第三期 第二部 燦爛たる勇者/電煌雷轟

第百八話 アタシに出来る事

 アタシ、サリアは自分でも説明出来ない焦燥感に駆られていた。


 何かしなければならない。アイツの為に。


 それがなぜなのかは分からない。でもそうしないといけないように思うのだ。



 あの時。あのデカブツが空から降りてきた時。そしてそいつが魔界を蹂躙した時、アタシは何も出来なかった。


 アイツは自分を責めるなと言った。


 責められないわけがない。


 アタシが何か出来れば、アタシにもう少し力があれば、誰かの命をもっと救えたかもしれない。



 でも出来なかった。



 それは、少しは救えたかもしれない。でもいっぱい犠牲が出た。アタシのせいだ。アタシに力が無いから。


 力はあればいいってもんじゃない。でも今は力が欲しい。みんなの命を、アイツを、助ける力を。



 そんな思いから、アタシは自然界への出戻りを申し出た。


 勿論各国への文書や支援の依頼もある。


 でもそれ以上に、何かアタシが強くなる方法が無いかを探す目的もあった。


 特訓も勿論する。トンスケとよくやってる。でもそれだけでは、あの化物には対抗出来ない、そんな確信があった。


 アイツはそんな考えお見通しだったみたいだけど、だからと言ってアタシの考えが変わる事は無い。


 何か自分に出来る事を探す。


 それが自然界に戻る最大の理由だった。




 イージス王国では特に情報は無かった。


 エスカージャ王が積極的に支援を表明してくれたのは嬉しかったけれど、アタシにとってそれは二の次だった。


 アタシは出来る限りの愛想笑いをして、持ってきた通信機で城に残っているトンスケに連絡し、そしてその足で今度は生まれ故郷のブレドール王国へ向かう事にした。




 ブレドール王国の大きな正面門を見て、アタシは溜息を吐いた。


 帰って来たかったかと問われると首を横に振る。あまりいい思い出はない。特に最近は。手を刺されたりロクなもんじゃない。


 でもやっぱり生まれ故郷の空気というのは、どこか懐かしい香りがした。


 仕方ない。アタシは嫌々ながらに門をくぐり足を踏み入れた。



 ユートに操られていた頃の物々しい雰囲気とは一変し、イージス王国のような長閑な雰囲気がそこには広がっていた。少し安心した。あの頃は何かピリピリしていて、凄く怖かったのだ。


 街を行く人々の目には生気が戻り、勇者を崇めていたあの頃の面影は全く無くなっていた。



 城に行ってもその雰囲気は変わらなかった。


 城主のレイピス王は、今までの非礼を詫びた後、支援を了承してくれた。


「しかし勇者様が魔王様と協力とは、時代とは変わるものですな。」


 彼は恐らく率直に、裏もなくただ思った事だけを口にした。


「ええ。でもアタシは…大した事出来てませんから。」


 思わず本音が出てしまった。


 それに対して王は少しバツの悪い顔をして、「失礼した、気を害されたようで。」と謝ってきた。まずい。アタシの物言いで変ないざこざを起こしたくない。


「い、いえいえ、全然。こちらこそすみません。…ところで、勇者に関してですが、何かこう…伝説みたいなものってご存知ないですか?アタシは、その、聖剣を抜いて魔王を退治したくらいしか知らなくて。」


 話題の方向性を変えるために、別の話題を出してみた。…別の話題か?コレ。


「そ、そうですなぁ。…勇者信仰こそしておりましたが、私もそれくらいしか知らないですなぁ。」


 気不味い。結局雰囲気を変えるのには失敗してしまった。


「あ、あー、そうですか。それは残念。でもまぁいいです!!少し図書館とか見てみますので。それでは今後ともアイツをよろしくお願いしますね!!」


 と言ってアタシはスタスタと玉座の間を後にした。…アタシは外交官にゃ向いてないようである。魔界との関係が拗れなければいいのだが。



 せめて戦力にはなりたい。その情報を得たい。


 その思いで図書館に行ったが、まぁ前読んだ事のある本ばかりで、大した情報はない。


 前もこんな事したなぁと思い出しながら、机の上に並べた本の山の一つに肘を付き、はぁ、と溜息を吐くと、横から誰かが話かけてきた。


『お悩みのようじゃな。』


 この声には聞き覚えがあった。声のする方を向く。横に椅子はなく、誰もいない。


『わしじゃよ、アウローロじゃよ。お主が困っているようだったから少しアドバイスをと思うての。』


 余計なお世話と言いたいところだが、今はこの女のそれすら欲しいところであった。


『そうであろうそうであろう。素直になるのは良い事じゃ。お主はそれでなくとも彼奴に…。まぁ良い。』


 何の話だろうか。何か心の奥底まで読まれているようで気分が少し悪い。


『失敬失敬。それは今はまだ触れないでおこう。それよりも。正しい目的で強くなりたいと思う事は良い事じゃ。そこでお主にアドバイスをやろう。』


 アンタが剣を鍛え直すじゃダメなの?


『もうわしでもそれ以上は無理じゃ。そんな中でも強くなるには?わしが考えられる方法は一つだけある。ーーー初代勇者に会うことじゃ。』

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