第42話

 またもや私は捕らわれた宇宙人状態で連行された。あふーん。

 とうとうだ。おかん軍団に会わねばならなくなった。

 この家の家族関係苦手なんだよなあ。

 まず、アーサーママで第一夫人のエリザベスでしょ。

 次は、書類上はウィルのお母さんで第二夫人のサブリナ。

 そんで、愛人でウィルの本当のお母さんであるミアさん。

 この布陣に首を突っ込みたくなる人がいるだろうか? いやいるはずない。

 うちの親父はとりあえず放って置くとしても、エリザベスエリちゃんサブリナサーちゃんが問題だ。

 私嫌われてるかもなー。特にエリちゃんに。

 サブリナも、ウィルを籠絡したとか思われてたら当たりが強いだろうし。

 まあいいや、女は度胸!

 私は覚悟を決めて陛下とウィルに付き従い部屋に入る。

 すると黄色い声が上がる。


「キャーッ! サーちゃん、レイラちゃん来たわよー♪」


「あっらー。かわいいじゃない♪」


 中にはエリザベス、それにサブリナ、陛下にウィル、そしてアーサー、最後にミアさんがいた。

 親父はまだらしい。

 あらま好印象。

 かわいい系は自分を守る武器に違いない。

 白塗りで鉛中毒で歯茎から血を出しているよりはいいだろう。だって単純に健康そうだもの。

 ありがとう。私のぼんやり知識で化粧品開発してくれた人!

 なお、二人とも健康そうな印象だ。うちの化粧品を使っているのだろうか。

 そうか! 化粧品から心をガッツリつかんでいたんだ!

 だから好き放題やっているのに印象がいいのか。

 戦闘民族みたいに思われてるから、おっさんにしかウケないと思ってた。


「はじめまして。レイラ・ロリンズでございます」


 私はスカートをつまむ挨拶をする。

 するとそれを見た陛下、ウィル、アーサーが「ぶッ!」と噴いた。


「ぎゃははははははは! 見ろよウィリアム! レイラが普通の女の子みたいにしてる」


「ちょっと陛下。あれでも本人は女の子にこだわってるんですから! ほら、兄上も指ささない!」


「う、うぷぷぷ。騎士のレイラが女の子挨拶」


 どうやら男性陣は死にたいようだな。

 がるるるるるるるるる!


「陛下、兄上、レイラがドラゴンを倒したときの顔になってます。話を先に進めましょう」


「そうだな。まずはアーサー、ビアンカ・フラナガンのことだ」


「結婚しますよ。そのためだったら何人でも殺します」


 はい。自白入りましたー!

 サイコパスが自白しましたよー!


「ただでさえ貴族が減っているというのに殺されてはかなわん。どうだレイラ、なにか意見はあるか?」


 するとここで扉がこんこんとノックされる。


「入れ」


 陛下の声で人が入ってくる。

 うちの親父だ。タイミングが悪い。


「あ、あの、グラン・ロリンズでございます。このたびは娘がとんだことをしでかしまして……」


 なにその家庭裁判所にお呼ばれしたときの親の反応。

 私は悪いことしてないぞ!


「別に卿を責めようとは思っておらぬ。今日はレイラとウィリアムの婚姻の件で呼び出したのだ」


「え? これでいいのですか? ウィリアム様! まだ間に合います。お考え直しを!」


「言うに事欠いてそれかー!」


 たまらず私はツッコミを入れてしまった。

 いくらなんでも娘をその扱い! ひどすぎる!


「だってお前、ドラゴン騒ぎでどれだけの家が滅んだと思っているのだ! お前はそれだけのことをしでかしたのだぞ!」


「国がたいへんなときに逃げた連中でしょが!」


「それでもおまえは恨まれてるんだ!」


「まとめてかかって来やがれー! 怖くなんてねえぞ!」


 私と親父が醜い争いをしていると陛下が「ごほん」と咳をした。


「今はアーサーとビアンカ・フラナガンの問題を話し合いたいのだが」


 するとアーサーが口を開く。


「そこのレイラに聞けばわかります。彼女は賢い女性ですからね。私は手段を選ぶ気なんてありません」


「ほう、お前が女を褒めるとは珍しいな」


 王様のその一言だけでアーサーが今までどれだけの悪行を繰り返していたかがよくわかる。

 女の子食い散らかしてたわけだ。やっぱぶっ殺そうかな。うふふ。

 だけどアーサーはあっさりと認めた。


「完敗しましたから。私は敗者の分はわきまえております」


「どうやらレイラを気に入ったようだな」


「恋人には考えられませんが、戦友として尊敬しております」


 その言葉を聞いて私は度肝を抜かれた。

 アーサーは私を友人だと思っている。ちゃんと評価をしていたのだ。

 その言葉を聞いて、母親たちも言葉を紡ぐ。


「もうアーサーを止めることはできないんじゃない?」


 エリザベス様が言った。


「そうね、ミアはどう思う?」


 サブリナがミアに話を振った。

 するとミアさんは寂しそうな顔をする。


「私はただの錬金術師ですから」


「でもウィリアムの母なのですから。今日は親同士の話し合いです。腹を割って話し合いましょう」


 サブリナは押しが強い。すごい圧である。うん、敵に回すのやめよう。


「育ててもいない親です」


「だって、陛下。言いたいことありますよね?」


 サブリナが笑顔のまま陛下に話を振る。目が笑ってない。こ、怖い!

