第355話【次元の狭間5】
<<ユウコ視点>>
あれは忘れられない日になりました。
わたしの住んでいた漁師町を大地震が襲ったのです。
高校入学を間近に控えたその日、わたしはショッピングセンターでこの春から使う文房具を買いに来ていました。
最上階でパフェでも食べようと、エレベーターで移動中に突然の大揺れ。
思わずしゃがみこんでしまったわたしは、当然のように止まったエレベーター内に取り残されたのです。
外もパニックになってるのでしょうか。非常ボタンを押しても誰も出てくれません。
このエレベーターは外側が透明なので最上階近くにいるわたしからは、地上の様子がよく見えました。
線路上には停車している電車達。
市役所前の交差点の信号機は灯りが消え、車が渋滞しています。
そして海岸線の向こう側には白い水平線がだんだん太くなってきました。
津波!?
そう思った時、まるで突然日没を迎えたように辺りが暗くなり、何も見えなくなると、そのまま意識が飛んでしまったのです。
「うぶか…じょうぶか…大丈夫か。」
誰かの呼び掛けにわたしは覚醒しました。
真っ白な部屋にはわたしひとり。
他には誰もいません。
『大丈夫?』
頭の中に声が響きます。
『大丈夫です。ここはどこ?』
『君達が天国って呼ぶところだよ。』
『じゃあ、わたしは死んじゃったの?』
『うーん、正確に言うと落ちかけたかな。
まあ、向こうの世界からはいなくなったから、死んだと考えて差し支えないな。』
『落ちたって、エレベーターから?』
『いや次元の狭間っていうところだ。』
『次元の狭間ってパラレルワールド通しの間にあるやつ?』
『ハハハハ、アース人は相変わらず発想力が豊かだね。
まあ、そんな感じで捉えてくれて構わない。
大地震の際に、ごく稀に次元の狭間が現れることがあって、たまたま君の乗っていたエレベーターが飲み込まれたんだ。
次元の狭間に落ちるとそこからは出ることが出来なくなる。
だから落ちる直前に助けたんだ。
間に合って良かったよ。』
『天国ってことは、あなたは神様?』
『そう思ってもらっても構わないかな。
そうだ君、異世界に興味はないかい?』
『異世界って剣と魔法の世界?』
『ハハハハ、相変わらずアース人の異世界感は片寄ってるね。
まあ、元公安課のマリオが発行する異世界物が剣と魔法の物語ばかりだからしようがないかな。
そういう世界もあるよ。もちろんそうでない世界も多いけどね。
君のいたアースも異世界のうちのひとつだしね。』
『わたし、魔法でチートしてみたいんです。出来ますか?』
『出来なくも無いよ。ただ君は運営課が召喚したわけじゃないからね、できればわたし達の組織に参加してくれたら嬉しいかな。
あー、もちろんお望みなら剣と魔法のチートっていうのもあげるよ。』
『じゃあ、わたしあなたの組織に入ります。』
『わかった、歓迎するよ。
じゃあ一緒に行こう。』
こうしてわたしは監査部のエージェントとして活動することになりました。
監査部のエージェントにはわたしと同じ様な境遇の人達もたくさんいるし、人型だけじゃなくて動物や爬虫類型の人達もたくさんいて、いろんな世界で調査や隠密活動をしているみたいです。
わたしは主に次元の狭間に落ちそうな人達の救出に関与する仕事が多いですね。
どうやらアース人はこちらの人達が入れない次元の狭間にも入れる場合が多いみたいです。
次元の狭間って、認識は出来ていてもその正体は謎に包まれていて、よく分からないんですけど、今回の事件で次元の狭間に何者かが関与している可能性が高くなったため、本格的に調査を進めることになったんです。
そして、表だって動く組織が異世界管理局に新設されて、わたしが出向することになりました。
<<イリヤ視点>>
お父様がお客様を連れて帰ってきました。
可愛い女の子です。すぐに仲良くなりましたよ。
まだ10代くらいに見えます。
わたしもまだ見た目は20歳くらいなので妹が出来た感じです。
食事やお茶の趣味も合うみたい。
アースって星は文明も進んでいて食べ物もバラエティーに富んでいるってお父様が行ってたから、興味津々だったけど、お父様はああんまり料理が得意じゃないから作り方までは分からないのよね。
ユウコちゃんも料理はあんまり得意じゃないみたいだけどお菓子作りは結構得意だって言ってた。
一緒にお菓子や料理を作って女子会を楽しみたいわ。
<<マサル視点>>
ユウコさんを連れて帰るとイリヤが妹が出来たみたいってはしゃいでた。
ユウコさんも嬉しかったみたいで、まるで本当の姉妹のようだ。
リズやランス、セラフもその光景に目を細めている。
ユウコさんも中学生でこちらに来て心細かったんだろう。
本当に楽しそうだな。
「ユウコちゃん、今どんなところに住んでるの?」
「別の世界にマンションを一室借りてもらって独り暮らしです。」
リズの質問にユウコさんが寂しそうに答える。
「まあ、それじゃあここに一緒に住まない?ユウコちゃんなら大歓迎だわ。」
「そうよ、ここに一緒に住めばいいじゃない。ねえ、そうしよう。」
「リザベートさん、イリヤさん、ありがとうございます。本当に嬉しいです。」
目に涙を溜めながら最高の笑みを浮かべたユウコさん。
「よし、じゃあイリヤ、セラフさん、ユウコさんの部屋と生活に必要な準備を頼んだよ。」
「「はい。」」
こうしてユウコさんは俺の家に同居することになったのだ。
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