第359話【次元の狭間9】

<<マサル視点>>


監査部に異変が起きた時の資料が残っていた。


しかも映像まであるじゃないか。


俺はリモコン片手に早送りと再生を繰り返して、問題の時間帯を映す。


たしかにノイズのようなものが入って映像が数秒途絶えている。


少し巻き戻して再び再生。


今度は超スロー再生で映すと共に、魔法を使ってポケットに入れた魔石に録画しておく。


波形についても、映像と時間を合わせた形で映像として保存した。


よし、とりあえずはこれでこの場所で手に入るものは全て手に入った。


黙って録画するのは良心の仮借があるが、機密事項である以上仕方がない。


心の中でライクさんに謝りながら監査部を後にした。


「マサルさん、映像を録画していた?」


調査室の事務所に戻るとユウコさんが話し掛けてきた。


「ああ、ライクさんには申し訳無かったけどね。


あそこでこちらの映像を見せるわけにはいかなかったからね。」


「ライクさんは魔法があまり得意じゃないから気付かれなかったけど、得意な人だったら気付かれてたかもね。」


「そうだな、これからは気を付けるよ。」


今まであまり気にしたことがなかったけど、こっちの人達はそういうのに敏感なんだったな。


ユウコさんに指摘されるまで忘れてたよ。


「さあ、映像をもう一度確認しましょ。」


「ああ、そうしょう。」


事務所の白い壁に召喚部屋で撮った映像と監査部で得た映像を並べて映す。


次元の波形を参考に再生のタイミングを合わせると、二元中継のような映像が映し出された。


「わー、これ、分かりやすいわね。」


右側にミリヤ様が召喚ボタンを押す様子が映ると、左側には監査部から見た地球の映像と波形が映り、召喚部屋が白くなるに連れて波形が大きく揺れている。


ちょうど日本の辺りが明るくなって一筋の線が伸びたかと思ったらブツッと切れた。


波形はひときわ大きく振れて地球の映像が乱れた。


数秒後、映像が戻った時には波形は何も無かったかのように真っ直ぐに描かれていた。


「ねえマサルさん。地球から伸びていた線は恐らく召喚室に続いていたんでしょうね。


右側の映像でアキラ君が近付いて来るのとリンクしていたわ。


そして線が切れた時にアキラ君の足元に黒い靄が現れ、乱れたタイミングでアキラ君が消えたわ。」


ユウコさんの言う通りふたつの映像は完璧に同期していた。


「ユウコさん、ちょっとここを見て。」


俺は両方の映像を同期を取ったまま巻き戻し、地球から線が伸びる瞬間をスロー再生した。


「あれっ、線が伸びる少し前から日本の辺りに薄く靄がかかってるみたいね。


そして伸びる線にも靄が纏わり付いているわ。


よく見ないと分からなかったわ。」


「この白く伸びる線が召喚室の白い光で纏わり付く靄が召喚室の黒い靄、そして映像の乱れがアキラ君が消えた瞬間に見えた歪みだと考えられるね。


そうすると、地球からアキラ君が召喚された時点で既にアキラ君は別の力で引っ張られていたのかもな。


そして、たまたまミリア様の召喚の最中にそちらに持っていかれたのかも。」


隣でユウコさんはなにやら考えている様子。


ガチャ


ちょうどその時室長が入ってきた。


「おやユウコ君、眉間にしわを寄せてどうしたんだい?」


「ああ室長。さっき監査部から帰ってきて向こうで入手した映像を見ていたんです。」


俺は壁に映像を映し室長に見せる。


「右側が俺が召喚室で取ってきた映像です。左側は監査部で見せてもらった映像を盗み撮りしてきたものです。すいません。」


「盗み撮りとは穏やかじゃないな。まあ、この件については機密事項なので仕方が無いが、内々に監査部の上層部とは連携を取っているから、これからは先にこちらに連絡して欲しいな。」


「すいません、そうさせてもらいます。


それで左側はアキラ君が召喚された時のアースの様子を撮った映像です。


そしてその横が監査部で測定していた次元の波形ですね。この3つの映像は同期を取ってありますので、見比べて頂くとよく分かると思います。」


俺は映像を流しながら自分の推測を室長に説明していった。


「うむ、よくわかったよ。我々も理屈としては理解しているがこうして多角的に見るとよく理解できるな。こういったものを学校の教材に使うべきかな。


まあそんなことはどうでもいい。マサル君、君の推論はほぼ間違いないだろう。


我々の持っている認識と照らし合わせても正しいと思う。


それで君の推論通り、我々の他にアースの人間を召喚している者達がいるってことで間違いなさそうだ。


恐らく彼らは我々の目を盗みながら召喚、いや誘拐とでもいうべきか、を繰り返して次元の狭間に落としているのだろう。


目的は、まだあくまでも推測ではあるが、次元の狭間に落ちた者達から生命エネルギーを吸い取ることかな。」


「そうですね。俺もなんとなくそういう推論を立てていました。」


「ま、待って、何か話しが見えないんだけど。」


目を白黒させているユウコさん。


「ユウコさん、この世界の人達がなぜ新しく星を作っているのか知ってる?


前にマリス様に聞いたことがあるんだけど、文明を起こし良質な生命をたくさん作ることでそのエネルギーを得ることが目的なんだって。


信仰心は何よりのエネルギーになるから、運営課の人達は異世界の神としてその世界を導くのだそうだよ。


そうですよね、室長。」


「そうだな、召喚者には内緒にする方針なんだが、マリス君は口が軽いと言わざるを得ないな。


まあ君達なら大丈夫だろう。マサル君の言うとおりだ。

生命エネルギーを得るために我々は新しい生命を創っている。


ところで最も生命エネルギーを得られる方法をユウコ君は知っているかい?」


「.......あっ、わかりました。」


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