 陛下は「うっ!」と声を出すとため息をついた。


「ミアよ……お前には今まですまないことをしてきた。お前とウィリアムを引き離したのも間違いだった」


「陛下……。修道院でかくまったのも、ウィリアムを守るためだったのは知っております。恨みはしません」


 陛下は次にウィリアムの方を向く。


「ウィリアム。すまなかった。お前とミアを引き離したのは間違いだった」


「いいえ、陛下。修道院で育たなければレイラに出会えませんでしたから」


 ウィリアムの笑顔を見て陛下は、満足そうに破顔した。

 次に陛下はアーサーの方を向く。


「お前にも謝罪せねばならぬな。政治ばかり優先して、お前の気持ちを考えてやれなかった」


 そこで私は提案する。


「お兄ちゃんさ、ドラゴン退治の名誉さあ、独り占めしなよ」


 アーサー相手なのでつい口調が下町モード。


「おい、バカ。レイラ、口調が下町になってるぞ!」


「おっと、アーサー様。今こそドラゴンスレイヤーを名乗るべきですわ」


「レイラよ……取り繕うには遅すぎる。だがお前には世話になったな。このアーサー、一生の借りができた」


「じゃあ殿下。私の条件を出しますね」


「条件……なんだ? お前のことだ。どれほど恐ろしい事を考えているやら」


「ひどい! ああ、もう! ドラゴンスレイヤーの名誉を渡す条件はひとつ。ビアンカさんにちゃんと口頭で気持ちを伝えてください」


「お、おお……それでいいのか?」


 アーサーは驚いている。

 いやいやいやいや、アーサーの場合、誤爆の可能性あるからなあ。

 それにちゃんと伝えられた方が嬉しいと思う。


「それ以外にありますか。もし玉砕したら下町のいい子紹介しますよ」


「そこまで言われて引っ込むわけにはいかないな。ありがとうレイラ。お前には友情を感じる」


「ウィリアム、ちょっと変わってるけどレイラちゃん、いい子じゃないですか」


 サブリナがウィルに言う。


「そうねえ、ビアンカちゃんのことがなければ、アーサーの嫁にしたいくらいだわ」


 エリザベスも同意する。

 一瞬、アーサーが「いや、それだけはねえよ」って顔をしたのを私は見逃さない。


「あのう……俺の意見は」


「陛下、なにか?」


「なんでもない」


 嫁二人の迫力に陛下が引く。

 自業自得であるが、政治的に難しかったんだろうな。

 私だけは同情しよう。


「ミアちゃん、今度はウィリアムね。ウィリアム、単刀直入に聞きます。王になる気はありますか?」


「は?」


 エリザベスに言われてウィルは、ぽかーんと口を開けた。


「ウィリアム、世界中で話題になっている闇の巫女を娶るという意味がわかってますか? 端的に言うと世界最強を意味するのですよ」


「エリザベス様。ドラゴンスレイヤーは兄上に決まったのでは」


「公的な認定と事実は違います。レイラちゃんは世界最強の魔道士です。レイラちゃんさえいれば、あなたが王になるのは容易いこと」


 ウィルは目を泳がせる。


「ええっと、あの、サブリナ様」


「義母上。と、言いなさいウィリアム。ママでもいいですよ」


 ウィリアムは「ママ」を聞かなかったことにして続けた。

 サブリナママは案外お茶目な人のようだ。


「義母上、私は王になるつもりはありません。今と同じようにレイラと産業の育成に力を入れたいのです」


 実はそれが世界最強の近道なんだよな。と、私だけは知っている。

 貴族階級は滅び、資本家が力を握る。そのうち多国籍企業ができてグローバル社会がやって来る。

 産業を握ること、それは最強と同じなのだ。

 どうせ近いうちに銀行作るハメになるし。資本まで握ることになるよ。


「ミアちゃん、息子ちゃんがそう言ってるけどいいかな?」


 エリザベスがミアさんに話を振る。


「ウィル……いいのね? あなたとレイラちゃんが組めば、世界を征服することだって可能よ」


「いらない。いやレイラはいるのだけど」


 私はウィルの座っている席へ歩いて行く。

 世界征服とかどうでもいい。笑い話でしかない。

 でもそれよりも重要な事が私にはあったのだ。

 私はウィルの肩に手を置いた。


「ウィル。ここで言わないと、一生言えないよ。ウィルにとってミアさんはなに?」


 ウィルは息を吐くと噛みながらも声を絞り出した。


「か、か、母さん……俺は、レイラともの作りをしたい」


「よくできました」


 私は肩をたたくと席に戻る。


「レイラちゃん……」


「旦那が『お母さん』といつまでもしこりがあるのも嫌だしね」


「ありがとう……」


 ミアさんは声を抑えながら泣いていた。

 もう私の仕事は終わり。

 アーサーも本音を言えたし、サブリナはもともと巻き込まれただけだからいいとして、ウィルとミアさんもとりあえず和解への一歩を踏み出した。

 あとは時が解決するんじゃないかな。

 さあ、職人に戻るぞー!

 すると陛下が私を見る。


「レイラ、感謝する。よくぞ家族を取り戻してくれた」


「たいしたことはしてません」


「グランもよくぞレイラを育ててくれた。感謝する」


 親父は頭を下げた。

 これで四方丸く収まったわけだ。


「じゃあさ、ウィル。これからもよろしく!」


 私はウィルにそう言った。

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