アイスを食べさせ合う

「人が多い……」


 いくらシーズンオフ? 平日の昼過ぎだといっても、那覇の国際通りは人が多かった。

 有給を取って旅行に来ている人だけでなく、お土産店以外にも普通に飲食店があるから地元の人も来ているようだ。

 お店が美味しかったら、観光客が来そうなとこでも地元の人も来たりするだろう。


 良平はため息をつきつつも、一緒の班である恵里菜、夢乃、サラと一緒に国際通りへ足を踏み入れた。

 本当だったら今すぐにでもホテルか漫画喫茶に引きこもりたいのだが、確実に夢乃に何か言われるから口にはしない。


「お土産ってここで買うの?」

「うん。明日は石垣島だし、ここでしか買えない物を買って起きたいな」


 良平の質問に恵里菜が答える。

 同じ県内でも場所によってお土産は違うのだし、那覇でしか買えないものもあるだろう。

 それに那覇と石垣は陸続きではないため、少し荷物にはなるがお土産を買っておくのが無難だ。


「私はアイスを食べたいわ」

「まだそばを食べて間もないのに……」

「女の子にとってスイーツは別腹なのよ」


 どうしても夢乃は沖縄のアイスを食べたいらしく、良平のぼやきに少しテンション高めに答えた。

 確かにラノベでもヒロインが「スイーツは別腹よ」みたいなことを言っていたのだし、アイスを食べたい気持ちは分かる。

 ただ、あの華奢な身体のどこに食欲が沸いてくるのかは不思議だった。

 今までの良平なら全く持ってどうでもいいことだったが、桃花に出会って現実に少し興味を持つようになって自分が変わったのかもしれない。

 でも、追及してまで知りたいことではなあいので、口にはせずにアイスが売っていそうなお店を辺りを見て探す。

 お土産を買うと荷物が増すため、先にアイスを食べた方がいい。


「あそこでいいかな」


 適当に探していたらアイスの文字が目に入ったので、良平は早く涼みたいがために急いでお店に入った。


「はあ……涼しい」


 暑い外は違って店内は冷房が聞いており、お土産用のアイスの他にもアイスを購入して店内で食べれるスペースも用意されている。

 沖縄は本土に比べて紫外線が強くて暑いため、観光に来た人たちもアイスを食べたくなるのだろう。

 数人ではあるが、アイスを椅子に座って食べている人たちがいた。


 良平たちは早速アイスを買って椅子に腰かける。

 四人ともそれぞれ別の味のアイスを買い、良平はバニラ、恵里菜はストロベリー、夢乃はマンゴー、サラはチョコレートだ。


「普通のアイスと変わらんな」


 カップに入ったアイスをスプーンですくって食べるも、地元で買えるアイスと味は同じだった。

 原材料は他の製品のバニラとほとんど変わらないだろうし、同じ味なのは当たり前だろう。


「んー、美味しい」


 ただ、夢乃は本当に楽しみにしていたようで、アイスを食べて幸せそうにしている。

 恋より食に興味がある大和撫子のように見える。

 サラも冷房のおかげで少し回復したらしく、美味しそうにアイスを食べている。

 女の子は本当に甘い物が好きなんだな、と思わずにいられない瞬間だった。


「あの、良平くん。あ、あーん」


 頬を真っ赤に染めた恵里菜が、自分のアイスをスプーンで救って何故か良平の口元に持ってくる。


「何故に?」

「その、色んな味を食べてみたいなって思って……」


 確かに友達同士で一緒にご飯を食べた時に、お互いの頼んだのを少しずつ分け合ったりすることはあるだろう。

 でも、普通は同性同士だったり、異性間でもお皿に分けでするのであって、今の恵里菜みたいにあーんってするのはおかしい。


「恵里菜はビッチなのか?」

「ビ、ビッチじゃないよ。こんなことするの……良平くんに、だけだもん……」


 後半になるにつれてゴニョゴニョ、と小声になっていき、ほとんど何を言っているのか聞き取れなかった。


「は、早く食べてよ。アイス溶けちゃうし……」

「はいはい。あーん」


 本当ならしたくなかったが、何を言っても止めてくれなそうだったので、良平は恵里菜のアイスを口の中に入れた。

 どこにでも売っているようなストロベリーの味が口の中に広がる。


「はい。あーん」

「ふえ?」


 良平はバニラアイスをスプーンですくって恵里菜の口元に持っていくと、彼女は驚いたような声を出す。

 まさか良平からあーんってしてくるなんて思ってもいなかったいうだ。


「色んな味を食べてみたいんだろ?」

「う、うん。あーん」


 これまで以上に頬を赤くしている恵里菜の口にアイスを入れる。


「良平くんと間接キス……えへへ」


 良く分からないことを言っている恵里菜であるが、良平は自分のアイスを食べた。

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