第455話【夢の跡6】
<<ゼロス視点>>
ハルムートは家畜にしては有能な奴だった。
奴には1000年の寿命を与え、文明を築かせた。
だが、愚かな家畜共は、その寿命さえも待たぬうちに星を滅ぼす。
何度繰り返しただろうか。
その度にハルムートは献身的に働きおった。
もちろん前回の記憶など持たないのだから当然だろう。
だが彼は数え切れないくらいの繰り返しの中で、いつしかわたしの想定外の行動をとった。
自ら死を選んだのだ。
理由は分からぬ。
ただ、ハルムートの居なくなったあの星を再び回復させられる者など居ないことは確実であった。
わたしはハルムートの星を捨てることにしたのだ。
<<マイク視点>>
ユウコさんから総司令部に連絡が入ったのは1時間ほど前のことだった。
とある空域で星が突然現れた言うのだ。
今俺はそこに向かっているところだった。
「あれだな。捜索している星とよく似ている。」
ランス様から聞いている星の特徴に良く似ているその星に降り立つ。
申し訳程度に草の生えた広大な荒れ地は人が住むにはあまりにも過酷過ぎる。
そんな大地にも僅かに感じる生命力。
だが、それは人のものでは無かった。
恐らく、この過酷過ぎる環境は人を排除してしまったのだろうか。
マサル様から頂いた思念の残渣を調べる魔導具を用いて何か人の残渣が残っていないか調べていると、ある洞窟内で、この世界には似つかわしく無い古ぼけた杖を見付けることが出来た。
その杖を携えて、俺はその星を後にした。
<<マサル視点>>
ランスから「相談したいことがある。」と連絡があった。
自宅屋敷の応接室で話しを聞く。
マリス様から受けた依頼と、その調査結果。
そして、その星に残されていた使い古しの杖。
その杖に残された複雑な思念から読み取れたゼロスという言葉。
俺はランスから杖を預かると、そこに記憶されている思念を丁寧に読み取る。
そしてそこにはひとりの魔術師の壮大な記憶が残されていたのだった。
※※ハルムートの思念※※
我、創造神エオリア様より、賢者としての能力を授かる。
未だ未熟なる存在に過ぎないが、この世界を発展させるために微力ながら力を尽くそうぞ。
エオリア様より授かる知恵を元に国を作って行く。
ある時は農産物を作る知恵を広め、ある時は為政者に対して政治の助言を行う。
医学や建築に関する知識を授けることで、生活を豊かにもしてきた。
人口は爆発的に増加し、やがて残り少ない大地を求めて人は争うようになってしまったのだ。
そしてエオリア様は神託を我に与え給う。
『世界をリセットします』
と。
人間達の暴走はもはや我にも止めることが出来ないほどになってしまっていた。
我は神託に従い、巨大な方舟を作り、残すべき生命を集めた。
果たして、信託の通り嵐が始まる。
大地を呑み込んだ雨が止むと、渇ききった大地の時代となる。
やがて、激しい雷が世界を包み、大地は人が住めうる世界では無くなった。
エオリア様は我を見捨て給うたかと落胆する中、新たなる神が降臨される。
全知全能の神ゼロス様
新たな神は我に力を与えると約束して下さった。
そして我は意識を失った。
ゼロス様のご信託と与えられた能力により、彼果てた土地は国として急速に発展を遂げる。
1000年の生命を受けた身として誠心誠意ゼロス様にお仕えし国を発展させていくのだが、人間の欲望とは恐ろしいものだ。
どれほど豊かで満ち足りた世界を与えられても、満足することが無かった。
ああ、終焉のボタンは押されたのだ....
.............
今この世界は、まさに終焉の時を迎えようとしている。
もう我に出来ることは無かった。
そして我は自分の不甲斐なさと共にひとりの女性を思い出すのだ。
あの神々しさは人間では無かろう。
だが、この世界には絶対神のゼロス様しかおられないはず。
なのに、なぜかあの女性の姿が記憶のどこかにあるのだ。
ゼロス様のように的確なご神託は無かったと思う。
ただ、ゼロス様のような冷たさも無く、どちらかというと優しさに溢れていたように思う。
何故そんなことを思うのか分からない。分からないが、何故かそう思ってしまうのだ。
「もう、いいのではないですか。あなたは充分に役目を果たされました。
世界を再興したいというあなたの夢は叶ったのですよ。
もうあなたがこの先を気にする必要はありません。
ゆっくりお休みください。」
そう言われた気がした。
そしてわたしは自らの喉に剣を刺して <初めて> 自ら生涯を閉じることとなった。
※※※※※※※※
ゼロスとの邂逅後、ハルムート思念はよく似た記憶を何十回と繰り返していた。
恐らく牧場主としてゼロスに操られていたのだと思う。
そして永遠に続くはずであった彼の牧場主としての役割は、微かに残っていたエオリアの記憶が引き金となり自ら命を絶つことで終わりを迎えた。
恐らく、彼の死はゼロスの予測しない事態だったのであろう。
死した者に生を与えることは出来ない。
そのため、ゼロスはあの星を手放したに違いなかった。
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