第三期 第一部 氷聖瓦解

第百三話 三期目始動

「魔王様、任期更新おめでとうございます。」


「うん…。まぁ…ありがとう。」


 ジュゼの言葉に、俺は何と言えばいいか言葉に詰まりつつ、最終的には覇気の無い返事をした。


「随分気の無いお言葉ですね。……とはいえ、これでは仕方ありませんか。」


「まぁ、ねぇ。」


 俺達の周りには、魔王城の瓦礫と、血生臭い匂い、そしてユーデアーラとその他諸々が入り混じった肉片が未だ飛び散らかったままであった。




 あのユーデアーラ襲撃から端を発する一連の事件の解決から一週間が経過した。


 魔界全体は少しずつ落ち着きを取り戻していたが、全体的に鎮魂の念に包まれていた。


 残された兵士達や義勇兵の人々に依頼をし、被害状況の確認と復興の支援などを行っていたが、情報が入れば入るほど、大災害としか言うに相応しい状況が露わになり、人々の心が絶望に包まれていった。


 あの事件では、被害を受けていない場所を探す方が難しい程に、ユーデアーラ及びその配下たるユーデアの侵食は筆舌に尽くし難いものであった。


 被害者の総数は数えきれず、荒らされた田畑、牧場、その他諸々の被害総額は計算に数年を要するであろう規模であった。


 魔界が滅亡する程の被害を受けなかったのは不幸中の幸いというべきだろう。それほどの脅威であり、それほどの打撃であった。


 とはいえ、ある点では、この件は良い方向に働いた。


 宇宙より来る脅威、デアーラについて、人々の理解が深まった事だ。


 これにより、人々は再来するであろう脅威に怯えつつも、対策を打つ事の重要性を理解する事となった。…否応なしに。



 加えて、魔界の統治システムの破壊、そしてこれによる秩序の崩壊についても問題であった。


 魔界城地下のシステムは完全にユーデアーラに食い荒らされ、復元は不可能である事が報告された。聞いた時俺が肩を落としたのは言うまでも無い。


 魔獣/魔人と魔物の区別がつかず、無辜の人々が食糧不足などの理由により襲われるケースも多々報告されていた。


 そして選挙や魔王の権限などの設定についても統治システムに頼っていたため、現在は魔王が空位となってしまっている状態であった。



 とにかくなんとかしなければならない。


 これは人々の統一見解であった。


 そして、そのために必要なのは、正しい心と力を持った魔王であるという事もまた同様であった。


 結果、この混乱が収まるまでの間、俺が魔王を継続する事が決定された。……決定したといっても、主要な拠点の生存者から異論が出なかっただけではあるが。


 泥を被りたがる者が居なかっただけとも言う。選挙の立候補者は殆どが生存していたが、大体が辞退した。こんな状況で魔王になりたがる物好きは俺だけだったらしい。仮に選挙をしていたとしても、結果は変わらなかっただろう。


 まぁ俺だって本音で言えば、この絶望的な状況で責任者になりたいかというと、一ミリ程度嫌だなと思っている事は否定しない。


 だが、俺以外にどうにか出来るとは、自惚れになるかもしれないが、全く思えなかった。


 ユーデアーラ本体はおろか、その下位種族にあたるだろうユーデアにすら、俺と属性神以外は殆ど対抗出来ていなかった。もし第二波が間髪入れずに来たとして、対応出来るのは間違いなく俺だけだろう。


 それにこの状況からの復興のためには、自然界とのコネクションが必要になる。魔界だけではどうにもならないからだ。それは単純に人手の問題もあるし、食糧の問題もある。そのコネクションを持っているのは俺だけだった。


 更に、魔界の統治システムの代替についても、元々システムの停止を訴えようとしていた俺には用意があった。それも選ばれる要因の一つであった。法律、警察、裁判所の導入。何も人がいない今は実用には至らないだろうが、せめて法律を制定し、自衛の範囲であれば敵への攻撃を認める、それだけでも人々の生存には役に立つだろうし、一定の秩序が形成されるだろうという期待があった。



 とにかく、様々な思惑も相まって、俺は第三期を、無事……とは言い難い形ではあるものの、勤める事になったのであった。

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