第百三十三話 思いを一つに

 そして俺達の意識は、ユーデアーラ・ディストピアの笑い声が轟く中へと戻された。


 俺達、と言ってもサリアは別行動中。近くには俺とジュゼ、イレント、ハイ、それにエスカージャ殿が居る。


 空を見上げると、あの不気味な目玉が浮かんでいる。足元は監視塔。しっかりと床に足が付いている。


「あ、あっ、戻って、来た?のか。」


 俺は安堵で胸を撫で下ろした。


 時間を戻す前に起きたことは悪夢としか言えない。交戦するために飛び上がった俺の攻撃を一切気にも留めず、高笑いを続けるユーデアーラ・ディストピア。そしてその巨大な口が光速すらも超える常理を無視した速度で開き、星ごと一口でパクリ。そして牙に当たったものは消え、当たらなかったもの、即ち俺はそのまま胃の中へ運ばれーーー。


 思い出しただけで身震いがした。


 俺は肩をがっしと掴んで生きていることに感謝した。


「どうされました?」


 そんなことをしていると、ジュゼが心配そうにこちらを見てきた。


 俺は事情を話した。神との対談。そして最後のチャンス。意思や魔力をぶつけないと奴を倒すことは出来ないということ。その全てを。


 イレントが、横で聞いていただけで顔を真っ青にしていた。


「ななな、なんですか、それ。ふふふ、ふ、不可能…ですよ、そそそそ、そんなの。」


「だがやるしかない。やらなきゃどの道死ぬんだ。」


 そうは言ってみたが、ジュゼが指摘した。


「……方法が。あれを吹き飛ばすだけの膨大な意思を、魔力を、どうやって生み出すのですか。」


「……そこなんだよなぁ。」


 方法が全く浮かばん。今の空模様のようだ。今の空はなんというか空ではないが。


『魔力に関してはどうにかなるかもしれないZE?』


 聞いていたらしいコスマーロが語りかけてきた。


『聖域の魔力をお前のプロトバロットレットを介して一時的に供給することは出来るのSA!!常時供給は不可能だからパイプが必要だったわけだけGA、今回は短い時間だからNA!!何とかなるかもしれないZE!!他の奴らにも話しておくZE!!』


「そ、そうか!!」


 俺の声が高揚しているのが自分でも分かる。希望が少しだけ見えてきた。


『だがもう一方、あんだけ膨れた欲望を超える程の意思ってのはわからねぇNA。そっちはお前で何とかしてくれYO!!』


 一方的にまくしたてて、コスマーロは通信を切った。


 その声はその場にいた全員に聞こえていたらしい。近くにしたエスカージャ殿が悲壮感に満ちた顔をした。


「あああ、もう、世界はお終いだぁぁぁぁぁぁ……。」


 イレントが頭を抱えて倒れ込んだ。


 みんな同じことを思ってるんだろうな。


 そうふと思った時、閃いた。


「みんな同じことを…考え…。」


 みんなの意思が一つになれば、それは力となるのではないか。


 例えそれが、ネガティブなことであっても。


「…いやいやいや。」


 俺は頭を振った。違う。それじゃ多分ダメだ。デアーラだけならまだしも、あの文字通り腐り果てたユートが同化しているのだ。ただの餌にしかならん。


「もう少しこう…明るい…何か…意思が必要だ…。」


「いいい、今ですかあ?」


 イレントが無理だろという声色で叫んだ。分かってるわい。今そんなこと言われても出来っこないのは分かっている。それでも何か考えないと、俺達は餌になるだけだ。


「明るい意思ってなんでしょうか。」


 ハイが比較的冷静に呟いた。


 俺にも分からん。


 場が沈黙に包まれた。


「なななななな、なんとかしてくださいよぉ、魔王様ぁー。」


 イレントが泣きついてきた。


「何とかしてくれって言われてもさぁ!!俺にだって…………………。」


 ん?んんん?


「どうされました?」


 ジュゼが何か言ったが、俺は自分の中の思考を整理するのでいっぱいいっぱいだった。


「今……頼られたよな。」


「ええ、はい。まぁ。」


 頼るってのはネガティブか?


 いや頼る・託すという意思であればそれはポジティブな意思であり、その託された側に力を与えてくれるのでは?


「リファ!!デアス!!」


 俺が天に叫ぶと、俺の耳に声が聞こえてきた。


『お前の考え は間違って はいないと 思われる』


 また心を読んでいたか。だが話は早い。


「例えばだが、お前達の力で、人々の声・意思を集めることは出来るか?」


『可能では ある』


『だがそこに 恐怖があっ てはいけな い今の奴は それをも喰 らう』


『だがそれ は強制で あっては いけない 強制され た思考は 歪みを生 み集まっ た意思を かき乱す』


 それは大体分かっている。


『そして奴を 打ち破るに は星に住む ほぼ全員の 意思が一つ になった時 のエネルギー が必要だ』


『魔力もだ』


「だが可能なんだな?」


『うむ』


『それは請 け合おう』


 よし。


「ジュゼ、サリアに連絡を。それと、自然界にも魔通を中継することは出来るか?」


「出来ますが、え?まさか?」


 ジュゼは理解したらしい。


 ああ、そのまさかだ。


 話は簡単だ。星に住む全ての人々に、俺とサリアを頼って貰うのだ。

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