第482話【それぞれの選択3】
<<ヤリス視点>>
それは突然の出来事でした。
いえ、実際には今日に至るまでに幾つかの布石はあったのかもしれませんが、忙しさにかまけて、見逃していたのかもしれません。
シューベル王国がスピーダ星連合に反旗を翻したのです。
武力による蜂起はあっという間にスピーダ連合会議が行われているセムシェル王国を取り囲み、市街地まで侵入した一部の部隊は会議場のある王城まで迫っています。
セムシェルの儀仗兵、城守備隊とシューベル王国以外の国の護衛兵達が、何とか王城への侵入を阻止していますが、数の上でも厳しい状況です。
前日に発生したドラゴン討伐の為に城壁外にいた、王国軍の主力部隊も、ドラゴンとの戦闘による疲弊と、シューベル王国軍の主力に阻まれ、城壁内に入れないようです。
会議場内では、シューベル王とその護衛兵により突然武力制圧が行われ、各国の王を人質に立て籠もってしまいました。
これでは、外に待機していた各国の兵士達も容易に手を出せる状況ではありません。
かくいうわたしも、オブザーバーとして会議に参加しておりましたので、王達同様、囚われの身となっているのです。
「この星は我がシューベル王国が支配する!
悪の手先の口車に乗せられて、侵略者の手引きをしたミリーとミスル。安穏と侵略者の進行を待っている愚かな支配者達に、正義の鉄槌を下す時が来たのだ!」
そう宣言するシューベル王を諌めようと王達は次々と反論しますが、ついには口を塞がれて、部屋の隅に転がされている始末です。
そして、王城の堅牢なはずの門を破ったシューベル国軍が会議場の扉に手を掛けた時、全てが停止しました。
正確にはわたしと目の前にいるこの世で最も頼もしい男性、そして女神マリス様以外の全てが止まっているのです。
「いやぁ、ヤリスさん大丈夫ですか?
大変な目に合いましたね。」
「全くだわね。誰が悪の手先なのかしら。
いや、もしかして、マサルさんやわたしが悪なの!ねぇ、そうなの!」
マリス様、顔が怖いです。鬼の形相になっていますよ。
「マリス様、マサル会頭、助けに来て下さったのですね。
ありがとうございます。」
「しかし、大変だったね。他の星でも同じようなことがあったから心配してたら、本当に起こるんだもんな。
マリスさんの化粧に思ったより時間が掛かってしまったから、少し遅れてしまって申し訳ない。」
「ちょっとマサルさん!それは内緒の約束でしょ。」
「会頭。今のこの状況は?」
「ああ、時間停止の魔法だよ。今この星の中で動いているのは俺達3人だけだよ。」
爽やかに緊張感の欠片もない声で話す会頭の声を聞いていると、つい先程までの緊迫感も忘れそうになります。
「えーと、先ずシューベルの王と護衛兵を拘束してと。
それから、侵入しょうとしている者達はお互いに攻撃するように配置を変えておくかな。
後は雪崩込んで来た城門のところに落とし穴を掘って足止めをしておこう。
疲弊している国軍を全回復しておけば、違和感なく制圧出来るかな。
一応、国際連合は内政不干渉が原則だからね。
あくまでも、星の中で解決した体にしておかないと。」
ちょっと真面目な顔でつぶやく会頭の顔に、ひとつの星を加盟させる難しさを痛感したのでした。
「えーと、時間を動かすから、マリスさん、いつもの要領でお願いね。」
「任しておいて。じゃあいくわよ。1、2、3!」
マリス様の姿が光り輝いたかと思ったら、わたしは会頭に抱き抱えたられて、その場から、瞬間移動しました。
<<ミリー視点>>
スピーダ連合会議で今後の文明の取り入れ方について決議を採ろうとした時です。
突然シューベル王が立ち上がり、「この売国奴めがー-!!」と大声で叫びました。
それまで静かにされていたので、その変貌に驚いていると、シューベル王の後ろに立っていた護衛兵のひとりが、シューベル王の隣に座っていた議長セムシェル王の護衛兵を斃し、セムシェル王に剣を突き付け拘束しました。
「動くな!!動けば、この売国奴の命は無いぞ!!
護衛兵は全員、武装を解いて壁に向かって手をつけ!」
どうすべきか戸惑う護衛兵達。
「カービル!貴様何をしているのか分かっているのか!」
シューベル王の名を呼んで諫めているのは、実の兄であるサルビス王です。
「兄上!兄上こそ、こんな売国奴に魂を売るとはどういうことか!
おい!何をしている!王ともども縛ってしまえ。護衛兵も抵抗する奴は殺して構わん!」
自らの護衛兵に檄を飛ばして、王と護衛兵を分離拘束させたのです。
「この星は我がシューベル王国が支配する!
悪の手先の口車に乗せられて、侵略者の手引きをしたミリーとミスル。安穏と侵略者の進行を待っている愚かな支配者達に、正義の鉄槌を下す時が来たのだ!」
そう宣言するシューベル王。会議場の外に喧騒が聞こえだし、遂に怒号が扉を開こうとしたその時でした。
「うっ!」
まぶしい光が会議場内を蔽い尽くし、その光の中に女神マリス様が現れました。
そして、マリス様は、ふっと微笑まれると意味深な言葉を告げられて、そのままお隠れになったのです。
一瞬の出来事に何事かと思った時、わたしはその神のお力に慄くしかありませんでした。
先程まで拘束されていたわたしや各国の王、護衛兵の拘束が解かれ、逆にシューベル王やその護衛兵が拘束されていました。
そして、会議場の扉を押し開けこの場を蹂躙するはずのシューベル兵達まで拘束されていたのです。
マリス様に助けられた各国の王達は、その奇跡に畏怖し、会議場外で起きた奇跡も相まって、以降のマリス様への信仰はスピーダ星で盤石なものとなったのでした。
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