がる。
「出動だ」
「『敵』の攻撃、歴史上に何度目かの
マギアが若干緊張した声音で言う。
「敵の攻撃の内容は。防げるのか?」
アストラルの問いにムジークも
「あら、心外ね。全弾迎撃してあげるわ。ただ、反射まではさすがに無理ね。万全を期すとなると、全て防ぐだけになるわ。結界を一部解除、一定空間に集中。
ファイア」
その少し前、ムジークらを含め八〇億人の住まう惑星に、直径一〇キロはあるかという、宇宙船が一隻、惑星に向けて猛進していた。
宇宙船は長方形でずんぐりとした外観をしており、前方と後方の外観が同じで、進行方向でしか前後が分からない。
宇宙船に積まれた
彼らは宇宙船の超演算システムにより、ムジークらの住まう惑星の文明の度合いを計測したが、知的生命体は居るのもの、そこまで高い文明を持つわけではないと判断。
即、反物質爆弾を載せたミサイルによる攻撃に移行した。
反物質爆弾とは、その名の通り反物質を利用した爆弾だ。
反物質とは、彼らの宇宙船のエネルギー源にも使用されている物質で、通常の物質と比べて電気的に正反対の性質を備えた物質のことである。
反物質が通常の物質(正物質)に触れると『対消滅』という現象を引き起こし、膨大なエネルギーに変換されてその物質は消滅する。正負合わせた物質・反物質一グラムあたりでウラン一グラムあたりの核分裂反応の一〇〇〇倍である九〇兆ジュールというまさしく天文学的なエネルギーを生み出すそれは、極めて有効な殺戮兵器にも為り得る。
ムジークらが住まう惑星で、一般的に普及している最も強力な兵器である水素爆弾を容易に超える威力を持つ反物質ミサイル。それが惑星全域を舐めるように発射されていく。
宇宙船の各所から発射されたミサイルの推進方向の反対からミサイルに向かって飛ぶ魔力エネルギーがあった。
アンチ・マギアが惑星全域以上を網羅する魔力結界による、危険目標への迎撃だった。
ミサイル、撃墜、撃墜、撃墜。
シグナル、LOST、LOST、LOST。
界賊団の乗組員は、確認可能な反物質ミサイルが爆発前に全て迎撃・破壊されたことに気付かされた。計一五〇発以上を同時に迎撃されるなど、驚きの能力だった。
一筋縄ではいかない惑星かもしれない。
だが、本星に売り飛ばすには格好の獲物だったのも事実。
彼らは第二作戦へと移行した。
宇宙船の各所、ミサイル発射口ではない部分から全長二〇メートルほどの宇宙戦闘機が大量に地球に向け発進していく。
宇宙戦闘機はムジークらの惑星の戦闘機と比べるとずいぶんとずんぐりとしていた、速度よりも継戦能力と生存・防衛能力に重点を置いた機体群だった。
発進した宇宙戦闘機はすぐさま電磁迷彩による不可視化、すなわち透明化に電波探知の一切を遮断する機能を発動する。
さらには各宇宙戦闘機に積まれた反物質炉による、ワープ航法を応用した空間歪曲場によるバリア・エネルギーフィールドさえも各機の全周囲に展開する。
攻撃能力は、空間歪曲能力を持つ特殊な約三〇~四〇ミリの砲弾を、電磁力で発射する
これは着弾地点を次元レベルで歪曲させて空間に穴を空け、どんな装甲も無効化する、『異次元単発砲』と呼ばれる兵器で、一機につき二門装備。装弾数は一門で約一〇〇発。
さらには地上制圧用に、反物質誘導爆弾を一機につき二〇発ほど保有。数発で大型都市を壊滅どころか消滅に追い込める精密誘導爆弾である。誘導は基本的に界賊団の母艦である宇宙船からレーザー通信で行われるが、レーザーが届かない惑星の範囲では各宇宙戦闘機による誘導も行える。
約一〇〇〇機の大編隊が、各編隊に分かれ、ムジークらの住まう惑星を舐めるように飛行していく。
政府中枢に特別に設けられた惑星最強三人組の住まう、見た目は迎賓館のような施設の外で、その三人は立っていた。
ムジークはマギア製の赤い特製鎧に身を包み、一振りの大振りな剣を鞘に納めた状態で持って立っていた。
マギアは赤髪が目立つ軽装。外の寒さなど、自身の魔力結界で完全に防いでいた。
アストラルは漆黒の長いローブをまとい、手には大量の小さな宝玉、異界の怪物を召喚するための触媒を持っていた。
「敵さんのご登場か。マギア、全員撃墜できるんじゃないのか?」
ムジークの問いかけに、マギアは難しいわね、と答える。
「非常に高度な電磁迷彩技術、それだけならまだしも、特殊な防壁を張ってこちらの魔法攻撃を受け付けてくれないわ。敵のミサイルにそのバリアがなかったのは幸運ね」
今度はアストラルが口を開く。
「どのみち、お前の惑星全域を防衛する防御空間なら被害は抑えられただろうがな。
これ以降はおおむね、私とムジークの出番だ」
アストラルは手に持っていた宝玉を前方に向けてばら撒き、それが空中で発光する。
白い光。
「マギアの超探知能力と連携させて、こちらの支配下の異次元生命体『
「俺は、同じくマギアの探知能力とシンクロして、敵の本丸に切り込むぜ」
ムジークは剣を引き抜くと、軽く屈伸。
残る二人が身構える。耐衝撃態勢だった。
轟音と共にムジークの立っていた場所が抉られ、猛スピードでムジークは空を飛んでいく。元より備わっているムジークの特異かつ、膨大な魔力によるブースト能力を、マギア特製の国宝級の鎧が強化する。
音速を遥かに超え、ムジークは敵宇宙船へと向かって行った。
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