第二期 第五部 光芒一閃

第四十六話 勇者、光の聖域へ

 アタシはサリア・カーレッジ。勇者をやっている美少女。色々あって魔界と魔王の監視のために魔王城に住み込んでいる。


 そんなアタシは今、荒れ果てた魔界の地を歩き、果てにあるという光の聖地へと向かっている。それは勇者だけが使える(と聞いている)剣、アタシの持つ愛用の武器ブレイブエクスカリバーに原因がある。こいつ、少なくとも音声は以前から何かおかしいとは思っていたところ、以前にこの愛剣を見た事ある人…いやドラゴンから、実際に壊れていると聞き、それを直してもらえそうな人か魔獣の居る場所へと赴く事にしたのだ。


「ほらファイトファイトー。勇者は体力が資本だよー。」


 アタシの背におんぶされている、年齢不詳の自称時の賢者、ティア・リピートと一緒に。


 色々納得がいかない状況ではある。


 魔界に来て分かったのだが、魔界というのは大変に便利な場所だ。転移魔法があり、知っている場所なら自由に行き来出来る方法が存在する。制約こそあれ、空を飛ぶ事も出来る。まだ開発中らしいが、遠くの村と村を結ぶ、自動の馬車のようなものもあるらしい。こーいうのも魔王の色んなシサクとやらのお陰なのだろうか。そこまで突っ込んで聞いてはいないが、まぁそうなのだろうと思う。彼も色々便利にしようと頑張っているし。


 そういう目新しいものがいっぱいの魔界で過ごしていると、自然界より魔界の方が魅力的に見えてしまっている。田舎の村に住んでいたアタシだからというのもあるかもしれないし、昔ながらの伝統やら何やらに縛られているブレドール王国出身というのも多分に手伝っているのはあるのだろうけれど。


 問題は、そんな魔界で、何故アタシは徒歩で遠くへ向かわねばならないのだろうか、という点だ。そうティアに訴えたが、「行けば分かるよ」と一蹴され、あまつさえ「遠いからおぶっていってくれ」なんていう始末。まぁいい運動になるし、なんて言って、それに従ってしまったアタシもアタシだとは思う。まさか走って数日とは。全くもって納得がいかない。先に聞いておけば良かった。


 とエレグ(魔王)のように愚痴をこぼしてみたが、一応、時の賢者様のお陰で大分スピードはアップしている。本人曰く時の魔法では無いらしいが、アタシには特に違いはわからない。とりあえず楽にはなった事だけは分かる。それで十分だった。というかこれはこれで楽しくなってきた。普段よりも物凄いスピードで地を駆け、景色が次々と切り替わるこの様は、これも魔界に来なければ見られなかった光景だろう。良しとしよう。


 良しとしたところで自分でも思ったが、アタシは結構単純な方だと言われる事が多い。特にエレグ等には脳筋だのと言われることもある(その度に前を見えなくしてやってるが)。自覚がないわけではない。だが単純というよりも純粋、あるいは好奇心旺盛と言って欲しい。新しいもの、見たことないものに惹かれる。新しいものが見られれば、多少自分が不利益を被ったとしても納得してしまう。そーいう性質なのだ、アタシは。アタシ自身はこれは長所だと思っている。それのお陰で「勇者とは何たるか」みたいな固定観念に縛られなかったのだろうし。


「沈黙が長いけどどうしたの?」


 ティアが言ったので、「なんでもない」と言い、そのまま魔界の地を駆けた。



 近付くにつれて、転移とかをしなかった理由が分からなくもなくなってきた。徐々に地平線の向こうが光輝き始めたのだ。そしてその輝きは近付けば近付く程強くなり、目が開けなくなってきた。いきなりこんなところに転移したら目が潰れていただろう。


「これ以上は進めないわよ。」


 アタシは足を止めて言った。


「眩しすぎ。目が痛いわ。」


 こんなところで誰が生活出来るというのだろう。光がない場所では生活し辛いが、光がありすぎても生活出来ない。難しいものね。


「じゃあこれを着けて。」


 ティアはアタシに変な眼鏡みたいなものを差し出した。普通眼鏡のレンズは透明だが、これは黒い。これで何をしろというのか。怪しげに思いながらも、それを恐る恐る着けてみる。すると周りの光が収まり、普通に見えるようになった。凄い。何これ。


「遮光板の魔力版というか、まぁ広くは遮光板と言っていいかな。光の魔力の影響を抑えて、周りを見えるようにする特殊な板さ。一応太陽とかの天体観測にも使えるハイブリッドなものでね。こういう時のために用意しておいたのさ。」


 シャコウバンというのが何かアタシにはわからないが、少なくとも凄いものである事は分かった。でもこれがあるなら最初から転移すれば良かったんじゃないかしらと思うが、それについて聞くとティアは「ゆっくり向かった方がいいだろ?それにボクは他人の転移は得意じゃないから」と返してきた。納得いかないが、細かい事を気にしても仕方ない。アタシはこのシャコウバンとやらを身に付けたまま、光の源へと向かっていった。



 やがて、先日エレグと行った風の未開拓なんちゃらのように、亀裂が走っている場所を見つけた。この亀裂の向こう側が、光のミカイタク…めんどくさい。光の聖域とやらのようである。


 その亀裂とこちら側とを遮るように、壁が作られていた。光輝く壁。シャコウバンを外したら多分見えなくてぶつかっていただろう。ティアが背中から降りて、その辺に落ちていた小石を拾ってその壁に投げつけると、壁に触れた瞬間、その小石はジュッという音を立てて消滅した。


「防御壁さ。触れたらこうなる。」


「もう少し前に言ってくれる!?触ったらどうするのよ!!」


 アタシが顔を真っ青にしながら言うと、彼女はケロっとした表情で言った。


「時間を戻すからいいじゃないか。」


 良くない。痛みは伴うのだ。痛いのは嫌だ。この間刺された時も痛かったし。


「まま、それはそれとして。門はボクに任せてくれたまえよ。」


 そういうと彼女は門の前に立って、言った。


「アウローロォー?ボクだよ、ティアだよー。用があるんだけど開けてくれないかなー?」


 すると門がギギギギギギギと開いた。無用心すぎない!?と思っていると、その門の奥からアリが人間の体を持ったような風態の魔物…?が二人出てきた。申し訳無いのだけれど、ちょっと気持ち悪い。


「ティア・リピート?」


 そのアリ人間が尋ねて来た。槍を持っている。警備兵か何かだろうか。


「うん、そのティア・リピート。」


「アウローロ様から言われている。」


 するとアリ人間達は槍をこちらに向けて、いきなり何かを放って来た。


「なにヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!!!!!!」


「あばばばばばばばばばばばばば!!!!!!!!」


 剣を抜く間も無く、槍の穂先から放たれた電撃がアタシ達の体を貫いた。貫いたというのは文字通りの意味ではなく、あくまでそーいう衝撃が走ったと思って欲しい。死ぬほどのそれではないが、とりあえず動きを止めるには十分だった。アタシの体が全く動かせなくなって、ティアと一緒にバタリと地に伏した後、アリ人間達は言った。


「話があるから生きて捕えろと。よし、連れて行け。」


 なんかアタシ、槍に縁があり過ぎない?という疑問と、こんな胡散臭い賢者様と一緒に来るんじゃなかった、そういう後悔と共に、アタシの意識は薄れていった。

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